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代替医療とは?

 「代替医療」(だいたいいりょう)とは、西洋医学を通常の医療としたとき、その代わりとして行われる健康増進を目的とした行為全般のことです。

代替医療のメリット

 西洋医学における治療法や薬が全ての症例に対して効果を発揮するわけではありません。そのような時、明確なメカニズムは不明ながらも、代替医療が奇跡的な改善をもたらすことがあります。また、「病気で苦しむペットのために何とかしてあげたい!」という飼い主の欲求に対する受け皿としての役割も重要です。西洋医学以外の治療法を試みることによって、「ペットのためにできる限りのことはした」という自負を強めておくと、犬や猫と死別してしまった際のペットロスを軽減する効果も期待できます。

代替医療のデメリット

 代替医療は、西洋医学を過度に軽視してしまう「医療ネグレクト」につながる危険性をはらんでいます。例えば、動物病院で処方される薬を飲めば改善するにもかかわらず、怪しげな手かざし療法を優先してしまうなどです。また、ネット上で散見される「ヘルニアが3日で改善した!」とか「ガンが治った!」といった奇跡的なエピソードばかり見ていると、代替医療に対して過剰な期待を抱くようになります。結果として、高い料金を支払って実際に施術を受けた際の失望につながるというケースもあるでしょう。

ホメオパシー

 ホメオパシーとは、体の自然治癒力を高める効果を持った成分を、極度に希釈した状態で投与し、病気の治癒をめざす思想・行為のことです。

人医学におけるホメオパシー

ホメオパシーで用いられるレメディいろいろ  ホメオパシーにおいて、希釈された成分を砂糖玉に練りこんだものは「レメディ」と呼ばれますが、希釈度は時に「1/10の60乗」という途方もない数字になるため、レメディの中に有効成分が1分子も含まれていないことも珍しくありません。しかしホメオパシー行為を行う「ホメオパス」と呼ばれる人々によると、「水が物質のパターンを記憶しているから大丈夫」なのだそうです。ホメオパシーで投与されるレメディ自体に毒性はありませんが、ホメオパシーを信奉するあまり、本来行うべき医学的な治療を怠ってしまうことがあります。これが「医療ネグレクト」であり、ホメオパシーがもたらす最も大きな副作用と見ることもできるでしょう。

獣医学におけるホメオパシー

 ホメオパシーは人に対してのみならず動物に対しても行われることがあります。しかしその評価に関しては、あまり芳(かんば)しいとは言えないのが現状です。
 ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。
 上記した文章は2010年、日本学術会議会長である金澤一郎氏が公にしたもので、一般的に「会長談話」(PDF)と呼ばれているものです。ホメオパシーをはっきり否定するスタンスを表明したこの「会長談話」に対し、以下に述べるような数々の団体が賛意を表明しています。
ホメオパシー否定団体
  • 日本医師会 / 日本医学会
  • 日本薬剤師会
  • 日本歯科医師会 / 日本歯科医学会
  • 日本獣医師会 / 日本獣医学会
 最後に挙げた「日本獣医師会 / 日本獣医学会」は2010年に連名で通達(PDF)を出しており、「ホメオパシーについては、どうか日本学術会議会長談話を改めて認識され、動物の保健衛生の向上に対する飼育者指導とともに、動物の診療に当たられていただくようお願いする」と強調しています。つまり「動物の診療にホメオパシーを持ち込むな」ということです。
 一方、「日本獣医師会 / 日本獣医学会」が否定的な意見を公言しているにもかかわらず、非常に多くの動物病院がホームページ上で「ホメオパシー」という言葉を使っていることもまた事実です。試しにインターネットで「ホメオパシー 動物病院」を検索してみてください。
 ペットにホメオパシーを受けさせるかどうかは、ひとえに飼い主の良識にかかっています。レメディが毒になることはないとしても、本来受けるべき医療を受けない「医療ネグレクト」がペットの健康を悪化させる危険性を有している点だけは、忘れてはならないでしょう。
バッチフラワー
 「バッチフラワー」(Bach flower)とは、植物が持つエッセンスを体内に取り込むことで、気分の改善を図ることを目的とした施術のことで、ホメオパシーの分派として考えられています。効果に関しては研究報告が山ほどあり、「プラセボ効果」、すなわち「本人の思い込みである」との意見が大勢を占めています。報告1報告2報告3

アロマテラピー

 アロマテラピー(or アロマセラピー)とは、植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を用いて、体調の改善を図る療法のことです。精油の使用方法としては、芳香分子を拡散させる芳香浴や、水に溶かしてつかる全身浴・部分浴、精油原液の皮膚への塗布、精油を植物油で希釈して行うオイルマッサージ、精油を口から取り入れる内服などがあります。

人医学におけるアロマテラピー

アロマテラピーでよく用いられるティーツリーオイル  精油にはたくさんの種類があり、それぞれに特有の効能も明らかになっています。しかしこうした情報の多くは、過去の経験から導き出した「ヤマ勘」であり、科学的な検証が行われたわけではありません。中にはティーツリーのように、積極的な研究の結果、ある程度の効能が確認されたものもありますが、使い方を間違うと副作用も起こりうるというのが実際のところです。具体的には、ティーツリーオイルの直接塗布による皮膚炎、経口摂取による急性中毒、酸化して生じた成分によるアレルギー反応などが報告されています。

獣医学におけるアロマテラピー

 精油がもつ負の側面は、何も人間だけに限ったことではなく、犬や猫といったペットにも関係があります。例えば以下は、2002年~2012年の10年間で、アメリカの「ASPCA Animal Poison Control Center」(中毒管理センター)に寄せられた、100%のティーツリーオイルが関わる中毒事故の統計データです。カウントされたのは、オイルと接したことが明らかなケースだけですので、潜在的な事故件数は数字に表れているより多いと考えられます。 Concentrated tea tree oil toxicosis in dogs and cats:
ティーツリーオイルの中毒事故
  • 犬=337頭
  • 猫=106頭
  • 使用された量=0.1~85ml
  • 意図的に用いられたケース=395件(89%)
  • 皮膚への塗布=221件(50%)
  • 経口摂取=67件(15%)
  • 塗布+経口摂取=133件(30%)
 中毒事故の内、9割近くが「意図的に与えた」となっていることから、人間に有効なら動物にも有効だろうという単純な思い込みが根底にあるものと思われます。人間と動物における皮膚からの吸収能は全く同じではないため、人間にとってはプラスになるものでも、動物にとってはマイナスになるというケースはままあります。アメリカに設置されている「PET POISON HELPLINE」で、ティーツリーオイルが有毒物質の一つとしてカウントされているのがその好例です。
 日本でも「ペットアロマ」といった呼称で、犬や猫に経口的、経皮的に精油を摂取させる施術が存在しています。しかし、まだまだ未知の部分も多いため、いきなり全幅の信頼を置くというわけにはいかないでしょう。

鍼灸

 鍼(はり)とは、「経穴」(けいけつ)と呼ばれる部位に微小な針を刺し、生体が本来持っている治癒力を最大限に高めようとする東洋医学における技術のことです。鍼の代わりにもぐさなどで熱刺激を与える場合は「灸」(きゅう)と呼ばれます。

人医学における鍼灸

 鍼灸の歴史は古く、少なくとも紀元前5世紀頃の中国には既に存在していたと言われています。日本においては、飛鳥時代(592~710年)に中国から伝わったと考えられており、現在は「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(通称:あはき法)により「はり師」、および「きゆう師」という国家資格が認められています。また世界においても「アキュパンクチャ」(acupuncture)という名で徐々にファンを増やしつつあります。基本的な理論は、経脈や絡脈といったエネルギーラインが体の中に存在しており、そのラインの中に点在している「経穴」(ツボ)という重要ポイントを外から刺激することで本来の健康を取り戻すというものです。
アピセラピー  ハチの針を施術に用いる「アピセラピー」(Apitherapy)というものがありますが、これは鍼とは全くの別物です。日本語では「蜂針療法」と訳されているものの、国家資格者が行う医療行為ではありません。

獣医学における鍼灸

 動物と鍼灸に関する研究は散発的に行われていますが、「効果があった」という結果と「効果がなかった」という結果が混在していることから、まだまだこれからの分野と言えそうです。鍼灸治療が適用されるのは、慢性痛の原因になりやすい「悪性腫瘍」(がん)、「椎間板ヘルニア」、「股異形成」、「変形性関節症」といった疾患です。
 日本におけるペット鍼灸は、日本伝統獣医学会などが中心となって症例の蓄積と認知度向上に努めています。またペット保険でも、鍼灸治療が保険でカバーされることもあり、徐々に市民権を得つつあるようです。しかしこの治療法を採用している動物病院自体がそれほど多くないため、治療を受けようとする場合は、長距離通院を余儀なくされることも少なくありません。
ペット鍼灸
 以下でご紹介するのは、犬や猫に対して行うペット鍼灸の様子を捕らえた動画です。 元動画は→こちら

漢方

 漢方(かんぽう)とは漢方薬を投与する医療行為のことです。薬効を持つ天然素材は「生薬」(しょうやく)、生薬を症状に合わせて選別・調合したものは「漢方薬」と呼ばれます。

人医学における漢方

漢方の原料となる生薬  漢方薬は基本的に、「四診」(ししん)と呼ばれる東洋医学独特の診察法を用いて、「証」(しょう)と呼ばれる患者の状態を把握することで処方されます。西洋医学的な診察が病気を引き起こしている部分を探っていくのに対し、東洋医学的な診察は体全体の調子を診るという点が特徴です。
 現在日本国内において、漢方薬の一部は医薬品の一種として扱われ、保険も適用されています。にもかかわらず、漢方薬の処方を専門とした「漢方医」という国家資格が存在してません。その結果、東洋医学に関する知識が完全とは言えない薬剤師や医師が、「一般用漢方処方の236処方」という形で処方するケースがまま見受けられます。こうした法的な不備を補うため、薬剤師には「日本薬剤師研修センター」や「日本生薬学会」、医師には「日本東洋医学会」や「日本臨床漢方医会」といった団体があり、東洋医学と漢方に関する知識を深めて和洋折衷を目指そうとする姿勢が見られます。

獣医学における漢方

 獣医療における漢方はまだまだ発展途上の状態です。「QUANPOW」(イスクラ産業)といった、ペットでも飲み込みいやすい動物用の漢方薬も作られるようになってきましたが、情報と経験の蓄積はこれからといったところでしょう。もし西洋医学的なアプローチがうまくいかず、飼い主がペットに対する漢方治療を希望する場合は、処方する病院がどの程度東洋医学に関する知識を持ち合わせているかが大きなポイントとなります。先述したように、たとえ東洋医学の知識がなくても、漢方薬自体は処方できてしまうという日本の現状は把握しておく必要があるでしょう。なお、獣医師の漢方に関する知識を高めることを目的とした団体としては、「日本獣医中医薬学院」や「日本ペット中医学研究会」や「日本伝統獣医学会」などが有名です。

カイロプラクティック

 カイロプラクティックとは、頭蓋骨や脊椎の並びを調整することにより、中に入っている脳や脊髄の調子を改善する手技のことです。「カイロ」はギリシア語で「手」、「プラクティック」は「技術」を意味しています。

人医学におけるカイロプラクティック

 人間に対して行われるカイロプラクティックには非常に多くの流派があり、徒手的に骨格のアジャスト(微調整)を行う「ディバーシファイド・テクニック」、アクティベータと呼ばれる特殊な機器を用いてピンポイントでアジャストを行う「アクティベータ・メソッド」、骨格の中でも特に脳脊髄膜のターミナルポイントとなっている骨盤と後頭部に着目した「仙骨後頭骨テクニック」(SOT)などがその代表格です。日本におけるカイロプラクターは国家資格とは認められておらず、施術に対して保険も効きません。極端な話、「今日からカイロプラクター!」と名乗ってしまえば誰でもなれる職業ですので、選ぶ側の知識と審査眼が問われます。

獣医学におけるカイロプラクティック

 獣医療におけるカイロプラクティックは、動物病院が補助的に行うというよりは、カイロプラクティック施術所が、人間のみならずペットにも行うという形で行われています。鍼灸や漢方と同様、西洋医学的なアプローチがうまくいかなかったときに考慮される、補助的な施術といえるでしょう。なお、人間を対象としたカイロプラクティックでも言えることですが、3日間のセミナーに参加して、関節をポキポキ鳴らすことだけを学んだような施術者は避けるようにして下さい。

マッサージ

 マッサージとは、皮膚や筋肉に圧を加えることにより、血液やリンパ液の循環の改善させる手技全般のことです。

人医学におけるマッサージ

 日本においては「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(通称:あはき法)があるため、国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」か「医師」の免許がない限り、人間を対象としたマッサージを職業とすることはできません。しかし現状は、「整体」、「カイロプラクティック」、「リフレクソロジー」、「タイ古式マッサージ」など、「あん摩マッサージ指圧」と大同小異の施術が看板だけを変えて溢れかえっており、もはや無法地帯と言っても過言ではない状況が続いています。

獣医学におけるマッサージ

 獣医療の分野におけるマッサージに、法的な規制はありません。様々な団体が、「ペットマッサージ」、「ペットセラピー」、「ドッグマッサージ」など、独自の表現と技術体系を設け、受講料を支払った人に対して資格の認可を与えています。
 マッサージがもたらす恩恵の中には、「自然治癒力を高める」ことや「病気の兆候を早期発見する」などがあります。ですから、施術を第三者に丸投げするのではなく、ちょっとしたコツを覚えた上で、飼い主自身が日常的にペットに対して行うことをお勧めします。 犬のマッサージ