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犬のフィラリア症・症状編

 フィラリアに感染した犬ではさまざまな症状が見られます。よほど虫の数が多いとか、よほど激しい運動しない限り、たとえフィラリアに感染していても、数ヶ月から数年は何の症状も示さないことが少なくありません。飼い主が注意深く犬の変化をとらえてあげましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬における軽~重症の症状

 飼い主が確認出来るような症状が現れた時点で、病気がかなり進行して最終ステージに突入していることがありますので、以下のような徴候にはいち早く気づいてあげましょう。
軽度の症状
  • 無症状
  • 軽い咳
 以下でご紹介するのはフィラリア陽性と診断された犬が軽い咳をするときの動画です。人間で言うと、のどの奥にからまった痰(たん)を吐き出そうと少し強めに息を吐き出す動作に似ています。 元動画は⇒こちら
中等度の症状
  • 運動不耐性(すぐにバテる)
  • 肺の異常音(喘鳴音・捻髪音)
重度の症状
  • 呼吸困難
  • 激しい息遣い(パンティング)
  • 肺の異常音胸部を聴診した時、肺の伸縮に合わせてゼーゼーという空気が擦れる音(喘鳴音)やパチパチという髪を指先でねじったときのような音(捻髪音)が聞こえます。
  • 運動不耐性(すぐにバテる)運動すると肺動脈の血流量が増加するため容体は悪くなります。意外なことに肺動脈に寄生している虫の数と肺の血管抵抗との間には、ほとんど関連がありません。つまり虫の数が少なくても、激しい運動をすることによって肺動脈の血管抵抗を重度に上昇させて症状を悪化させることがあるということです。逆に虫の数が多くても、安静にしていれば小康状態を保つことがあります。
  • 心臓の異常音虫の寄生により心臓の収縮期圧が増加すると、右心室の拡張と心臓の肥大が引き起こされます。また慢性的な肺高血圧症は右心室の心筋不全や右心室の拡張期圧の上昇を引き起こし、うっ血性心不全を誘発します。こした病変は、三尖弁閉鎖不全症などの基礎疾患がある場合には、さらに顕著となります。
  • 肝臓の肥大(肝腫)うっ血性心不全により不可逆的な肝臓障害と肝硬変が起こります。
  • おなかに水が貯まる(腹水)右心(右心房+右心室)のうっ血性心不全に続き、腹膜滲出液が腹腔内に溜まっておなかが膨らんできます。例えば以下は1955年、秋田県の農家で飼育されていた秋田犬(メス・8歳)の写真です。腹水の貯留や皮下浮腫など重症末期の症状を見て取ることができます。この犬は撮影から10日後、息を引き取りました。重症末期のフィラリア症により腹水を示した秋田犬
  • 糸球体腎炎循環血液中の免疫複合体やミクロフィラリアの抗原が腎臓を通過することにより炎症が促され、糸球体腎炎につながる可能性があります。
  • 失神心臓の機能が悪化して脳に送られる血流量が減ると、一時的に意識を失うことがあります。
  • 幼虫の迷入フィラリアの幼虫が肺に向かって移動をする過程で道を間違い、中枢神経、眼球、大腿動脈、皮下組織、腹腔その他の部位に迷い込んでしまうことがあります。
  • 大静脈症候群虫数が5匹以下の中型犬の場合、フィラリアの最終生息地は右肺の中葉動脈や主肺動脈になります。しかし虫数がこれよりも増えると右心室にも侵入を始め、虫数が40匹を超えると大静脈症候群に進展します(→詳しくは大静脈症候群参照)。
  • 死亡心臓や肺の機能が悪化して死亡してしまうことがあります。またフィラリア成虫が自然死した後、ばらばらになった死骸が体中ににばらまかれると、血管が目詰まりを起こしたり炎症反応が引き起こされたりします。炎症によってできた血の塊が重要な血管に詰まってしまうと、血栓塞栓症を招き、臓器不全から時として死につながります。
 犬のフィラリア症は性別、犬種、被毛の長さに関係なく発症します。海外で行われた統計調査では4~8歳の年齢層、大型犬、外飼い犬の感染リスクが高いとの報告もあります。フィラリアが犬の体内に侵入してから成虫になるまで最低半年くらいかかるため、フィラリア症の発症最低年齢(月齢)は生後6ヶ月齢です。

放置したらどうなる?

 フィラリアの成虫が寄生することによって引き起こされる肺動脈内膜の肥厚、肺の線維化、心臓の肥大、肝硬変といった病変は、ひとたび発症すると元には戻りません。ですから何よりも予防が重要になります。
 フィラリアの成虫が寄生している場所は、体の中でかなり重要な肺の血管内部です。血管をつまらせたり炎症反応を引き起こしてしまうと、宿主である犬の健康に悪影響を及ぼします。腸内に生息している善玉菌のような「おなかの中に間借りしますけど家賃は払います」というもちつもたれつの関係ではなく、フィラリアが一方的に利益を得るだけの「片利共生」の関係ですので、なるべく早くこの不公平な関係を断ち切らなければなりません。 画像元→Heartworm Disease in Dogs 血管内のフィラリアは物理的な閉塞と炎症による二次的な変性によりダブルで血管にダメージを与える  形が回虫や条虫に似ていることから混同して「感染しても虫下しを飲めばいいんでしょ?」などと軽く考えていると、犬の体力がどんどんと落ちて寿命を縮めますので、成虫になる前に駆除する予防が大事です。

大静脈症候群の症状

 大静脈症候群(Caval Syndrome)とは、肺動脈に詰まったフィラリア成虫によって肺の圧力が急上昇し、血管内から成虫が押し出され、血流に逆らう形で右心室、右心房、三尖弁、後大静脈に流されて引き起こされる病態のことです。虫数が5匹以下の中型犬の場合、フィラリアの最終生息地は右肺の中葉動脈や主肺動脈になります。しかし虫数がこれよりも増えると肺動脈から右心室にも侵入を始め、虫数が40匹を超えると大静脈症候群に進展します。 犬の大静脈症候群の模式図~血流に逆らってフィラリア成虫が後大静脈にまで侵入する  大静脈症候群で見られる主な症状は以下です。運動時に出現することが多いですが、何の前触れもなく突然発症することもあります。
大静脈症候群の症状
  • 突然ぶっ倒れる(虚脱)
  • 食欲不振
  • 頻呼吸
  • 呼吸困難
  • 粘膜蒼白
  • ヘモグロビン尿症
  • ビリルビン尿症
  • 喀血
  • 腹水
 成虫が詰まった心臓の機能は障害され、突然の呼吸困難、心雑音、肝機能不全、腎機能不全、ヘモグロビン血症、ヘモグロビン尿症などが引き起こされます。治療を行わなかった場合、虫による物理的な障害のため24~72時間以内に代謝性アシドーシスやDIC(播種性血管内凝固症候群)、貧血に併う心原性ショックによって死亡してしまいますので、できるだけ早く大静脈と右心房から寄生虫を外科的に除去しなければなりません。

フィラリアは人に感染する?

 フィラリアは人間にも感染します。「D. immitis」「D. repens」「D. tenuis」のすべてが感染能力を持っていますが、日本国内においては「D. repens」と「D. tenuis」が存在していないか、仮に存在していたとしても極めて少数だと考えられているため、必然的に「D. immitis」(犬糸状虫)が主犯格です。
 フィラリアの幼虫が仮に人間の体内に侵入したとしても、うまく成育できないためそれほど重篤な症状を引き起こすという事はありません。たいていは皮膚の下にとどまってそのまま息絶えるか、肺の中にある細い動脈の中でひっそりと寿命を終えるかのどちらかです。
人のフィラリア症・種類と症状
  • 皮下にとどまった場合の症状組織の中をうまく移動できず、皮膚の下にとどまった場合は結節を形成します。フィラリア幼虫に対する免疫反応によって皮膚の線維化が進み、皮膚の上にポコッとした膨らみ(肉芽腫)ができます。皮膚が破れると中からウヨウヨと幼虫が出てくることもあり、なかなか不気味です。
  • 肺の動脈に着いた場合の症状フィラリア幼虫が運良く肺の中にある細い動脈にまで辿り着いた場合は、血管を塞いで炎症反応や肺梗塞を引き起こし、その近辺に肉芽腫のような病変を形成します。患者の75~95%は単一病変です。この病変はエックス線やCTスキャンで撮影した時、まるでコインのような円形の像として映ることから「コイン様病変」(銭形陰影)などとも言われています。肺への寄生例が最初に報告されたのは1952年、日本においても1969年からちらほらと症例報告があります。
  • 皮膚や肺以外の場合体内に侵入したフィラリア幼虫がそのまま迷子になり、すっとんきょうな場所に登場することがあります(幼虫迷入症)。報告があるのは眼球、後腹膜腔、脳、陰嚢などです。
 日本は小さな国ですが、フィラリアの感染症例に関しては金メダル級です。以下は世界各国で報告された犬糸状虫による人間の感染例です(Alice C.Y. Lee, 2010)。調査期間にばらつきはありますが、日本がずば抜けて多いことがおわかりいただけるでしょう。感染していてもほとんどの人は無症状ですので、実際の患者数は数字よりもはるかに大きいと推測されています。
人のフィラリア症例数
  • オーストラリア(1971~99)→2
  • ブラジル(1982~96)→24
  • 韓国(2000~02)→2
  • スペイン(1990~99)→8
  • タイ(1996)→1
  • アメリカ(1941~2001)→110
  • 日本(1964~2009)→145!
 人間の肺に感染した場合、虫の数が少ないため効果的な検査法がなく、麻酔をかけた上で経皮的生検などを行わなければなりません。肺がんや結核と間違われ、無駄で高額な検査や治療を施されることもしばしばです。犬のフィラリアを予防することは、人間への感染を防ぐという意味でも重要ですね。
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