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犬の気管虚脱に関する最新情報

 ガチョウの「ガーガー」という鳴き声に似た呼吸音が特徴で、小型犬に多いとされる「気管虚脱」に関する最新情報が公開されました(2016.1.22/アメリカ)。

詳細

 獣医学専門雑誌「Journal of Small Animal Practice」の2016年1月号の中で、小型犬に多い呼吸器系疾患「気管虚脱」(きかんきょだつ)の特集が組まれ、最新情報に基づいた総括が行われました。筆者は「すべての犬に共通するベストな治療法は存在しない。その犬の症状やプロフィールに合わせた治療計画を立てることが重要である」としていますので、内容は参考程度にとらえておいてください。簡潔にまとめると以下のようになります。 犬の気管虚脱 Canine tracheal collapse

気管虚脱の病態生理

 「気管虚脱」とは、気管の外側を囲っている気管軟骨のグリコサミノグリカン、グリコプロテイン、コンドロイチン硫酸が減少し、強度が足りなくなって管状の気管がぺちゃんこになってしまった状態。25%の犬では生後6ヶ月で最初の症状を示すため、遺伝的要因が強く疑われる。遺伝以外の要因としては、気道の炎症、慢性気管支炎、喉頭麻痺、呼吸器系の感染症、肥満、気道挿管、背側気管粘膜と環状靭帯のエラスチン線維変性など。
 患犬の多くは小型犬で、1/3~2/3がヨークシャーテリアとされる。その他の犬種としてはミニチュア(トイ)プードルパグマルチーズチワワポメラニアンなど。性別による差は無い。猫や大型犬は気管虚脱を示さないことから、小型犬に特有の何らかの要因があるものと推測される。45~83%では右側中部と左頭側部の気管軟化症を伴う。

気管虚脱の症状・診察

 症状は「ガチョウの鳴き声」と形容される発作性の乾いた激しい咳が特徴で、興奮、運動、食事などによって引き起こされる。多くは慢性型で、数週間から数ヶ月かけて徐々に悪化するものの、中には熱、興奮、ストレス、肺炎等の呼吸器系疾患を引き金として急に発症するものもいる。胸腔外気管(口に近い方)が虚脱している場合は、息を吸う「吸気相」で努力呼吸を要し、胸腔内気管(口から遠い方)が虚脱している場合は、息を吐く「呼気相」で努力呼吸を要することが多い。
元動画は⇒こちら
 首筋を診察する際は、咳を誘発してしまう危険性があるための慎重に行わなければならない。咳を主症状とする犬を対象とした調査では、虚脱がある犬のうち心雑音を示したのが17%だったのに対し、虚脱がない犬のうち心雑音を示したのはわずか2%だった。気管鏡は虚脱を視認するために有効な診察法だが、全身麻酔下で行うため、覚醒時の状態を確認することはできない。
 虚脱の度合いは4グレードに区分する。
  • グレード1→気管腔25%減少
  • グレード2→気管腔50%減少
  • グレード3→気管腔75%減少
  • グレード4→気管腔消滅

気管虚脱の投薬治療

 急性症状の場合は、取り急ぎ涼しい環境に連れて行き、酸素吸入を行う。重症例の場合はチューブを挿管して気道を確保する必要がある。症状が落ち着いたのち、優先的に行うのは投薬治療で、その目的は「炎症が咳を悪化させ、咳が炎症を悪化させる」という悪循環を断ち切ることである。71~93%では12ヶ月経過する間によくなり、50%では投薬量の漸減も達成できる。一般的に用いられる薬は以下。
  • 鎮咳薬
  • ステロイド
  • 気管拡張薬
  • 抗生物質
 また症状を軽減するため、以下の述べるような項目を投薬と並行して実践する。
  • 肥満の解消(ダイエット)
  • タバコの煙など、環境中にある刺激物質を極力なくす
  • 首輪ではなくハーネスを用いる
  • 心臓疾患や呼吸器系の感染症といった合併症を治療する
  • 短頭種気道症候群喉頭麻痺を併発している場合は手術の適用を考慮する

気管虚脱の管外リング治療

 症状がグレード2以上で、なおかつ投薬治療がうまくいかないときは外科手術を考慮する。行うタイミングとしては、6歳未満で行った方が予後が良いとされる。
気管虚脱に対して行われる外科手術の一種「管外リング」(C型)  管外リングは、気管の外壁に設置する輪状の装具で、気管の内径を確保して呼吸を楽にする効果がある。らせん形とC型リングがあるが、C型リングでは75~89%において良い結果が報告されている。しかし手術前後における死亡率が5%と高く、また20%程度は気管瘻孔形成を要したというデータもあることから、万能というわけではない。胸腔内気管にリングをはめ込むと高い確率で死亡するとされていることから、基本的に適用は胸腔外に限られる。しかし気管の上部にだけリングをはめると虚脱が再発することがあるため、一長一短である。胸腔内リングにしても胸腔外リングにしても、死亡率が5%と比較的高いことから、近年ではより安全な「管内ステント」にとって代わられつつある。

気管虚脱の管内ステント治療

気管虚脱に対して行われる外科手術の一種「管内ステント」  管内ステントはステンレスやニチノールでできたステントと呼ばれる装具で、気管内に送り込み、そこで膨らませることによって内径を保つことができる。切開を必要とする管外リングに比べて侵襲性が小さく、術後すぐに症状の改善を確認できるのがメリット。
 適切なサイズを選ぶこととりわけ重要で、小さすぎると気管内で移動してしまうし、大きすぎると血流が阻害されて気管壁の組織が壊死してしまう。かつてはサイズのミスマッチが30%だったが、近年は11%まで低下している。過去の報告では、ステンレススチール自動拡張型ステントの75~90%で症状が改善したとされている。またニチノール自動拡張型ステントでは、12頭中10頭で症状が改善し、そのうち9頭は術後1年生存し、7頭は2年生存した。 ステント挿入前後における気管のレントゲン写真  デメリットとしては、何度も繰り返し伸縮を繰り返していくうちに金属疲労が起こり、ステントが破損してしまうという点が挙げられる。破損してしまった場合は、その部位に対し保護ステントを入れるという方法もあるが、難易度が高いため管外リングで代用されることも多い。ステントによる副作用としては、組織と擦れ合うステントの末端部分において、28~33%で炎症性組織が形成されるという報告がある。