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魚油(フィッシュオイル)~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「魚油」(フィッシュオイル)。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

魚油の成分

 魚油(ぎょゆ)とは魚を煮つめたときにできる煮汁の中から油だけを分離したもの。「フィッシュオイル」(fish oil)とも呼ばれ、原料としてはイワシ、サバ、スケソウダラなどが多く用いられます。
魚油の製造工程
 以下でご紹介するのは魚油の製造工程を収めた動画です。人間向けの製品としては魚油サプリメントなどがたくさん出回っています。 元動画は→こちら
 なお、日本国内における魚油(フィッシュオイル)の製造はレンダリング工場で行われます。これは魚を加工する過程で生じた膨大な量の不要部位から魚粉や魚油を生成する工場のことです。詳しい内容は「魚粉」の方で解説してありますのでご参照ください。

魚油は安全?危険?

 魚油を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのは魚油に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

多価不飽和脂肪酸

 多価不飽和脂肪酸とは二重結合を2つ以上含む脂肪酸のこと。魚油にはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸 (EPA)といったオメガ3脂肪酸が多く含まれています。
 人間を対象とした調査においては冠状動脈疾患に対して有効性が示されている一方、大量に摂取した際にはげっぷ、吐き気、鼻血、軟便といった有害事象が起こる危険性も指摘されています。
 人間と犬における多価不飽和脂肪酸の振る舞いはまったく同じではありません。オメガ3脂肪酸の犬に対する有効性に関しては以下のページで詳細にまとめてありますのでご参照ください。 犬にオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を与えると何がどう変わる?

水銀

 水銀は原子番号80の重金属の一種。蒸気、や有機水銀化合物の形で強い毒性を示し、脳や肝臓に障害を与えます。
 2003年、アメリカのマサチューセッツで、 市販されている魚油サプリメント5種類に含まれている水銀レベルのランダム調査が行われました。その結果、すべて検知不能レベル(0.006mg/L未満)~無視できるレベル(0.01~0.012mg/L)と低く、人間の血液中で検出される濃度と変わりなかったといいます出典資料:Foran SE, 2003
 水銀は魚油より魚肉に蓄積するため生成段階で除去され、魚油サプリメントにはあまり残らないものと推測されています。

ヒ素

 ヒ素(砒素)は原子番号33の重金属の一種。急性毒性としては吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、ショック、最悪の場合は死。慢性毒性としては皮膚の角化や色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、黄疸、腎不全などが確認されています。またIARC(国際がん研究機関)では、単体のヒ素および無機ヒ素化合物がグループ1(=ヒトに対して発がん性が認められる)、そして無機ヒ素の代謝物であるモノメチルアルソン酸MMA(V)とジメチルアルシン酸DMA(V)をグループ2B(ヒトに対して発がん性を有する可能性がある)に分類しています。
 ノルウェーにある国立栄養海産物研究所(NIFES)が一般的に入手可能な魚油製品に含まれているヒ素の濃度を調査しました。その結果、以下のような数値だったと言います出典資料:Veronika Sele, 2013
魚油製品のヒ素濃度(mg/kg)
魚油製品のヒ素濃度一覧グラフ
  • プタスダラ=8.7
  • アンチョビ=8.6
  • ミックスオイル=8.3
  • イカナゴ=7.96
  • タイセイヨウニシン=7.7
  • イカナゴ(汚染除去済)=7.2
  • ニシン(汚染除去済)=5.9
 どの製品も1kg中5.9~8.7mgという濃度でした。この値は高いのでしょうかそれとも低いのでしょうか?
 ヒ素を含有する可能性が高い食品に関しては世界各国で上限値が設けられています。以下は一例で単位は「mg/kg」です。 世界各国における主要食品のヒ素含有上限値一覧グラフ
Codex(世界食品規格)
  • 食用油脂(総ヒ素)=0.1
  • 精米(無機ヒ素)=0.2
  • 玄米(無機ヒ素)=0.35
  • 食塩(総ヒ素)=0.5
EU(ヨーロッパ連合)
  • 精米(無機ヒ素)=0.2
  • 乳幼児用食品向けの米(無機ヒ素)=0.1
FDA(アメリカ食品医薬品局)
  • リンゴジュース(無機ヒ素)=0.01
  • 乳幼児ライスシリアル(無機ヒ素)=0.1
オーストラリア・ニュージーランド
  • 穀物(総ヒ素)=1
  • 甲殻類(無機ヒ素)=2
  • 魚(無機ヒ素)=2
  • 軟体動物(無機ヒ素)=1
  • 海藻(無機ヒ素)=1
 上記したような基準値と比較すると、魚油に含まれる「5.9~8.7mg/kg」という濃度は高いような気がします。
 魚油だけをゴクゴク飲むという状況はまずないでしょうが、サプリメントのような形で摂取すると、知らないうちにヒ素を体内に取り込んでしまうかもしれません。実際、サプリメントを推奨量以上摂取したところ、血中と尿中のヒ素濃度が上昇して末梢神経障害が悪化したという症例もありますので、過剰摂取には注意が必要です出典資料:Barton A, 2013
 なお日本のペットフード安全法で設定されているドッグフードとキャットフードの上限値は「15mg/kg」(=15μg/g)になっています。

3-MCPD脂肪酸エステル

 3-MCPD脂肪酸エステルとは3-MCPDと脂肪酸が結合してできた化合物。「3-MCPD」は食品の原料に含まれる脂質から製造工程で偶発的にできてしまう物質のことで、クロロプロパノール類に分類されます。
 国際的な食品健康リスクを評価する機関であるJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会合)では、3-MCPDと3-MCPD脂肪酸エステルのトータル摂取量に関し、1日摂取許容量を体重1㎏当たり4μgとしています。
 一方、日本の食品安全委員会では、国内における国民平均の摂取量は、0.1μg/kg体重/日と推計しており、JECFAの基準値の2.5%に過ぎないため健康への懸念はないだろうとしています。
 ただし3-MCPD脂肪酸エステルは「農林水産省が優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」および「リスク管理を継続する必要があるかを決定するため毒性や含有の可能性等の関連情報を収集する必要がある化学物質」にリストアップされていますので、今後もモニタリングが必要な物質の一つであることに変わりはありません。

ダイオキシン類

 ダイオキシン類とは塩素で置換された2つのベンゼン環をもつ化合物の総称。塩素を含む物質の不完全燃焼や薬品合成の副合成物として生成され、具体的にはポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、コプラナーPCB(Co-PCBs)などが含まれます。最後の「コプラナーPCB」とはPCDDsやPCDFsと類似した生理作用を示す一群のポリ塩化ビフェニル(PCB)類のことです。
 ダイオキシン類は異性体によって毒性が大きく異なるため、毒性の比較評価を行うには、実測濃度に各異性体ごとの毒性等価係数(TEF)を乗じて求めた毒性等量(TEQ)が用いられます。具体的な単位は「pg‐TEQ/L」で、1pg(ピコグラム)は1兆分の1gを意味します。なお人間に対する発がん性が確認されているダイオキシンは、「TCDD」(2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-para-dioxin)や「PCB-126」(3,4,5,3’,4’-Pentachlorobiphenyl)などです。
 ダイオキシン類のTDI(耐容一日摂取量)については1999年6月に厚生省と環境庁の専門家委員会によって「4pg TEQ/kg bw/日」という暫定値が定められています。これは「1日体重1kg当たり4pg TEQまで」という意味です。例えば体重50kgのTDIは200pg TEQとなります。
TDI
 TDI(Tolerable Daily Intake/耐容一日摂取量)とは、ある特定の化学物質に関し、ヒトが一生涯にわたって摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量のこと。
 2014年度におけるトータルダイエット調査による国民平均のダイオキシン類摂取量は「0.69pg TEQ/kg/day」と推計されています。体重を50kgと仮定するとTDIの17%程度です。また魚油を使用した健康食品(鮫肝油加工食品2試料および魚油加工食品8試料)のダイオキシン類濃度は0~5.6pg TEQ/gの範囲内で中央値が0.00024pg TEQ/gだったとのこと。製品によってダイオキシン類濃度に大きな違いが認められ、製品に使用している魚油の種類、産地の他、魚油の精製方法等がダイオキシン類濃度に影響していると考えられています。
 ダイオキシン類濃度が最も高かった魚油加工食品について、製品に表示されている最大の食品摂取量(6粒=約2.9g)をもとにダイオキシン類の摂取量を推計した所、一日摂取量は最大で 16pgTEQ/日となり、TDIに占める割合は最大で約8%となりました。
ドッグフードにどの程度の魚油が含まれているのかは不明ですが、「魚油サプリメント」のように濃縮されたものを大量に摂取しない限り、ダイオキシン類による健康被害はないものと推測されます。