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犬が低体温症に陥ったらどうする?~原因・症状から応急処置法まで

 犬が低体温症に陥った場合について病態、症状、原因、応急処置法別に解説します。不慮の怪我や事故に遭遇する前に予習しておき、いざとなったときスムーズに動けるようにしておきましょう。

低体温症の病態と症状

 犬の低体温症とは体温が平熱よりも著しく低くなり、体が正常に機能しなくなった状態のことです。凍傷が部分的な低温障害であるのに対し、低体温症は体全体の温度が下がることによって引き起こされます。平熱が37.5~39.2℃の犬においては、32~35℃が軽度、28~32℃が中等度、28℃以下が重度というのが大まかな目安です。低体温症に陥った犬では以下のような症状が見られます。
軽度の低体温症(32~35℃)
  • 沈うつ状態
  • 衰弱・元気がない
  • ブルブルふるえる(シバリング)
 以下でご紹介するのは体温が下がった犬で見られる自発的な骨格筋の震え「シバリング」(shivering)を捉えた動画です。動画の説明によると、雪を食べた後に急激に体温が落ちて震え始めたとのこと。体の表面を冷やすよりも体の内部を冷やした方が深部体温が下がりやすくなりますので、こうした現象が起こるのでしょう。 元動画は→こちら
中等度の低体温症(28~32℃)
  • シバリングが消えて筋肉の硬直
  • 心拍数が減る(徐脈)
  • 低血圧
  • 呼吸数と呼吸深度の減少
  • 意識の混濁
重度の低体温症(28℃以下)
  • 心音が聞き取れない
  • 呼吸困難
  • 昏睡
  • 瞳孔が開いたままになる(散瞳)
  • 凍死
 心血管系では心拍出量が低下して不整脈や低血圧が引き起こされ、血液の粘り気が増してドロドロになり、最悪のケースでは体中の至る所でランダムに血液凝固反応が起こるDIC(播種性血管内凝固症候群)を発症します。呼吸器系では呼吸数が減って呼吸が浅くなり、酸素不足から炭酸ガス過剰症、呼吸性アシドーシス、低酸素血症などが引き起こされます。上記したような様々な変化が最終的には中枢神経系に障害を及ぼし、知覚の鈍麻、意識障害、昏睡などが起こり、適切な治療が行われなかった場合はそのまま凍死に至ります。
 ドラマなどでは雪山で遭難した人の頬にビンタを食らわせ「眠っちゃいけない!」と呼びかけるシーンをよく見かけますが、低体温症に陥ると犬でもあのようなぼーっとした感じになってしまいます。

犬の低体温症の原因

 犬の低体温症の原因には以下のようなものがあります。。飼い主の心がけで予防できるものもありますでしっかり把握しておきましょう。

小さい体

 体が小さいと体重当たりの体表面積が大きくなり、体から逃げていく熱が多くなって低体温症に陥りやすくなります。
 「ベルクマンの法則」によると、体内での熱生産量はほぼ体重に比例するとされています。つまり体が大きければ大きいほど熱の産生量が大きいということです。また同時に体からの放熱量はおよそ体表面積に比例するとされています。つまり体表面積が大きければ大きいほど放熱量が大きいということです。両者をまとめると、寒い環境において体温を一定に保つためには、体を大きくして産熱量を増やすと同時に、体重当たりの体表面積を小さくすれば効率的ということになります。その好例がホッキョクグマです。
 以下は犬の体重別に見た体表面積と、体重1kg当たりの体表面積を一覧化したものです。 犬の体重と体表面積一覧リスト  例えば体重2kgのチワワでは「0.08平方m/kg」なのに対し、体重60kgのセントバーナードでは「0.026平方m/kg」という具合に、3倍近くの差があることがおわかりいただけるでしょう。セントバーナードに比べてチワワでは体重当たりの体表面積が劇的に大きいため、それだけ体温を失いやすい体質になっています。いつもプルプル震えているのはそのせいかもしれません。

新生子や老齢動物

 生まれたばかりの子犬や老犬では皮下脂肪が薄いため断熱性が弱く、放射によって体温がどんどんと外に逃げ出してしまいます。やせている人に寒がりが多いのと同じ原理です。また神経系が未熟だったり衰えているため、脳と体との連携がうまくいかず健康な成犬よりも保温や産熱能力が劣ってしまいます。さらに筋肉が未発達だったり弱っているため、骨格筋の震え(シバリング)による産熱がうまくいかず、低体温に陥りやすい状態になっています。

衰弱・負傷

 衰弱していたり負傷している犬においては、体の機能が傷口の治癒に向かってい集中しているため、効果的な保温や産熱ができない状態になっています。

冷たい気温に長時間

 たとえ健康な成犬であっても、冷たい気温に長時間さらされると保温能力や産熱能力が追いつかず、体温を大量に失って低体温症に陥ってしまいます。例えば雪国であるにもかかわらず、しっかりとした防風対策を行っていない犬小屋に冬の間つなぎっぱなしにされた犬などです。また冷たいプールや池に落ちたまま長時間救助が来なかったときなども危険です。 冷たい外気や水に長時間さらされると健康な成犬でも体温維持が難しい

持病

 何らかの持病を持っている場合、保温や産熱がうまくいかず低体温に陥ってしまうことがあります。例えば甲状腺機能低下症でチロキシンの分泌量が少なく体温が低いまま上がらないとか、視床下部の疾患で体温調節中枢がうまく機能しないなどです。

麻酔・手術

 麻酔で意識を失った状態だと、視床下部にある体温調節中枢や中枢からの司令を受け取る自律神経がうまく働かず低体温に陥ってしまうことがあります。また外科手術などで、大量の血液を失ってしまったような場合も体温の保持が難しくなり、低体温に陥りやすくなります。

犬の低体温症の治療・予防法

 犬の低体温症の治療法には以下のようなものがあります。病院に連れて行くまでの間にどのような応急処置を施すかによって回復の度合いが変わりますので、しっかりとイメージトレーニングしておきましょう。

低体温症の応急処置

 外の世界と犬の体との熱移動は「伝導」「気化」「対流」「放射」という4つのパターンによって行われます。低体温症に陥った犬に対する応急処置のポイントは、全てのパターンにおける体温の喪失をいち早く防ぐことです。
応急処置で体温の喪失を防ぐ
  • 伝導による体温喪失を防ぐ体温よりも冷たい物を体が接していると伝導によってどんどん体温が奪われてしまいますので、まずは体温よりも高い場所に犬を移動させます。体温より高いものを体に当てると、熱伝導によって体を温めることができますが、体の表面を急激に温めると血管が拡張し、本来温めるべき体の中心部から体の末端部の血液が移動して逆効果です。また急激な血圧の変化からショック状態に陥ることもありますので、むやみに温めないようにします。
  • 気化による体温喪失を防ぐ気化熱によって犬の体から体温を奪われることを防ぐため、犬の体が濡れている時はしっかりと拭き取ります。
  • 対流による体温喪失を防ぐ体温よりも冷たい空気が流れていると対流によってどんどん体温が奪われてしまいますので、空気の流れを遮断します。また体温よりも暖かい風を循環させ、対流によって逆に熱を体に送るようにします。ただしドライヤーの風を近くから当てるなど、体の表面を急激に温めると深部体温が逆に下がってしまったり、ショック状態に陥ってしまいますので控えるようにします。
  • 放射による体温喪失を防ぐ放射によって犬の体から外界に放たれる熱を少なくするため、犬に毛布などをかけて外に向かっていく熱の流れをシャットアウトします。
 上記したような応急処置が終わったら、犬の体温が安定するまで入院させます。重度の低体温症では致死性の心臓性不整脈を防ぐため、運動を最小限に抑える必要があるかもしれません。気道の確保と十分な酸素補給を行い、体の芯の部分が平熱に戻るまで様子を見ます。重度の低体温症の場合は温めた胃洗浄液、腹膜洗浄液、浣腸液、温めた輸液等を投与することもあります。

低体温症の予防法

 犬の低体温症は飼い主がしっかりと体温の管理を行っていれば多くの場合予防が可能です。発症原因を把握した上で、犬が最も過ごしやすい室内と屋外環境を整えてあげましょう。なお寒い環境下における犬の体温調整については以下のページでも解説してありますのでご参照ください。 犬の体温調整・寒い時

短毛種・小型犬への注意

 短毛で小型の犬ほど体温を失いやすく、それだけ低体温症にかかりやすい状態になっています。チワワやミニチュアピンシャーを連れて冬の散歩をする際には、ドッグウェアなどを着せた方が安全でしょう。 体重1kgあたりを対象面積が大きいチワワの方がセントバーナードよりも体温を喪失しやすいので注意が必要

寝床への注意

 冷たい地面や床に寝そべっていると熱伝導が起こって体温が吸収されてしまいます。腹部には太い血管が通っており、それだけ体温が奪われやすい場所ですので、寒い季節に冷たい場所に寝かせるのはやめておきましょう。例えば、屋外につなぎっぱなしにして犬小屋も与えない状態とか、犬小屋はあるけれども床に断熱材を敷いていない状態とか、ガレージに入れてあげたけれども毛布も何もない状態などです。

風への注意

 秋や冬になって吹く冷たい風が犬の体に当たると、対流によって熱が奪われ体温が下がってしまいます。長毛だったりダブルコートの犬では被毛が防寒具になって風を防いでくれますが、短毛だったりシングルコートで犬では、風が被毛の間をすり抜けて地肌に当たってしまいます。冬の間だけドッグウェアを着せるなどの配慮が必要でしょう。またドッグウェアは放射による体温の分散も同時に防いでくれます。

エアコンへの注意

 夏だからといって必ずしも低体温症の危険がないわけではありません。車の中や部屋の中でエアコンをきかせている場合は、冷たい風が犬の体に直接当たらないように配慮してあげましょう。また犬の体が濡れていると、エアコンの風によって気化熱も同時に奪われ、それだけ低体温症の危険性が高まりますので、被毛や地肌が濡れていないことを確認してあげましょう。

雨への注意

 雨が降っているときに散歩を強行したり、散歩の途中でにわか雨に振られた時などは犬の体が雨に濡れてしまいます。その状態で風が当たると気化熱によって体温を奪われ、低体温症に陥りやすくなってしまいます。夏ならばそれほど心配はありませんが、気温が急に低くなる秋から冬にかけては体温が急激に低下して大変危険です。天気予報をよく見てから出かけるとか、にわか雨に備えて折りたたみカサを用意するといった配慮が必要になるでしょう。

雪への注意

 雪が降る地域においては、雪が降っている時の散歩は避けた方がよいかもしれません。体に付着した雪は熱伝導によって犬の体温を直接奪います。また、溶けた雪が水になって地肌に付着し、そこに風が当たってしまうと気化熱によってさらに体温が奪われます。犬は雪が大好きですが、子犬や老犬では体内での熱産生(産熱)が劣っていますのでとりわけ注意するようにします。