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調査を行ったのは、アメリカ・ハーバード大学・人間進化生物学の研究チーム。チームは食事内容が犬の遺伝子に与えた影響を検証するため、系統発生的に異なるペキニーズ、シャーペイ、柴犬、秋田犬、シベリアンハスキー、アラスカンマラミュートという6犬種の遺伝子を調査し、「GCKR」、「PHYH」、「AMY2B」と呼ばれる遺伝子のコピーナンバーを明らかにしました。結果は以下です。
食物の消化に関わる遺伝子
- GCKR GCKRは血糖値のコントロールに関わる遺伝子で、コピーナンバーが多いほど砂糖の消費が得意。
砂糖の消費が中等度と考えられるペキニーズ、シャーペイ、柴犬、秋田犬では「8.1±3.6」だったのに対し、砂糖の消費が少ないと考えられるシベリアンハスキー、アラスカンマラミュートでは「7.8±2.5」だった→両者の間に大きな差異はなし。 - PHYH PHYHは反芻動物の肉や魚に含まれるフィタン酸の消化に関わる遺伝子で、コピーナンバーが多いほど肉類の消費が得意。
フィタン酸の消費が多いと考えられる柴犬、秋田犬、シベリアンハスキー、アラスカンマラミュートが「16.2±7.1」だったのに対し、フィタン酸の消費が少ないと考えられるペキニーズ、シャーペイが「15.5±5.4」→両者の間に大きな差異はなし。 - AMY2B AMY2Bはデンプンの消化に関わる酵素アミラーゼを作り出す遺伝子で、コピーナンバーが多いほどデンプン(穀類)の消費が得意。
シャーペイ「11.1±2.7」、ペキニーズ「10.7±1.7」、柴犬と秋田犬「6.1±5.0 」、シベリアンハスキー「7.8±3.9」、アラスカンマラミュート「6.1±5.0」。コピーナンバーを10以上保有している個体数が、デンプンの消費量が多い犬種では74%だったのに対し、デンプンの消費量が少ない犬種では33%にとどまった。デンプンの消費量が多いと推定されている犬種間ではコピーナンバーの差異が小さかったのに対し、消費量が少ないと推定されている犬種間では差異が大きかった→犬種間で統計的に有意な差あり。
AMY2Bへの正の選択圧
- コピーナンバー数が少ない狼と交雑した可能性が少ない
- AMY2Bを含有する遺伝子がとりわけ不安定で、突然変異を起こしやすいという証拠はない
- シャーペイとペキニーズは、6犬種の中で遺伝的に最もかけ離れているにもかかわらず、AMY2Bのコピーナンバーに関しては最も近かった。この事実は、系統発生がデンプンの消化能力に影響を及ぼしたのではなく、その犬種がどのような食事をとってきたかという歴史が影響を及ぼしていることを示す
- 収斂進化
- 異なる種に属する動物が、同じ問題に対して同じ解決法で対処した結果、同じ特質を獲得する現象のこと。例えば、イルカとペンギンという全く異なる動物が、「水中で暮らす」という共通の問題に対し「ヒレを持つ」という共通の方法で対処するなど。