トップ2023年・犬ニュース一覧3月の犬ニュース3月27日

犬に対する嫌悪刺激(罰)は悲観的なマインドを作る~家庭内を「嫌な職場」にしないで!

 犬に対する嫌悪刺激(罰)の使用は悲観的なマインドの固定化につながります。「悲観的」とはちょうどパワハラ上司や嫌いな同僚がいる職場に通うような心理状態ですので、飼い主は適切なしつけ方法を心がける必要があります。

嫌悪刺激と犬の悲観マインド

 調査を行ったのはイギリスのチャリティ団体Dogs Trustに属するCanine Behaviour and Researchのチーム。犬に対して用いられる嫌悪刺激(罰)があいまい刺激に対するマインドに対して与える及ぼす影響を検証するため、古典的な認知バイアステストを用いた実験を行いました。

調査対象

 先行調査に参加した飼い主の他、動物病院、しつけ教室、フォーラム、ブリーダー、犬種協会などに呼びかけて広く犬の飼い主をリクルートしました。
 犬の参加条件は6ヶ月齢~12歳、臨床上健康、発情期外、行動に影響を及ぼす薬を処方されていない、人に対する攻撃性を示さないこと。また飼い主はしつけや訓練に用いる手法により「嫌悪刺激ベース」と「強化刺激ベース」に振り分けられました。前者の条件は以下に述べる嫌悪刺激のうち少なくとも2つを日常的に使用していること、後者の条件は嫌悪刺激を1つも用いていないことです。
嫌悪刺激(罰)リスト
  • 身体的暴力叩く、蹴る、首輪や首根をつかんで揺さぶるなど
  • シトロネラカラー吠え声を感知して犬の嫌う柑橘系の匂いを自動もしくは手動で噴霧する首輪
  • ショックカラー不適切な行動をすると自動もしくは手動で電流が流れる首輪
  • チョークカラー犬の首を投げ縄のように締める首輪
  • ペットコレクター鳥類、虫、ヘビ等の攻撃音に似た音を発するスプレー
  • 水鉄砲犬に勢いよく水を発射して気をそらすおもちゃ
  • ラトル缶大きな音(ガシャン・ガラガラ etc)を出して犬の行動を中断するもの全般

調査方法

 しつけ方法による犬への影響を調べるため、古典的な「認知バイアステスト」が採用されました。これは自分にとってプラスかマイナスかよく分からないあいまいな情報を提供された時、一体どのようなリアクションを示すかによって平時における心的状態を推し量るためのものです。具体的な手順は以下。
認知バイアステスト
環境を統一した室内(3m × 4m)で犬を訓練し、常にご褒美がある方向と常にご褒美がなにもない方向を覚えさせる。学習が成立した後、右とも左ともつかないちょうど中間に容器を置く。このとき犬がすぐに近づくようなら「楽観的」、逆に近づくまでに時間がかかるとか、そもそも近づかないという場合は「悲観的」と判断される。平素における犬の心的状態を評価する「認知バイアステスト」のセッティング
 一般的に悲観的な心的状態では「怖い」とか「不安だ」などネガティブな情緒を抱くことが多いため、ヒト以外の動物においては福祉が損なわれていると判断されます。

調査結果

 最終的な解析対象となったのは「嫌悪刺激ベース」の飼い主と犬のペア50組、および「強化刺激ベース」の飼い主と犬のペア50組。両者は犬たちの年齢、性別、不妊ステータス、犬種、体の大きさ等に可能な限りばらつきが出ないようバランスが取られました。
 まず「ごほうびありエリア」に置かれたボウルに近づくまでの時間と「ごほうびなしエリア」に置かれたボウルに近づくまでの時間を両グループで比較したところ、統計的な差は認められなかったといいます(合計32トライアル)。言い換えるとベースラインにおける犬たちのマインドはどちらのグループもほぼ一緒だったということです。
 次に両エリアのちょうど中間のエリアにボウルを置いて近づくまでの時間を計測したところ、両グループ間で明確な違いが見られたました(3トライアル)。具体的には「嫌悪刺激ベース」>「強化刺激ベース」という勾配で、言い換えると「強化刺激ベースの犬は楽観的/嫌悪刺激ベースの犬は悲観的」となります。 認知バイアステストのセッティング  この傾向は「ごほうびありエリア」と中間エリアのさらに中間地点(上図NP/3トライアル)、および「ごほうびなしエリア」と中間エリアのさらに中間地点(上図NN/3トライアル)の両方でも追認されました。
Dogs are more pessimistic if their owners use two or more aversive training methods
Casey, R.A., Naj-Oleari, M., Campbell, S. et al. , Sci Rep 11, 19023 (2021), DOI:10.1038/s41598-021-97743-0

家庭を「嫌な職場」にしないで

 犬における「悲観的なマインド」を人間に置き換えると、パワハラ上司や反りの合わない同僚がいる職場に勤めている状態に近いと思われます。朝起きた瞬間憂鬱な気分になり、職場に行くとさらに憂鬱になり、あと10年続くと考えるとストレスで吐きそうになるあれです。
 犬に対する日常的な嫌悪刺激が上記したようなマインドを作っているのだとすると、ある種の虐待と言ってもいいでしょう。
 今回の調査は2019年にポルトガルにあるポルト大学が報告した内容を追認するものです。先行調査では犬に対する嫌悪刺激が悲観マインドの原因になるだけでなく、学習速度を低下させるという更なるデメリットが報告されています。 犬に対する罰は短期的・長期的ストレスの原因になる  しつけ方法が悲観マインドを作り出したのか、それとも犬が悲観マインドだから飼い主が嫌悪刺激に走ってしまったのかが定かではありませんが、少なくとも嫌悪刺激ベースの訓練が楽観マインドにつながるという証拠は見当たりませんので、「犬に嫌悪刺激を用いてはいけない」というアドバイスの正当性が補強されたと考えてよいでしょう。また当調査では犬の個体数が合計100頭に増やされたほか、グループ間で属性バランスが取られましたので、犬のステータスにかかわらずお勧めできるユニバーサルな方法論として紹介しやすくなりました。 犬のしつけの基本理論