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犬は年齢が若いほどマザリーズ(赤ちゃん向け言葉)によく反応する

 様々な年齢層に属する犬を対象とした調査により、犬が若いほど人間が発するマザリーズ(赤ちゃん向け言葉)によく反応することが明らかになりました(2017.1.12/アメリカなど)。

詳細

 マザリーズ(motherese)とは、成人が赤ん坊に接したとき自然と口をついて出てくる赤ちゃん向け言葉のこと。特徴は「高い声」、「ピッチの頻繁な変動」、「スローテンポ」、「母音の明確な発音」などです。
マザリーズ(motherese)
 以下でご紹介するのは「高い声」、「ピッチの頻繁な変動」、「スローテンポ」などを特徴とする赤ちゃん向け言葉です。単純な言葉を高い声で繰り返し反復するといった定型が見られます。 元動画は⇒こちら
 人間がなぜこのような特徴的な声域を用いるのかに関しては、以下のような仮説が提唱されています。
マザリーズ仮説
  • ベビースキーマ仮説対象が有しているベビースキーマの度合いによって養育本能が刺激され、自然と声のピッチが上がってしまうというもの。ベビースキーマが弱まるにつれてマザリーズも自然に消えていく。ベビースキーマとは動物学者コンラート・ローレンツが提唱した考え方で、「かわいい」とか「養育したい」という衝動を呼び覚ます引き金のこと。具体的には丸い顔、大きな目、広い額、小さな鼻と口など。
  • 学習促進仮説赤ん坊の言語習得を促進するため、高い声で注意をこちらに向け、母音と子音の発音を明確にして聞き取りやすくさせているというもの。子供が言語を習得するにつれてマザリーズも自然に消えていく。
 アメリカ、フランス、イギリスからなる共同調査チームは、飼い主がペットに対して発するペティーズ(petese)と呼ばれる特徴的な話し方が、赤ん坊に対するマザリーズに極めて似ていることに着目し、人間と犬を用いた検証実験を行いました。

犬に対する人間の話し方

 子犬(1歳未満)、成犬(1~8歳未満)、老犬(8歳以上)の写真を30枚ずつ用意し、それぞれの写真の前で30人の女性(17~55歳)が事前に決められたセリフ(いいこですねぇ!・おいで!など)を発する様子を記録しました。また同時に、調査員に対して話す時の様子も記録し、得られたデータを17の音声学的な項目に分けて分析しました。その結果、以下のような事実がわかったといいます。
犬の写真に対する女性の発声パターン
  • 対象が人間と犬とでは話し方が変わる
  • 17の音声学的な特性のうち11項目は、言葉を発する状況によって大きな影響を受ける
  • 犬に対して話しかけるときはピッチが高くなり(声が高くなり)、ピッチのバリエーションが時間とともに増える
  • 犬に対して話しかけるときはハーモニシティ(調波成分と雑音成分の比率)が高くなる
 とりわけ子犬に話しかける時のピッチの高まりが顕著で、成犬に話しかける時よりも11%、老犬に話しかける時よりも13%、人間に話しかける時よりも21%増加したといいます。

人間向けの言葉と犬向けの言葉

 犬たちが「人間向けの言葉」と「犬向けの言葉」を区別して異なるリアクションを見せるかどうかを確かめるため、2015年12月から2016年3月の期間、ニューヨーク・マンハッタンにある動物保護施設内に実験室を設けて調査を行いました。調査対象となったのは、施設内に保護されている2~5ヶ月齢の子犬10頭と13~48ヶ月齢の成犬10頭。犬たちを1頭ずつ実験室内(3×4m)に導き入れ、事前に録音された人間の言葉を部屋の隅に置かれたスピーカーから流しました。再生のバリエーションは「子犬に対する話し方30秒間」と「人間に対する話し方30秒間」です。その結果、犬たちのリアクションに以下のような違いが見られたと言います。
犬による話し方の聞き分け
  • 10頭中9頭の子犬では、人間に対するよりも子犬に対する話し方に敏感に反応した
  • 成犬と老犬合計20頭のうち、子犬に対する話し方に反応したのは11頭だけ
 「敏感に反応」とは、スピーカーに対して素早く近づく、スピーカーに頻繁に視線を向ける、スピーカーの近くに長くとどまるなどです。1歳未満の子犬のほとんどが「犬向けの話し方」に敏感に反応したのに対し、1歳以上の成犬ではおよそ半数がノーリアクションでした。

成犬向けの言葉と子犬向けの言葉

 犬たちが「成犬向けの言葉」と「子犬向けの言葉」を区別して異なるリアクションを見せるかどうかを確かめるため、2016年9月から10月の期間、フランス国内の家庭で飼われている3~8ヶ月齢の子犬10頭を対象とした調査を行いました。子犬たちはサンエチエンヌにある実験室内に入れられ、ニューヨークで行われた調査と同じ要領で、事前に10人のフランス人女性から録音した音声データを聞かされました。再生パターンは「子犬に対する話し方30秒間」と「成犬に対する話し方30秒間」です。
 声に対する子犬たちのリアクションを、事前に決められた11の項目に分類して細かく分析しましたが、人間の発する言葉が成犬向けだろうが子犬向けだろうが、明確な違いは見つかりませんでした。この事実から、「成犬に対する話し方よりも子犬に対する話し方により敏感に反応するという傾向は見られなかった」という結論に至りました。
Dog-directed speech: why do we use it and do dogs pay attention to it?
Tobey Ben-Aderet, Mario Gallego-Abenza, David Reby, Nicolas Mathevon Proc. R. Aoc. B; DOI: 10.1098/rspb.2016.2429. Published 11 January 2017

解説

 ペットの飼い主のうち、およそ80%は自分のことを親だとみなしているそうです。確かにSNSでは自分のことを「パパ」や「ママ」と呼称している人を多く見かけます。また出産未経験の女性を対象とした調査では、子供と犬の写真を見せられた時、脳内の同じ部位が活性化するといいます。こうした事例から考えると、ペットを愛好する人の頭の中では、人間の子供とペットとが同等に扱われているのだと推測されます。人間の赤ん坊に対するマザリーズとペットに対するペティーズが酷似してしまうのは、無理からぬ事なのでしょう。

人の声のピッチはなぜ変わる?

 マザリーズにしてもペティーズにしても、声のピッチの変化は「ベビースキーマ仮説」と「学習促進仮説」の両方が作用しながら現れるものと推定されます。
 ベビースキーマ仮説によると、対象に含まれる「かわいさ」が成人の養育衝動を引き起こし、自然と声域が変わるとされています。例えば以下はベビースキーマの度合いを変えた犬の写真ですが、右側の子犬を見て心の中で「かわいい!」と感じながら、低いトーンで話すことには確かに困難を覚えます。可愛いものに接した時のテンションがそのまま音声に反映されるというメカニズムが、人間の中には備わっているのかもしれません。その最たる例がマザリーズやペティーズにおける「高い声」や「スローテンポ」といった特徴だと考えられます。 ベビースキーマ(幼児図式)を含んだ子犬の顔と含まない成犬の顔  一方、学習促進仮説によると、対象の知的能力に合わせて発話者の声域が変わるとされています。具体的には、1歳未満の赤ん坊、片言の外国人、認知能力が衰えた介護施設の老人などです。こうした人たちと対峙した時、低いトーンを用いて早口で話すことには確かに抵抗を覚えます。相手の言語能力がそれほど高くないと判断される場合、母音と子音の区別を明確にしたり声のピッチを高めるなどして、無意識的に相手が聞き取りやすいように調整しているのかもしれません。それが結果的に「高い声」や「スローテンポ」につながっているのだと考えられます。

声のピッチと犬の反応

 1歳以上の成犬や老犬よりも1歳未満の子犬の方が「犬向けの言葉」(ペティーズ)に対してよく反応してくれるようです。犬や狼は仲間同士や子獣に対し高いピッチを用いるといいますので、子犬の中には高いピッチに対して反応する先天的なメカニズムが備わっているのかもしれません。ちなみに人間の赤ん坊も、生後7週齢の時点ですでに、大人に対する話し方よりも子供向けの話し方に対する偏好を示すといいます。
 一方、成犬や老犬は言葉に含まれるピッチの変化にあまり反応してくれませんでした。上記したような子犬に特有の反応メカニズムが弱まったという可能性はあるでしょう。また2016年に行われた調査により、犬は声のトーンと意味を別々に処理しているという可能性が指摘されています(→詳細)。成長とともに人間の言葉を少しずつ覚えた結果、言葉の意味を処理する脳内領域が活性化し、その反動として声のトーンに対するリアクションが薄くなってしまったのかもしれません。
 とはいえ、成長した犬が全くノーリアクションになってしまうというわけではなく、見知らぬ人間よりも飼い主の声に対する反応性が良いとされていますので、もし音声サンプルの中に飼い主の声が混じっていたら、テスト結果は全く別物になったと考えられます。 指示を出す時の飼い主の機嫌が犬の反応性を変える