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緑イ貝~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「緑イ貝」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

緑イ貝の成分

 緑イ貝(Perna canaliculus, Green-Lipped Mussel)はイガイ科に属する二枚貝の一種。日本語では「モエギイガイ」とも呼ばれます。 ドッグフードの成分として用いられる「緑イ貝」(モエギイガイ)  ニュージーランド固有のムール貝の仲間で、貝殻の周辺部が緑色に縁取られているのが最大の特徴です。養殖が盛んに行われており、大きさは最大で24cmに達します。
 緑イ貝が食習慣の一部となっているマオリ族では西洋人に比べて関節炎の発症率が低いという事実から、栄養補助食品(nutraceutical)としての研究が熱心に行われ、現在では様々なメーカーがサプリメントを発売するようになっています。

緑イ貝は安全?危険?

 緑イ貝を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 緑イ貝は主として変形性関節症(骨関節炎)を抱えた犬に対して給餌されます。目的は炎症の抑制と症状・痛みの軽減です。はっきりとしたメカニズムはよくわかっていませんが、獣医師による客観的な評価でも飼い主の主観的な評価でも、長期的に給餌した場合に限り症状の軽減効果が確認されています。以下は実際に行われた給餌試験の一例です。

Pollard, 2006

 関節炎を抱えた合計81頭の犬をランダムで2つのグループに分け、一方のグループ(43頭)には緑イ貝抽出物を含んだサプリタブレット、もう一方のグループ(38頭)には偽薬を56日間に渡って給餌しました出典資料:Pollard, 2006
 その結果、試験開始から28日目のタイミングでどちらのグループでも症状の改善が見られたと言います。56日目タイミング行われた総合評価では、偽薬グループよりもサプリメントグループでやや改善の度合いが大きいと判断されました。
 さらに次の56日間では偽薬投与が中止され、両方のグループに対してサプリメントが給餌されました。その結果、偽薬を投与していたときの改善率が41%(15/37)だったのに対し、抽出物を含んだサプリを投与したときの改善率が91%(29/32)だったといいます。
 こうした結果から、いわゆる「プラセボ効果」の可能性はあるものの、緑イ貝抽出物には関節炎の症状を軽減する効果があるのではないかと結論づけています。なお実験に使われたタブレット1粒には125mgの緑イ貝抽出物が含まれており、体重5~15kgの犬に対しては1日3粒が投与されました。体重1kg当たりに換算すると25~75mgという割合になります。

Hielm-Bjorkman, 2007

 慢性痛や骨関節炎を患う45頭の犬をランダムで3つのグループに分け、「NSAIDs(カルプロフェン)」「緑イ貝抽出物」「偽薬」のいずれかを8週間にわたって給餌しました出典資料:Hielm-Bjorkman, 2007
 獣医師による診察や飼い主による主観評価で症状の改善度を比較したところ、偽薬<緑イ貝抽出物<NSAIDsという順番になったと言います。
 こうした結果から、副作用などの問題でNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)を使用できない犬においては、補助的に緑イ貝抽出物を用いるという代替医療があるかもしれないと結論づけています。

Rialland, 2013

 骨関節炎を抱えた23頭の犬を対象とし、最初の30日間は何も添加していない普通のフードを与え、次の60日間では緑イ貝抽出物を添加したフードを与えるという給餌試験が行われました出典資料:Rialland, 2013
 その結果、試験開始から30日目のタイミングでは垂直床反力(PVF=値が大きいほど足に対する荷重が大きく痛みを感じていないことを意味する)の改善が見られなかったものの、90日目のタイミングでは統計的に有意な改善が見られたと言います。また飼い主による症状の主観的な評価(CSOM)、血漿中オメガ3脂肪酸濃度、およびランダムで抽出した7頭から取られた活動性データでも改善が見られました。

Buddhachat, 2017

 オメガ3脂肪酸の供給源として知られる魚油、オキアミ油、緑イ貝が持つ関節の劣化予防能力を比較したところ、魚油とオキアミ油に関してはグリコサミノグリカンの硫化抑制作用と、尿酸およびヒドロキシプロリンの保持作用が見られたと言います出典資料:Buddhachat, 2017
 同様の作用が緑イ貝では確認できなかったことから、プロテオグリカンとコラーゲンの劣化を抑制する能力に関しては、魚油やオキアミ油の方が優れているのではないかと推測されています。

Bierer, 2002

 関節炎を抱えた犬を対象とし、様々な形状に加工した緑イ貝抽出物を給餌して症状に改善が見られるかどうかが検証されました出典資料:Bierer, 2002
 第1のテストでは、関節炎を抱えた32頭の犬をランダムで2つのグループに分け、15頭にだけパウダー状に加工した緑イ貝抽出物をフードにふりかけるという形で給餌しました。体重が25kg未満の場合は1日450mg、25~34kg の場合は1日750mg、34kg以上の場合は1,000mgという割合です。
 第2のテストでは、関節炎を抱えた33頭の犬をランダムで2つのグループに分け、16頭にだけ緑イ貝抽出物を含んだおやつ給餌しました。体重が25kg未満の場合は1日450mg、25~34kg の場合は1日750mg、34kg以上の場合は1,000mgという割合です。
 第3のテストでは、関節炎を抱えた31頭の犬をランダムで2つのグループに分け、17頭にだけ緑イ貝抽出物を湿重量中0.3%の割合で含んだドライフードを給餌しました。
 上記した3つの給餌試験の結果、すべてにおいて関節炎の総合スコアに改善が見られたと言います。

有効成分は何?

 関節炎を抱えた犬に緑イ貝抽出物を給餌すると、抗炎症作用が発揮される可能性が示唆されていますが、具体的にどの成分が有効なのかに関してはよく分かっていません
 確認されている成分はスフィンゴ脂質、フィトステロール、ジアシルグリセロール、ジテルペン、セスキテルペン、サポニン、カロテノイド、キサントリル、アントシアニン、グリコサミノグリカン、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、グルタミン、メチオニン、ビタミン類(C, E)、ミネラル(亜鉛, 銅, マンガン)などです。中でもオメガ3脂肪酸の一種であるエイコサテトラエン酸(ETA)が炎症性物質であるアラキドン酸の酸化反応を阻害することで炎症が抑制されるのではないかと推測されています。ETAは胃腸に対する毒性がなく血小板凝集反応を引き起こさないことから、選択的にCOX-2経路をブロックするのではないかと考えられています。
 とは言え、その他の成分が作用している可能性も否定できません。以下のページが役に立つでしょう。 コンドロイチンとグルコサミンが犬猫の関節に良いというのは本当? 犬にオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を与えると何がどう変わる?
変形性関節症を患う犬に対する緑イ貝抽出物の給餌量目安は、フードの湿重量中0.3%もしくは体重1kg当たり20mg以上です。原虫感染症の危険がありますので貝を生の状態では与えないでください。