トップ愛犬家の基本ノーキルへの道日本の行政とノーキル

日本の行政とノーキル~殺処分数減少のために国や地方が行っている活動

 殺処分大国アメリカでは、1990年代後半から広がり始めたノーキル運動とその実践団体により、徐々に処分数を減らしつつあります。一方、日本の行政でも近年、少しずつそのポリシーが浸透してきました。具体的に見てみましょう。

国による動物愛護法の改正

 ノーキルに対する行政の動きの中で最もスケールが大きいのは、国による「動物愛護法の改正」です。適用範囲は日本全国ですので、一番大きな影響力を持つと言ってよいでしょう。直近では以下のような改正がなされています。
改正動物愛護法
  • 2012年2012年1月20日(金)、「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則の一部を改正する省令等」が環境省自然環境局総務課・動物愛護管理室より公布され同6月1日から施行
  • 2013年「動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律」が2013年9月1日から施行
  • 2019年2019年6月19日、「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案」が公布され、原則として公布から1年を超えないタイミングで施行
 このように、「犬猫の流通量を減らす」、「飼育放棄・遺棄を減らす」、「譲渡を増やす」ことを促進するような法改正がなされています。もちろんまだ完璧とは言えませんが、日本のペット産業を分析して問題点を見つけ、さらなる修正を加えていけば殺処分数を今後少なくすることができるでしょう。 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
日本の殺処分推移グラフ
日本における犬猫殺処分推移グラフ(1975~2022年)

地方による動物愛護センターの変革

 日本の各都道府県には、保健所や動物愛護センターといった施設が置かれています。こうした地方の施設においても殺処分減少に向けての取り組みが目立つようになってきました。

熊本市動物愛護センター

 早い段階から殺処分減少に対する取り組みを行っていたことで有名なのは、熊本市動物愛護センターです。通称「熊本方式」と呼ばれる方法により2001年度に567匹だった犬の殺処分数を、2009年度の時点で1匹にまで減らしたという実績があります。「熊本方式」の具体的な内容は以下です。
熊本方式
  • 避妊・去勢手術に同意した希望者にのみ譲渡する
  • 犬の迷子札装着率を高める「迷子札運動」
  • 引き取り希望者に対する我慢強い説得
  • 動物愛護推進協議会との協力体制
 2010年に熊本市動物愛護推進協議会が「日本動物大賞を受賞」してからは、この「熊本方式」を学ぼうと、毎年全国の自治体が視察に訪れるといいます。 殺処分ゼロ

その他の動物愛護センター

 上記熊本市動物センターの功績は、殺処分数を限りなくゼロに近づけたということです。しかしそれよりも大きな功績は、殺処分数を限りなくゼロに近づけたことにより、他の自治体もマネせざるを得なくなったという空気を、日本全国に作り出したことでしょう。
 一度こうした実績が残されると、各地方自治体の市民は「熊本市にはできたのに、なぜうちのセンターではできないのか?」という声をあげるようになります。こうした市民の声はやがて保健所やセンター職員へのプレッシャーとなり、今まで単なる「努力義務」として軽視されていたものものが、次第に「義務」として考え直されるようになります。
 例えば以下に紹介する事例は、こうした意識変革の結果生まれたものだと考えられます。
北海道の網走保健所
 北海道の網走保健所が2013年度に殺処分した猫が初めてゼロとなった。同保健所は2011年度以降、引っ越しや高齢者施設への入所を理由にペットの引き取りを求める飼い主に対し、ペット可の物件探しや譲渡先の探し方を提案。さらに保護した犬猫の写真を掲載するホームページを開設したり、スーパーや動物病院にポスターを掲示するなどして情報発信を強化してきた。その結果、2011年度には犬5匹、猫12匹だった殺処分数が、2013年度は犬1匹、猫0匹となり、記録の残る2002年度以降初めて「猫の殺処分ゼロ」という偉業を成し遂げた(北海道新聞)。
 このように「努力義務」を「義務」としてしっかりと遂行することにより、「殺処分ゼロ」という今まで不可能と考えていた目標も、場合によっては実現可能になるのです。熊本市の残した先例は、こうした意識改革のきっかけになったという観点から、非常に大きな意味を持っています。
 また日本全国を調べると、熊本方式に感化されて意識変革を行ったと思われる事例が数多く見られます(カッコ内は新聞による報道年月日)。
熊本方式による殺処分減少事例
  • 福岡県福岡県は、2010年度の犬・猫殺処分数が前年度比約26%減の8,817匹となり、2005年から5年連続維持していた「殺処分数全国ワーストワン」という汚名を返上した(2012.5.23)
  • 愛知県安易な飼育放棄を減らすために犬猫引取りを有料化していた愛知県では、県施設における引取り数が前年比で2,000匹以上減少するという成果を挙げた(2012.5.22)
  • 群馬県群馬県・高崎市で2011年度に殺処分された犬と猫の数が、前年度比で約8割も減少した(2012.6.25)
  • 埼玉県2011年度、埼玉県内で殺処分した犬猫の数は前年度比651匹減の4,367匹となり、県が進める動物愛護管理推進計画の目標を6年早く達成した(2012.12.24)
  • 岡山県岡山市保健所では、引取りを希望する飼い主への説得や指導を強化したことにより、殺処分数の大幅減に成功した(2013.4.3)
  • 長野県2012年度における長野市保健所の殺処分率が、全国の政令指定都市・中核市計107の中で最低となる「9.25%」であることが明らかとなった(2014.2.22)
  • 神奈川県神奈川県平塚市にある「神奈川県動物保護センター」は2013年度、1972年の開設以来初めてとなる、「犬の殺処分ゼロ」を達成した(2014.4.19)

その他行政の動き

 以下でご紹介するのは、日本全国の地方自治体によって行われている、殺処分減少のための活動例です。国が施行した「動物愛護法」や熊本市からの無言のプレッシャーを受け、ノーキルに向けた細かな活動が各地で見られるようになってきています。こうした動きは2014年より、環境省のホームページ内に設けられた「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」というコーナーでも確認できるようになりました。

飼育放棄・遺棄を減らすための動き

 以下は、飼い主によるペットの飼育放棄や遺棄、および迷子の件数を減らすための活動です。
飼育放棄・遺棄を減らす活動
  • 迷子札の普及静岡県東部で迷子札ホルダーを、ペット登録や予防注射の際に無料配布
  • マイクロチップへの助成神奈川県横浜市と市獣医師会がマイクロチップ装着に助成金を出す
  • 猫室内飼育の努力義務茨城県の動物愛護条例が、猫は極力室内で飼育することを明記
  • 多頭飼育に対する規制埼玉県が犬や猫を10匹以上飼育する場合、県への届出を義務化/新潟市の「動物愛護管理条例」が犬や猫を10匹以上飼育する場合、市へ届け出ることを義務付け
  • 地域猫活動名古屋市が、地域猫活動を促進する「なごやかキャット推進事業」を開始
  • 引き取り有料化広島市動物管理センターや愛知県の名古屋、豊田、岡崎、豊橋の4市でペットの引き取りの有料化を開始
  • 不妊手術の補助千葉県や和歌山県田辺市などが、猫の不妊手術に助成金を出す

譲渡を増やすための動き

 以下は、保護した犬や猫を新しい里親の元に送り出す譲渡を増やすための活動です。
譲渡を増やす活動
  • 里親会の開催回数を増やす神戸市動物管理センターが譲渡会の開催回数を従来の隔月から毎月に変更/長野市保健所が、年1回だった犬猫譲渡会を毎月開催に変更
  • 猫の里親募集を開始する神戸市動物管理センターが猫の譲渡制度を開始/三重県動物愛護管理センターが猫の譲渡制度を開始
  • ノーキルシェルターの建設熊本市が犬猫のための専用施設「愛護棟」を建設/岐阜県で犬猫の譲渡促進を図る「岐阜県動物愛護センター」が新規オープン
  • 啓蒙普及茨城県動物指導センターが殺処分前の犬が収容されている犬舎の見学会を開催

その他の動き

 その他、動物の福祉を向上させることを目的とした活動です。
動物の福祉を向上させる活動
  • ガスから安楽死へ切り替え京都府と京都市が、犬猫の殺処分方法を従来の「炭酸ガス」から、より苦痛の少ない「麻酔薬注射」に切り替える方針を固める
  • 動物虐待の通報システム兵庫県警生活経済課が、動物虐待の相談電話「アニマルポリス・ホットライン」の試験運用を開始
  • 運搬車のグレードアップ群馬県が、捨て犬や捨て猫を施設へ運ぶためのトラックを、空調設備つきのものにグレードアップ

民間ボランティアによる殺処分減

 これまでのセクションでは主に行政機関によるノーキル運動をご紹介してきました。しかし実際の殺処分数減少は、民間団体の助力に依(よ)る部分が大きいというのが現状です。例えば以下のような事例が報道されています。
殺処分減と民間の助力
  • 秋田県県内における猫の殺処分数が漸減~民間の動物愛護団体「いぬ・ねこネットワーク秋田」と連携したことが主な要因(📖2017年6月28日/秋田魁新報)
  • 埼玉県2017年度、飼い主のいない犬猫1637頭のうち、およそ45%に当たる733頭が新たな飼い主に渡る。譲渡率は2006年度の約10倍に増加したものの、75%(552頭)が民間経由(📖2018年11月22日/埼玉新聞)
  • 山口県2015年1月に民間譲渡団体の登録制度を開始したところ、2016年度における猫の殺処分数が一気に前年度比45%減、譲渡数が8.7倍に(📖2017年12月13日/読売新聞)
  • 神奈川県知事が言う「殺処分ゼロ」は平塚センターでの実績のみで、県人口の6割を占める3市は含まれていない。しかもボランティアによる引き出しが犬4割、猫9割近く(📖2018年6月22日/産経新聞)
 朝日新聞の調べによると、2017年度(2017年4月~2018年3月)、民間の動物愛護団体に引き出された割合は全国平均で犬が46.5%、猫が43.8%だったとのこと。団体譲渡を行う90自治体と行わない25自治体を比較したところ、殺処分率に10~17%の格差があったといいます(📖2018年11月27日/朝日新聞/sippo)
 このように各自治体における殺処分減少には、ほとんどのケースで民間団体の努力が関わっています。神奈川県の平塚センターでは、2017年度における民間ボランティアによる引き出しが犬4割、猫9割に達したほどです。
「殺処分数が減った」という行政機関のアナウンスの裏には、ほぼ確実に民間団体の助力があります。縁の下の力持ちがいることを忘れないようにしましょう!中にはドヤ顔で「殺処分ゼロを達成しました!」と手柄を独り占めするような知事もいますので…。