トップ犬の健康と病気犬の寄生虫症犬のフィラリア症・要約版

犬のフィラリア症~症状・原因から治療・予防法まで

 犬のフィラリア症(犬糸状虫症)について原因、症状、検査法、治療法、予防法別にまとめました。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。このページはあくまでも「要約版」です。詳しい内容は各セクションの下にある「○○編」というリンクをご参照ください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

フィラリア症の原因

 犬のフィラリア症とは「犬糸状虫」(Dirofilaria immitis)と呼ばれる線虫の一種が肺の血管や心臓の中に寄生することで発症する病気のことです。「皮下犬糸状虫」(D. repens)によって引き起こされる症状もフィラリア症の一種ですが、日本にはほとんど生息していないため当ページ内では「フィラリア症=犬糸状虫症」として扱っていきます。
 犬糸状虫のライフサイクルは7~9ヶ月程度です。簡潔に説明すると「犬の血液に乗って循環するミクロフィラリア→血液を吸い取った蚊の体内で2回脱皮して第一期子虫(L1)からL3に成長→蚊が犬を刺したタイミングで再び犬の体内に入り脱皮→L3から2回脱皮して体内侵入から50~70日後にL5に成長→侵入から90~120日後には肺動脈に移動→5~6ヶ月目には生殖能力を備えた成虫になり生殖能力を獲得→血液の中にミクロフィラリアを放出」というサイクルを経て最初に戻ります。
 腸内に暮らしている「善玉菌」とは違い、フィラリアは宿主である犬に対して何一つメリットをもたらしません。勝手に家に上がり込み家賃を払わずに居座っている状態ですので、早急に退去してもらう必要があります。 より詳しくは→犬のフィラリア症・原因編

フィラリア症の症状

 フィラリア(犬糸状虫)の最も厄介な特徴は、肺の中を走っている細い血管の中に住み着いているという点です。虫の数が多くなればなるほど血管の目詰まりが起こり、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなってしまいます。そのようにして引き起こされる主な症状が以下です。
軽症~重症時の症状
L5は血流に乗じて末梢肺動脈にたどり着く
  • 軽症無症状 | 軽い咳
  • 中等度咳 | 運動不耐性(すぐにバテる) | 肺の異常音(喘鳴音・捻髪音)
  • 重症咳 | 運動不耐性(すぐにバテる) | 肺の異常音(喘鳴音・捻髪音) | 呼吸困難 | 心臓の異常音 | 肝臓の肥大(肝腫) | おなかに水が貯まる(腹水) | 糸球体腎炎 | 失神 | 死亡
 肺や心臓に寄生しているフィラリアの数が40匹を超えると、心臓の中に押し出された成虫によって心臓の動きが制限され、犬が突然ぶっ倒れてしまうことがあります。これが「大静脈症候群」(Caval Syndrome, ベナカバ症候群)です。 犬の大静脈症候群の模式図~血流に逆らってフィラリア成虫が後大静脈にまで侵入する  この状態に陥ってしまうと、虫による物理的な障害のため24~72時間以内に代謝性アシドーシスやDIC(播種性血管内凝固症候群)、貧血に併う心原性ショックによって死亡してしまいますので、できるだけ早く大静脈と右心房から寄生虫を外科的に除去しなければなりません。 より詳しくは→犬のフィラリア症・症状編

フィラリア症の検査

 犬がフィラリアに感染しているかどうかを診断する時は肉眼で確認できるさまざまな症状のほか、「血液中にミクロフィラリアがいるか?」と「血液中にフィラリア成虫の抗原があるか?」を確認することで行います。最終的な診断を下す際は、上記した検査結果にエックス線撮影、心エコー検査、血液検査、生化学検査の結果が加味されます。

ミクロフィラリアの検査

 ミクロフィラリアの検査をする際は、犬から採取した血液をスライドガラスに乗せて直接観察したり、いったん遠心分離機にかけて一箇所に集めてから100倍くらいに拡大して観察したりします。 直接塗抹観察法は安価で手っ取り早いがミクロフィラリアの検出率は低い  不思議なことに血液中を循環しているミクロフィラリアは時間帯によって量が増えたり減ったりします。一般的には夜間(午後10時~午前2時)に増えますので、お昼ごろに血液を採取するよりは夕方に採取したほうが検出率は高まるでしょう。
 遠心分離機を使わない場合の検査料金は料金は500~1,000円、使う場合の検査料金は1,000~2,000円程度です。

成虫の抗原検査

 体の中にフィラリアの成虫がいるかどうかを確かめる時は、メスの成虫だけが出す特殊な分子(抗原)を検出します。さまざまな検査キットが発売されていますが、共通している流れは「犬の血液を採取→検体(全血+抗凝固剤 or 血清 or血奨)を20℃前後まで温める→検査キットに検体を垂らす→5~10分待つ→判定マークを見る」というものです。 スナップハートワームRTを用いたフィラリア成虫検査  検査の精度は非常に高く、キットによっては100%に近いものまでありますが、重要なのは「100%」ではないという点です。検査で陰性(抗原が検出されない)と出ていても実際には体の中に成虫が潜んでいることもありますので、予防薬を飲んでいようといまいと、年に1回の頻度で検査を受けることが推奨されています。 より詳しくは→犬のフィラリア症・検査編

フィラリア症の治療

 肺の動脈や心臓の中にフィラリアの成虫が潜んでいるとわかった場合、なんとかして取り除かなければなりません。治療方針には大別して「消極的な治療」と「積極的な治療」とがあります。

消極的な治療

 「消極的な治療」とは、予防薬を投与して幼虫の発育を止めつつ、体の中にいる成虫の寿命が尽きて死んでくれるのを待つという治療方針のことです。「スロー・キル・プロトコル」とも呼ばれます。
 この治療法では成虫駆除薬による副作用の危険性や成虫の大量死による塞栓症のリスクが低いという反面、無期限で犬の激しい運動を制限しなければならないというデメリットがあります。また「様子見」をしている間に病変が進み、肺の動脈や心臓、肝臓などに治せないレベルの障害が残る危険性もあります。
 フィラリアに関する有識者組織「アメリカハートワーム協会」(American Heartworm Society)および「コンパニオンアニマル寄生虫評議会」(CAPC)は「予防薬による消極的なスロー・キル治療は推奨されない」という立場を表明しています。しかし最終的な決断は犬の重症度、飼い主の意見、担当獣医師の評価などを総合して行う必要があるでしょう。

積極的な治療

 「積極的な治療」とは体の中にいる成虫に働きかけて殺したり引きずり出してしまうという治療方針のことです。
 成虫駆除薬を用いる際は「ミクロフィラリアの駆除→成虫の駆除→絶対安静」という流れで3~4ヶ月かけて少しずつ成虫の数を減らしていきます。犬の重症度によって投薬を2回に分けるパターンと3回に分けるパターンがありますが、近年は3回投与というプロトコルが世界的に推奨されています。こうした推奨の背景にあるのは、2回投与における駆虫率が90%だったのに対し、3回投与における駆虫率が98%にまで高まったという臨床データです。
 一方「大静脈症候群」と診断された犬においては一刻も早く成虫を心臓の中から取り出さなければなりません。先述したとおり、虫による物理的な障害のため24~72時間以内に死んでしまう危険性がありますので一刻を争います。
 手術に際しては犬の頚静脈を切り開き、そこから特殊な鉗子を差し込んで心臓の中から強引に成虫を引き出します。しかし近年は「フレキシブルアリゲータ鉗子」が製造中止になったこともあり、すべての病院でこの治療を行えるわけではありません。 より詳しくは→犬のフィラリア症・治療編

フィラリア症の予防

 フィラリア症を予防する方法は「そもそも蚊に刺されないようにすること」と「蚊から幼虫を移されても成虫になる前にとっとと殺してしまうこと」に大別されます。

蚊を予防する

 蚊を予防するときにまず真っ先に行うべきことは、外飼いから室内飼いに切り替えることです。フィラリア症のリスクとしては「犬の体が大きい」「4~8歳」のほか「外で飼われている」ことが含まれていますので、外につなぎっぱなしにしている場合はぜひとも家の中に入れてあげてください。
 屋内においては「1度噴射するだけで24時間蚊を寄せ付けない」といった持続力のある殺虫剤が便利です。蚊取り線香や殺虫剤は犬の被毛に付いたり食器についたりしますので、もはや優先的に行う防虫対策ではありません。
 屋外においては蚊を寄せ付けなくするスポット薬や首輪などが市販されています。効果のほどはまちまちですので、「お守り」程度に考えておいたほうが現実的でしょう。 犬が喜ぶ部屋の作り方

幼虫の生育を予防する

 フィラリア予防のゴールドスタンダードは「幼虫の発育を阻止する」というものです。具体的にはマクロライド(12員環以上の大環状ラクトン)系薬剤を含んだ各種の予防薬を月に1回投与(経口 or 滴下)することで、蚊の体内から犬の体内に侵入した幼虫を駆除します。 日本国内で認可されているフィラリア予防薬の一覧  近年は、1度注射するだけで6ヶ月~12ヶ月間効果が持続するという商品も登場していますが、まだ副作用事例を蓄積している段階ですので、数十年前から使われているスタンダードなものを選んだほうが無難でしょう。 より詳しくは→犬のフィラリア症・予防編
まとめ
 このページで解説した内容はかなりザックリとした要約版です。より詳しい内容は各項目の下に貼ったリンク先をご参照ください。
 フィラリアは飼い主の心がけによって十分に防ぐことができる病気ですので、犬に不要な苦しみを与えないようしっかりと予防してあげましょう。