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エンテロコッカス(フェシウム・フェカリス)~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「エンテロコッカス」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?

エンテロコッカスの成分

 エンテロコッカス属(Enterococcus)とはフィルミクテス門に属する乳酸菌の一種。非常に多くの亜種があり、宿主の健康に寄与するもの、宿を借りているだけで何の家賃も払わないもの、そして宿主の健康を悪化させる恩知らずなものまでさまざまです。ヒトの腸内で検出されるエンテロコッカスは、8~9割近くがE. faecalisで、残りがE. faeciumという内訳になっています。グラム陽性の球菌で、電子顕微鏡で拡大すると確かに球形になっていることがよくわかります。 ドッグフードの成分として用いられる「エンテロコッカス」の電子顕微鏡拡大写真  一言で「エンテロコッカス属」といっても、犬を宿主とする系統は軽く100種類以上あります。例えば臨床上健康な犬105頭の糞便から合計160もの系統(菌株)が単離され、以下のような内訳だったといいます。ゲンタマイシンへの感受性が高く(95%)テイコプラニンへの抵抗性が高い(71.9%)という特徴を有していたとのこと出典資料:Kubasova, 2017)
犬に多いエンテロコッカス属
  • E. faecium=57.5%
  • E. faecalis=21.9%
  • E. hirae=17.5%
  • E. casseliflavus=1.9%
  • E. mundtii=1.2%
 ドッグフードや犬向けサプリメントに用いられているのは、胃酸や胆汁酸によって死滅しないことが確認されている「フェシウム(faecium)」と「フェカリス(faecalis)」です。微妙に作用が異なるにも関わらず、多くの場合ドッグフードのラベルには系統も含有量も記載されていません。どのような作用や効果を持っているのかを学術論文とともに具体的に見ていきましょう。

エンテロコッカスは安全?危険?

 エンテロコッカスを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはエンテロコッカスに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

エンテロコッカス・フェシウム

 数あるエンテロコッカスの中でも最も多く生息しているのが「エンテロコッカス・フェシウム」です(faeciumはそもそも糞便中に多く見いだされるという意味)。犬の腸管に付着してコロニーを形成しやすいことから、プロバイオティクスとしての有用性が数多くの調査で検証されています。 ドッグフードの成分として用いられる「エンテロコッカス・フェシウム」の電子顕微鏡拡大写真  ペットフードのラベルではほぼすべてが「エンテロコッカス・フェシウム」もしくは「乾燥エンテロコッカス・フェシウム発酵産物」とだけ記載されています。しかし以下の調査報告が示しているとおり、細菌の系統が変わると違った作用を示しますので、しっかり系統まで示してくれないとどのようか効果が期待できるのかを理解できません。

フェシウムNCIMB-10415

 EFSA(欧州食品安全機関)によって給餌量の目安が示されているものとしては「エンテロコッカス・フェシウムNCIMB-10415」(Cylactin®, SF68とも)があります。完全飼料1kg中で示すと犬における推奨給餌量は450万~200億CFUとされています出典資料:EFSA, 2013)
 子犬を対象とした給餌試験では、糞便中のビフィズス菌ラクトバチルスが増加し、糞便スコアも改善したとのこと。またワクチン接種で生じた抗体価レベルの持続期間が長くなり、免疫グロブリンA(IgA)のレベルが高く維持されたとも。さらに老犬を対象とした6ヶ月間の給餌試験でも同様の免疫学的変化が確認されたとされています出典資料:Nestle, 2008)
 コーネル大学の調査チームはジアルジア症を自然発症した20頭の犬を対象とし、「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を1日50億CFUの割合で6週間給餌するという試験を行いました。
 その結果、サプリメントを与えられていなかったベースライン期間6週間と比較し、便中におけるジアルジアのシストおよび抗原の排出量、免疫グロブリンAの濃度、末梢血における白血球の食作用に変化は見られなかったといいます出典資料:Simpson, 2009)

フェシウムCECT-4515

 16頭の犬をランダムで2つに分け、一方には基本フード、もう一方には基本フードに「Bacillus amyloliquefaciens CECT 5940」と「エンテロコッカス・フェシウムCECT-4515」からなる複合サプリを添加して39日間の給餌試験を行いました。その結果、両グループ間で糞便の硬さ、消化率、糞便pHに違いは見られなかったものの、サプリメントグループではクロストリジウム属(悪玉菌)の数に減少が見られたといいます出典資料:Gonzalez-Ortiz, 2013)

DSM-32820とLMG-30881

 犬を10頭ずつ3つのグループに分け、1つには「フェシウムDSM-32820(1頭につき100億CFU)」、1つには「フェシウムLMG-30881(1頭につき100億CFU)」、最後の1つには何も添加しない状態で給餌試験を行いました。その結果、「DSM-32820」グループでは糞便の硬さ、免疫細胞による食作用(7日目と14日目)、白血球の代謝バースト、血清グルコース濃度の低下(35日目)が見られたといいます。一方「LMG-30881」ではグラム陰性菌(35日目)の増加、ヘモグロビン減少、グルコース濃度低下(35日目)、代謝バーストの上昇(14日目と35日目)が確認されました出典資料:Strompfova, 2019)

エンテロコッカス・フェカリス

 犬の腸管内で二番目に多く、またサプリメントやドッグフードラベル上でよく見かけるのが「エンテロコッカス・フェカリス」です。この細菌にも数多くの亜種が存在しており、少しずつ違った作用を示すことが確認されています。 ドッグフードの成分として用いられる「エンテロコッカス・フェカリス」の電子顕微鏡拡大写真  フェシウムの場合と同様、フェカリスも具体的な系統名まで記載されている商品はまれです。どのような作用が期待できるのかはメーカーに直接問い合わせるしかないでしょう。

フェカリスFK-23

 エンテロコッカス・フェカリスのFK-23という系統(菌株)を犬の体重1kg当たり100mgの割合で経口摂取させたところ、好中球の食作用が1.4倍になり、免疫応答を高める可能性が示されています出典資料:Kanasugi, 1998)
 熱処理によって死滅したフェカリスFK-23を体重1kg当たり1日100mgの割合で3ヶ月に渡って給餌したところ、全血球計算(CBC)、白血球数、血液の化学的な組成、血清電解質、エックス線所見、身体に異常は見られなかったといいます。また骨髄の中で骨髄球系-赤芽球系比と顆粒球性細胞の増加が確認されたとも。さらに好中球の機能が活性化し、実験室レベルではPHA、Con A、LPSでリンパ球芽球化現象が引き起こされたそうです。こうした観察結果から調査チームは副作用を引き起こすことなく免疫調整機構を変化させる可能性があるとしています出典資料:Hasegawa, 1999)
 なお不思議なことに、摂取量を200~400mgに増やしてしまうと、機能が増強するどころか、逆に白血球の再構築自体が起こらなくなるとされています出典資料:Kanasugi, 1996)
 非季節性のアトピー性皮膚炎を抱える39頭の犬を対象とし、体重1kg当たり1日100mg以上の割合でフェカリスFK‐23を給餌するという調査が行われました。給餌前および給餌開始から28→56→84日後のタイミングで犬が示すかゆみの度合いを飼い主が主観評価すると同時に、症状の重症度を「CADESI‐4」と呼ばれる指標で獣医師が評価したところ、給餌グループでは84日目までに「CADESI‐4」が有意に減少したといいます。また副作用は見られなかったとも出典資料:Osumi, 2019)

フェカリスEC-12

 人間向けのサプリメントとしてすでに流通しているエンテロコッカス・フェカリスのEC-12という系統(菌株)を添加しているドッグフードがあります。しかしさまざまな動物種を対象とした給餌試験が行われているものの、犬を用いた試験は見当たりません。犬以外の動物で得られたデータから推測できる効果は、ビフィズス菌の増加、便秘の改善、腸管内の免疫力促進などです。日本において熱心に研究されている菌株ですので、以下では京都府立大学が行った調査をいくつかご紹介します。
 11人のボランティアを対象としてEC-12を1日600mgの割合で30日間に渡って給餌したところ、腸管からのイオンと水分の分泌に関連した炎症反応が刺激されたといいます。大腸内における液性の消化物流動を促進することで便秘の解消につながるのではないかと結論づけています出典資料:Tsukahara, 2009)
 孵化したばかりのヒヨコに2週間EC-12を給餌した結果から、この菌株が消化管内において抗菌作用を持つペプチドの一種「β-ディフェンシン」を増やすことによって免疫力を高め、結果としてバンコマイシン耐性腸球菌のコロニー化を防いでいるのではないかと推測しています出典資料:Sasaki, 2007)
 ラットにEC-12を給餌したところ、わずか2.5時間後には腸管内において免疫反応に関連するパイエル板と呼ばれる組織内で検出されるようになり、同時に腫瘍壊死因子αおよびCD69(リンパ球の活性化の指標)に関連した遺伝子の発現が確認されたといいます出典資料:Inoue, 2013)

フェカリスEF-2001

 近年「エンテロコッカス・フェカリスEF2001」という系統(菌株)が注目を集めており、犬における給餌試験はないものの、すでにドッグフードに入れているメーカーもあるようです。オスとメスのマウスを対象とし、EF2001を体重1kg当たり1,000mg、3,000mg、5,000mgの割合で13週間に渡って給餌したところ、身体、血液、体重に変化は見られなかったといいます。この結果からLD50(半数致死量)は体重1kg当たり5,000mg超だと推定されています出典資料:Yeun-Hwa Gu2018)
 アトピー性皮膚炎を抱えたマウスを対象とし、フェカリスEF2001を4週間に渡って給餌したところ、耳の肥厚度、組織学的検査、血清免疫グロブリンレベルに改善が見られたといいます。またイエダニと接触したときの、耳、リンパ節、脾臓細胞におけるサイトカイン群の病的な表徴が減少したとも出典資料:Chou, 2016)
 炎症性腸疾患(IBD)を抱えたマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を給餌したところ、患部におけるサイトカイン、COX-2、iNOS、インターフェロンγ、インターロイキン1β、インターロイキン6の減少が見られたといいます出典資料:Chou, 2019)
 急性の胃潰瘍を発症したマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を体重1kg当たり1日20~80mgの割合で5日間に渡って給餌したところ、胃粘膜における組織学的障害スコアが減少したといいます。おそらくMAPKsやNF-κBシグナリングを抑制することで炎症促進性の化学物質やサイトカインの生成を減少させるのではないかと推測されています出典資料:Jeon, 2020)
エンテロコッカスの系統(菌株)や含有量が記載されていない場合、安全性や期待できる効果の検証ができません。また犬に対する影響がわからないまま実験的に使用されている場合もあります。腸内細菌に関する詳細は「犬の腸内細菌(フローラ)」をご覧ください。