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「強迫神経症」の重症度を決定している候補遺伝子が判明

 100頭近いドーベルマンを対象とした遺伝子調査により、無意味な行動を病的に繰り返す「強迫神経症」の重症度を決定している候補遺伝子が明らかになりました(2016.4.25/アメリカ)。

詳細

 「強迫神経症」(強迫性障害)は、無意味な反復行動や精神的な不快感を主症状とする精神疾患の一種で、人間に発症した場合は「強迫神経症」(OCD)、犬に発症した場合は「イヌ強迫神経症」(CCD)などと呼称されます。過去に数千人の人間を対象として行われた遺伝子調査では、他の疾患との混同、社会的な非難、プライバシーの問題、遺伝子の複雑さといった障壁により、病気を引き起こしている原因遺伝子を特定することはできませんでした。そこで今回の調査を行ったアメリカの研究チームが目をつけたのが「ドーベルマン」です。1800年代後半に作出されたこの犬種は、作業犬や番犬といった特質を強調するよう選択繁殖された結果、高い身体能力や鋭い監視能力を獲得しました。しかしその半面、少数の遺伝子プールを用いて個体数を増やしたため、祖先の種犬が偶然保有していた「イヌ強迫神経症」がいつの間にか固定されてしまったという歴史があります。
犬の強迫神経症(CCD)
 以下でご紹介するのは、ドーベルマンでよく見られる「フランク・サッキング」(Flank Sucking)と呼ばれる反復行動です。脇腹を吸うという無意味な行動を延々と続けます。なめすぎると被毛が抜け落ち、舐性皮膚炎と呼ばれる病的な状態になるので、早めの医療的介入が望まれます。 元動画は⇒こちら
 研究チームが当調査で目標としたのは、軽度の患犬70頭と重度の患犬24頭を比較することで、イヌ強迫神経症の重症度に影響を及ぼしている遺伝子を特定することです。「GWAS」と呼ばれる遺伝子調査を行って統計的に解析した結果、以下の遺伝子が関わっている可能性が浮上してきたと言います。
CCDの重症度を決める遺伝子
  • 34番染色体 「HTR3C」、「HTR3D」、「HTR3E」という3つの遺伝子が、神経伝達物質の一種「セロトニン」の伝達に関わる「5-HT3レセプター」を過剰に活性化することでCCDの重症度が増す。
  • 11番染色体 「CTXN3」、「SLC12A1」という2つの遺伝子が、前頭皮質の発達やGABAのシグナリングを阻害することでCCDの重症度が増す。
  • 16番染色体 「TENM3」という遺伝子が、「テニューリン3」と呼ばれるタンパク質の生成に影響を及ぼし、ストレス反応を生み出すHPA軸を介してCCDを悪化させる。ただし「34番」や「11番」ほど強い影響力は持っていない。
  • 7番染色体 「CDH2」と呼ばれる遺伝子座がわずかながら重症度に影響を及ぼしていると考えられる。
 研究チームによると、上記した遺伝子が先天的・後天的な影響を受け、互いに作用を及ぼしながら最終的にイヌ強迫神経症の重症度を決定しているとのこと。患者(患犬)によってセロトニン作動薬が症状を軽減したり、ストレスによって症状が悪化するといった現象も、原因遺伝子との関連で考えるとうまく説明できるといいます。今回得られた知見は、OCD患者やCCD患犬に対する効果的な治療計画を立てていく際に利用される予定です。 犬の強迫神経症 Genomic risk for severe canine compulsive disorder, a dog model of human OCD

解説

 人間の強迫神経症患者では、以下に述べるような合併症を多く発症することが知られています。人間と犬の強迫神経症が同一のメカニズムで発症しているのだとすると、犬にも様々な精神疾患が起こりうることになりますが、獣医学の領域では診断基準が無いため、見過ごされている可能性が大です。
OCDの合併症
  • うつ病
  • 双極性障害
  • トゥーレット症候群
  • 注意欠陥障害
  • パニック障害
  • 全般性不安障害
  • 統合失調症
  • 依存症
 犬でよく見られる病的な反復行動には以下のようなものがあります。こうした行動がストレスによって引き起こされている場合は「常同行動」、脳の器質的な変化によって引き起こされている場合は「強迫神経症」と区別して呼ばれることもあります。いずれにしても飼い主に求められるのは、犬にとってストレスフリーとなるような環境を整備することであり、セロトニンに働きかけるような行動薬理学的なアプローチは最後の手段となります。 犬の幸せとストレス
犬の病的な反復行動
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