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アメリカンヘアレステリアの無毛遺伝子が解明される

 2013年、AKCに公認されたアメリカンヘアレステリアの無毛に関わっている遺伝子は、チャイニーズクレステッドのものとは別物であることが判明しました(2017.1.11/アメリカ)。

詳細

 18世紀、ヨーロッパから北アメリカに輸入された「Feists」という名のテリア犬種にビーグル、ミニチュアピンシャー、イタリアングレーハウンドといった犬種をかけ合わせ、「ラットテリア」という新犬種が作出されました。そして1972年、この「ラットテリア」の中で、たまたま無毛状態で生まれてきた犬をもとにして作出されたのが「アメリカンヘアレステリア」だと言われています。上記2犬種は長らく同一と考えられていたことから、UKCでアメリカンヘアレステリアが公認されたのは2004年、AKCでは2013年と比較的最近のことです。 ラットテリアとアメリカンヘアレステリア  アメリカンヘアレステリアの無毛を作り出しているのは、同じく無毛で知られるチャイニーズクレステッドメキシカンヘアレスとは違う劣性遺伝子であることは知られていましたが、具体的にどの遺伝子が関わっているのかに関してはよくわかっていませんでした。そこでアメリカ・ヒトゲノム研究所の調査チームは、アメリカンヘアレステリアだけが持つと考えられる無毛遺伝子を特定しようと試みました。 チャイニーズクレステッドとメキシカンヘアレス  調査チームが11頭のアメリカンヘアレステリアを対象としたDNA検査を行ったところ、全頭において29番染色体上にある特定部分がホモ型(両親から同じ型を受け継いでいる状態)であることが確認されました。さらにそのうちの1頭を対象として他89犬種とゲノム比較を行ったところ、アメリカンヘアレステリアだけが保有しているホモ型の変異は合計3,994ヶ所あり、うちタンパク質の形成に影響を及ぼしていると考えられる部分が24ヶ所見つかったと言います。
 さらに調査チームは24ヶ所の怪しい変異部分のち、29番染色体のホモ型リージョン4.8Mb地点に含まれていたフレームシフト欠失変異に目をつけ、解析を進めました。その結果、欠失しているのは29番染色体に含まれるSGK3遺伝子中の4塩基(TTAG)であることが明らかになったといいます。確認のため12頭のアメリカンヘアレステリア、および4頭のラットテリアを対象としたシークエンスを行い、29番染色体で見られた欠失変異の有無を確認した所、すべてのアメリカンヘアレステリアでホモ型の変異が確認されたのに対し、ラットテリアの中で同様の変異を保有しているものは1頭もいなかったと言います。
 こうした事実から調査チームは、アメリカンヘアレステリアの無毛を形成しているのは29番染色体に含まれる「SGK3遺伝子」の欠失変異(SGK3Val96GlyfsTer50)であるという結論に至りました。SGK3遺伝子における欠失変異は、アミノ酸の読み込み能力に影響を及ぼし、出生後における毛包の発達を阻害すると考えられています。この知見は、アメリカンヘアレステリアで見られる「出生後2ヶ月程度でまばらに生えていた被毛が脱落する」という特徴にぴったり一致するものです。
The bald and the beautiful: hairlessness in domestic dog breeds
Heidi G. Parker, Alexander Harris, Dayna L. Dreger, Brian W. Davis, Elaine A. Ostrander Phil. Trans. R. Soc. B; DOI: 10.1098/rstb.2015.0488. Published 19 December 2016

解説

 無毛犬種に関する歴史は古く、ダーウィンが著書「種の起源」(1859年)の中で歯と被毛が欠落したトルコの犬について記述しているくらいです。現在、アメリカの犬種協会であるAKCで公認されている無毛犬種、および公認団体は少ない(もしくは無い)ものの存在自体は確認されている無毛犬種をリスト化すると、以下のようになります。
世界の無毛犬種
 AKCで公認されている無毛犬種のうち、アメリカンヘアレステリアを除く3犬種の無毛遺伝子は共通すると考えられています。具体的には「FOXI3」と呼ばれる遺伝子の変異です。この遺伝子は出生前における外胚葉の発達を調整しており、被毛や歯の発育に影響を及ぼします。遺伝形式は半優性遺伝で、生まれてきた犬のうちホモ型が存在していないことから、両親から同一変異を1つずつ受け継いだ場合は致死性となり、生まれてくる前に死亡してしまうものと推測されています。これら3犬種の祖先となった犬は何らかの形で遺伝子を共有していると推測されていますが、そうした交雑が先史時代におけるベーリング海峡を介したアジアからの移住によってもたらされたものなのか、アジアと新世界の間で行われていた初期の頃の交易によってもたらされたのか、それとも1900年代初頭における無節操なブリーディングによってもたらされたものなのかははっきりしていません。 チャイニーズクレステッドは世界一醜い犬コンテストの常連  FOXI3遺伝子に変異を持った犬では無毛という大きな特徴の他に、歯列や耳の形状に異常を持っていることが多々あります。また人間の子供でFOXI3遺伝子の欠落変異を保有している場合、外耳の形成不全である小耳症を発症することが確認されています。アメリカのソノマで毎年開催される「世界一醜い犬コンテスト」においてチャイニーズクレステッドが常連であることにはそれなりの理由があるということです。犬の苦痛の根本原因は、遺伝子そのものというより、病気を引き起こす遺伝子を「標準」と定めて金儲けしている人間だと言えます。 犬種標準について