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【最新2019年版】犬と人間の年齢換算式

 犬の年齢を人間の年齢に換算するときの新しい公式が発見されたと話題ですが要注意です。この公式は平均寿命12歳のラブラドールレトリバーを想定したものであり、すべての犬種に当てはまるかどうかの検証はまだ行われていません。とは言え、とても気になるので原文をわかりやすく解説します。

犬と人の年齢換算式・最新2019年版

 犬の年齢を人間の年齢に換算するときの新たな公式を発表したのはカリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の遺伝学研究チーム。人間において再現性のある加齢の指標として確認されているDNAメチル化と呼ばれる現象が、人間と生活環境を共にすることが多い犬にも応用できるかどうかを確認するため、ラブラドールレトリバーを対象とした大規模な調査を行いました。専門用語の意味は以下です。文中で分からない部分があったらご参照ください。
専門用語解説
  • DNAメチル化DNAメチル化(DNA methylation)とはDNA中のCpG(シトシン-グアニン-ジヌクレオチド)と呼ばれる部位でだけ炭素原子にメチル基が付加する化学反応のこと。メチル化は動物種の最大寿命に左右され、脊椎動物全般の加齢の指標としても用いられる。
  • エピジェネティック時計エピジェネティクス(epigenetics)とは後天的な要因がDNAの塩基配列を変えることなく遺伝子を制御して表現型を変化させること。エピジェネティック時計と言った場合は、ヒトの体内においてDNAメチル化が老化の指標になる現象を指す。数百万はあるCpGのうち500未満(80~300)を調べることで加齢の度合いを予測することができる。
  • バイサルファイト・シーケンシングDNAをバイサルファイト(亜硫酸水素塩)で処理すると、メチル化されたシトシンはそのまま残り、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換されるという性質を利用した解析法。検体とするDNA量が少なくても、たくさんのCpG部位を解析できるという特徴を持つ。
  • シンテニーシンテニー(synteny)とはある特定の遺伝子ブロックが、異種動物が保有する相同染色体上の近い部位に集中する現象。例えばマウスの第一染色体で見られる遺伝子ブロックの多くが、ヒト第一染色体でも見られるなど。分岐して間もない動物ほどシンテニーも多く見られる。
 調査対象となったのは生後数ヶ月齢から16歳までのラブラドールレトリバー99頭とその他5頭からなる合計104頭。人間を含めた哺乳動物間で見られるシンテニーに焦点を絞り、中に含まれるDNAのメチル化を「シンテニー・バイサルファイト・シーケンシング」(SyBS)と呼ばれる手法で解析しました。そして人間と共通する54,469ヶ所のCpGを、1歳から103歳までを含む320人のデータと比較したところ、かなりきれいな対応関係が確認されたといいます。この関係性は特に若い頃(犬が産まれてから生後6ヶ月齢まで)と年老いた頃(ラブラドールレトリバーに限って言うと12歳以降)において顕著でした。
 犬と人間との間でDNAメチル化のきれいな対応関係が見られたことから調査チームは、犬の老化の度合いを推し量る公式として以下を提唱しています。「LN」とは自然対数、犬の年は月齢ではなく年齢です。
LN(犬の年齢) × 16 + 31=人間の年齢
 この公式を利用してラブラドールレトリバー(平均寿命12歳)と人間(平均寿命70歳)の年齢対応表を作ると以下のようになります。ただし1ヶ月齢は人間の年齢がマイナス値(-8.76歳)になるため、2ヶ月齢から記載してあります。 犬と人間の加齢速度対応グラフ
犬の年齢人の年齢犬の年齢人の年齢
2ヶ月齢2.338歳半65.24
3ヶ月齢8.829歳66.16
4ヶ月齢13.429歳半67.02
5ヶ月齢16.9910歳67.84
6ヶ月齢19.9110歳半68.62
7ヶ月齢22.3811歳69.37
8ヶ月齢24.5111歳半70.08
9ヶ月齢26.4012歳70.76
10ヶ月齢28.0812歳半71.41
11ヶ月齢29.6113歳72.04
1歳31.0013歳半72.64
1歳半37.4914歳73.22
2歳42.0914歳半73.79
2歳半45.6615歳74.33
3歳48.5815歳半74.85
3歳半51.0416歳75.36
4歳53.1816歳半75.85
4歳半55.0717歳76.33
5歳56.7517歳半76.80
5歳半58.2818歳77.25
6歳59.6718歳半77.68
6歳半60.9519歳78.11
7歳62.1319歳半78.53
7歳半63.2420歳78.93
8歳64.2720歳半79.33
Quantitative translation of dog-to-human aging by conserved remodeling of epigenetic networks
Tina Wang, Jianzhu Ma, Andrew N.Hogan, Samson Fong et al., bioRxiv(2019), DOI:10.1101/829192

DNAメチル化は哺乳動物共通の現象

 調査チームは人間との比較と合わせ、犬のメチル化と133匹のマウスのメチル化とを比較しました。その結果、人間ほどではないものの同じ変化傾向を見せたといいます。また犬、ヒト、マウスに共通するオーソロガス遺伝子(動物種は異なるものの染色体上の同じ座を占めている遺伝子)を調べたところ、394の遺伝子において3種共通のメチル化が確認されたとも。さらにこれらの遺伝子が持つ機能を調べたところ、主として発達に関係した5つに集約されることが判明したといいます。これらは同時に、哺乳動物が保有するDNAシーケンスの中において最も原型を保ったまま保持されているモジュールでもありました。最初の4つは加齢とともにメチル化が増加する遺伝子群、最後の1つは加齢とともにメチル化が減少する遺伝子群で、カッコ内は遺伝子の数です。
哺乳動物共通のメチル化遺伝子群
  • 身体の解剖学的発達1群(117)
  • 身体の解剖学的発達2群(69)
  • 白血球の分化と核酸の代謝(144)
  • 神経上皮細胞の分化(5)
  • シナプスの集合と調整(18)

年齢換算公式はまだ未完成

 マウスでも犬でも人間でも見られるDNAのメチル化。哺乳動物に共通したこの現象を応用すれば、これまで漠然と「犬の年齢 × 7=人間の年齢」とされてきた公式もアップデートされそうです。しかしまだ疑問も残されています。
 一般的に哺乳動物は体が大きくなればなるほど寿命が延びるとされています。例えばネズミの寿命が2~3歳であるのに対しゾウのそれは60~70歳などです。例外は犬で、体が大きくなればなるほど寿命が縮むという逆転現象が確認されています。一般的な解釈は「骨肉腫鼓腸など大型犬種で多い疾患によって平均寿命が縮んでいる」というものですが、正確なメカニズムに関してはよく分かっていません。 小型犬より大型犬の寿命が短い理由は無酸素系エネルギーのせい?  今回得られた新たな年齢換算公式を、平均寿命が9歳(AKC基準)のグレートデンに当てはめてみると、人間の年齢で66歳という比較的早い段階で死ぬことになってしまいます。こうした早死にが大型犬種に多い致命的な疾患によって生じるのか、それとも大型犬種の加齢速度がそもそも早いから生じるのかに関しては、今回の調査においても過去の調査出典資料:Thompton, 2017においても十分な検証がされていません。
 「LN(犬の年齢) × 16 + 31=人間の年齢」という公式はわかりやすくてすぐにでも使いたくなりますが、もう少し多種多様な犬種を対象とした大規模な調査を行わないと、すべての国のすべての犬種に当てはまる万能式とは言えないでしょう。この点に関しては調査チーム自身も認めています出典資料:Science Alert。具体的にはラブラドールレトリバー(平均寿命12歳)よりも平均寿命が短い大型犬種、そして逆に平均寿命が長い小型犬種を対象とした大規模なDNAメチル化の調査が必要です。
ひょっとすると体の大きさによってメチル化の速度が違うなどという驚きの新事実が発見されるかもしれません。犬と人の年齢換算表に関しては以下のページもどうぞ。犬の老化はいつから始まる?