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犬の発作性頭部振戦~症状・原因から検査・治療法まで

 犬の意志とは無関係に急に出現して飼い主を心配させる発作性頭部振戦。原因は一体何なのでしょうか。また効果的な治療法はあるのでしょうか。

発作性頭部振戦とは?

 犬の発作性頭部振戦(episodic head tremor)とは発作性(意志とは無関係に発生)かつ孤立性(頭部に限局)に起こる頭の震えのことです。安静時に発生して気を逸らすと止まるという特徴を有しており、振戦の向きには垂直、水平、回旋などがあります。また発症頻度は1日複数回~年4回とかなりの個体差があります。
発作性頭部振戦
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 原因に着目した時、MRIなどの画像検査で脳の構造的な異常が認められるものを「構造性」、認められないものを「特発性」と呼び分けます。後者に関してはブルドッグやドーベルマンで家族性の症例があることから何らかの遺伝が関わっていると想定されていますが、はっきりしたことはわかっていません。
 人医学における症候学から、以下のような疾患との類似性が指摘されています。
類似疾患(人医学)
  • 首振り人形症候群
  • 本態性振戦
  • ジストニア頭部振戦
  • 点頭痙攣
  • パーキンソン性振戦
  • ミオクローヌス

犬の発作性頭部振戦・疫学

 今回の調査を行ったのはイギリスにある王立獣医大学を中心としたチーム。2004~2022年の期間、5つの獣医療教育機関に蓄積された電子医療記録を回顧的に参照し、「原因の有無に関わらず発作性頭部振戦の診断を受けた」「医療記録が完全に保存されている」「脳のMRI検査を行った」という条件を満たした症例をピックアップしました。また症例はMRIで脳内の構造的な病変が見つかった29頭が「構造性」、見つからなかった71頭が「特発性」として区分されました。

特発性の発作性頭部振戦

 特発性の発作性頭部振戦に区分された症例は71例あり、オス42頭+メス29頭という内訳でした。症状が初出したときの年齢中央値は1.9歳(1.2ヶ月~11.7歳)で、受診時の中央値は2.2歳(3.6ヶ月齢~12.2歳)、体重の中央値は24.6kg(3.5~59.4kg)でした。以下は多かった上位5犬種です。
特発性で多い犬種
 発症から受診するまでの平均待機期間は30日で、すべての患犬が発作性の頭部振戦を主訴としていました。また急性症例(発症から1~7日)が19.7%、亜急性症例(7~15日)が16.7%、慢性症例(15日超)が63.4%という内訳でした。
 22.5%(16頭)では身体検査で異常が見つかったものの症状とは無関係のもので、神経学検査で正常と判断された割合は全体の94.3%(67頭)に達しました。ちなみに異常が認められた4頭はすべててんかん発作です。
 発作後の症状としては以下のようなものが認められました。
振戦発作後の徴候
  • 脊髄性の知覚過敏=12.7%
  • 運動失調=4.2%
  • 姿勢反射欠落=2.8%
  • 脅威反射欠落=2.8%
  • 四肢不全まひ=1.4%
  • 失見当識=1.4%
 脳脊髄液検査が74.6%(54頭)、脳波検査が2.8%(2頭)に対して行われましたがいずれも異常は認められませんでした。
 治療方針に関しては64.8%(46頭)が無治療の経過観察、残りの25頭が何らかの投薬(食餌)治療を受け、退院の時点で死亡した患犬は1頭もいませんでした。
 退院後、飼い主にアンケート調査を行ったところ、34頭が症状とは無関係な理由で死亡、28頭が生存、9頭が不明という内訳になりました。生存中の28頭中、追跡調査可能だった10頭に関しては、5頭が改善、残りの5頭が不変という結果でした。飼い主の主観ベースでは、発作のトリガーとして安静(30%)、ストレス(20%)、興奮(20%)、グルテン摂取(10%)などが報告されました。
 退院から106~2315日後のタイミングで聞き取りを行ったところ、8割の患犬では特に治療もせず症状が半減以上していたものの、不安徴候があると報告されました。また8割の飼い主は犬の生活の質(QOL)を「優良」と評価しました。

構造性の発作性頭部振戦

 構造性の発作性頭部振戦に区分された症例は29例あり、オス16頭+メス13頭という内訳でした。症状が初出したときの年齢中央値、および受診時の中央値は共に6.9歳(6ヶ月~13.7歳)で、体重の中央値は19.9kg(5.8~38kg)でした。また特に多かった上位3犬種は順にフレンチブルドッグ(17.2%/5頭)、非純血種(13.8%/4頭)、ラブラドールレトリバー(10.3%/3頭)でした。
 以下は受診時の主訴です(複数回答)。頭部振戦が最も多く、飼い主に受診を決断させた理由でもありました。
構造性の主症状
  • 発作性頭部振戦=89.7%(26頭)
  • 元気喪失=55.1%(16頭)
  • 旋回=27.6%(8頭)
  • 歩様異常=27.6%(8頭)
  • 食欲不振=20.7%(6頭)
  • 全身性強直間代発作=20.7%(5頭)
 発症から受診するまでの平均待機期間は14日で、急性症例(発症から1~7日)が44.8%、亜急性症例(7~15日)が6.9%、慢性症例(15日超)が48.3%という内訳でした。
 93%(27頭)では以下に示すような頭部振戦以外の神経症状が随伴していました(複数回答)。
構造性の随伴症状
  • 精神作用異常=72.4%(21頭)
  • 姿勢反射消失=48.2%(14頭)
  • 脳神経異常=44.8%(13頭)
  • 旋回=31%(9頭)
  • 不全まひ=27.6%(8頭)
 全頭においてMRI検査で脳の構造異常が認められ、部位別では以下のような内訳となりました。「中頭蓋窩」には下垂体、視床間橋、第三脳室、視床が含まれます。また複数箇所で同時に異常が認められた「多焦点性」では、75%(6頭)が視床を含んでいました。
構造性の病変部位
  • 中頭蓋窩=51.7%(15頭)
  • 多焦点性=27.6%(8頭)
  • 脳幹=6.9%(2頭)
  • 新皮質=10.3%(3頭)
  • 第四脳室/小脳=3.5%(1頭)
 脳脊髄液検査は51.7%(15頭)で行われ、60%に当たる9頭で単球、マクロファージ、好中球などの髄液細胞増加異常が認められました。
 画像診断の結果、最終的に判明した基礎疾患は以下です。
発作性頭部振戦と脳の構造異常
  • 頭蓋窩の腫瘤=37.9%(11頭)
  • 前脳の腫瘤=13.8%(4頭)
  • 脳幹の腫瘤=3.5%(1頭)
  • 第四脳室の腫瘤=3.5%(1頭)
  • 脳の先天的な形成不全=6.9%(2頭)
  • 原因不明の髄膜脳炎=27.6%(8頭)
  • 感染性の髄膜脳炎=3.5%(1頭)
  • 高血圧性脳症=3.5%(1頭)
 診断が確定した犬のうち44.8%(13頭)が安楽死となり、残りの55.2%(16頭)が退院しました。後日アンケートを行ったところ、退院した16頭のうち10頭が発作に関連した理由で死亡しており、生存していたのは6頭だけだったといいます。
 6頭の飼い主のうち3名に追跡調査を行った結果、治療開始から168~276日の時点で2名が症状(振戦)の改善を、残りの1名が不変を報告しました。
Idiopathic and structural episodic nonintentional head tremor in dogs: 100 cases (2004-2022)
Journal of Veterinary Internal Medicine(2023), Theofanis Liatis, Sofie F. M. Bhatti, et al., DOI: 10.1111/jvim.16880

特発性なら経過観察を

 構造的な変化を伴う脳病変があろうとなかろうと、発作性の頭部振戦を症状として呈することがあるため、確定診断には画像検査が欠かせません。しかし簡易診断では「犬種」「初出時の年齢(特発性では若い)」「随伴症状の有無(特発性ではほぼない)」といった項目を参照すれば、少なくとも「構造性である可能性は低い」と当たりをつけることくらいは可能です。

首振り人形症候群との比較

 調査チームは特発性の発作性頭部振戦を人医学における首振り人形症候群(Bobble-Head Doll Syndrome, BHDS)と比較しています。これは5歳未満の小児に発症し、肯定型(縦方向)もしくは否定型(横方向)の孤立性振戦を特徴とする神経疾患です。振戦は1秒間に2~3回の頻度で、随意運動や睡眠によって消失、歩行や興奮によって増悪するという特徴を持っています。また何かに集中したり名前を呼ばれると一時的に消失するという点は、犬における頭部振戦と共通です。
首振り人形症候群(小児)
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 首振り人形症候群の原因としては以下のようなものが報告されています。
BHDSの原因
  • 中頭蓋窩くも膜のう胞=44%
  • 第三脳室嚢胞=25%
  • 中脳水道狭窄=14%
  • 機能不全シャント=6%
  • その他第三脳室を障害する嚢胞=4%
  • 第三脳室の腫瘍=3%
  • 交通性水頭症=1%
 発症メカニズムとしては、第三脳室における脳脊髄液の滞留が圧のバランスを崩し、背内側の赤核や歯状核視床路をゆがめるというものが想定されています。
 犬における特発性の発作性頭部振戦が仮に同じメカニズムで発症するのだとすると、いくつか腑に落ちない点があります。具体的には有病率が犬>人である点、そして人においては「特発性=原因不明」がなく、すべて原因が特定される点です。

特発性は良性疾患

 特発性の発作性頭部振戦の飼い主における回答率は36%(10/28)と低かったものの、QOLを優良と評価する飼い主の割合は80%(8/10)と高いものでした。先行報告と同様、時間経過とともに自然軽快する例が多かったことから、第一選択肢は「経過観察」が妥当なのでしょうか。当調査では投薬治療を受けた患犬も含まれていましたが、調査チームは薬の効果で軽快したのか、それとも薬がなくても軽快したのかはわからないとしています。
 発作性頭部振戦を示し、画像検査で構造的な異常が見つからなかった場合は、命を脅かすことがない良性の動作障害である可能性が高いため、構造性患犬のように予後を悲観して安楽死することは推奨されません。