老犬に対するワクチンの効果
老犬におけるワクチンの接種間隔と抗体価との関係を調べたのはイタリアにあるミラノ大学のチーム。2014年1月から2023年1月までの9年間、血液(全血・血清・血漿)を用いて院内簡易検査キット「VacciCheck®」を受けた老犬を対象とし、コアワクチンがターゲットとする3大感染症に対する抗体価レベルを調べました。
調査対象
最終的な解析対象となったのは5~19歳の350頭。犬の体の大きさに合わせた判定基準を元にし、高齢が258頭(73.7%)、老齢が92頭(26.3%)と分類されました。その他の基本属性は以下です。
体重 | 高齢 | 老齢 |
9kg以下 | 7~13歳 | 14歳以上 |
10~22kg以下 | 7~11歳 | 12歳以上 |
23~41kg以下 | 6~10歳 | 11歳以上 |
41kg超 | 5~9歳 | 10歳以上 |
老犬の基本属性
- 犬種●純血64犬種:236頭(67.4%)
●非純血種:114頭(32.6%) - 体の大きさ●小型(10 kg未満):124頭(35.4%)
●中型(10~25 kg未満):123頭(35.1%)
●大型(25 kg超):103頭(29.4%) - 手術ステータス●去勢オス:34頭(9.7%)
●未去勢オス:132頭(37.7%)
●避妊メス:95頭(27.1%)
●未避妊メス:89頭(25.4%) - 健康状態●健康:206頭(74.3%)
●不健康:90頭(25.7%)
※がん、内分泌疾患、心臓病など免疫系に影響を及ぼしうる疾患を抱えている状態を「不健康」と定義
調査結果
調査の結果、少なくとも1回ワクチン接種歴がある犬の割合が97.4%(341頭)、1度も接種したことがない犬のそれが2.6%(9頭)だったといいます。
3大感染症(パルボウイルス感染症=CPV-2 | ジステンパー=CDV | イヌ伝染性肝炎=CAdV-1)全てに対する防御抗体価(PAT)の全体保有率は52.9%で、うち高齢犬が80.5%、老齢犬が19.5%を占め、年齢が上がるほど保有率が低下することが判明しました。特にCDVに関しては高齢犬のPAT保有率が69.4%、老齢犬が56.5%となり、両者の格差は統計的に有意(高齢>老齢)と判断されました。
またウイルス別の特異的なPAT保有率に関しては以下のような結果となりました。「弱陽性」とは防御能を発揮できる抗体価をわずかに下回る個体群のことです。
Paola Dall’Ara, Stefania Lauzi, Lauretta Turin, Vet. Sci. 2023, 10(7), 412, DOI:10.3390/vetsci10070412
3大感染症(パルボウイルス感染症=CPV-2 | ジステンパー=CDV | イヌ伝染性肝炎=CAdV-1)全てに対する防御抗体価(PAT)の全体保有率は52.9%で、うち高齢犬が80.5%、老齢犬が19.5%を占め、年齢が上がるほど保有率が低下することが判明しました。特にCDVに関しては高齢犬のPAT保有率が69.4%、老齢犬が56.5%となり、両者の格差は統計的に有意(高齢>老齢)と判断されました。
またウイルス別の特異的なPAT保有率に関しては以下のような結果となりました。「弱陽性」とは防御能を発揮できる抗体価をわずかに下回る個体群のことです。
PAT保有率
- CPV-2:88.6%
- CadV-1:82.3%
- CDV:66.0%
PAT保有率+弱陽性
- CPV-2:95.7%(335頭)
- CDV:89.4%(313頭)
- CAdV-1:95.4%(334頭)
Paola Dall’Ara, Stefania Lauzi, Lauretta Turin, Vet. Sci. 2023, 10(7), 412, DOI:10.3390/vetsci10070412
犬にも免疫老化はあるのか
1,027頭を対象として行われたPAT保有率の先行調査ではCPV-2が90.8%、CAdV-1が79.8%、CDVが68.6%だったと報告されており、当調査内における数値(CPV-2:88.6% | CadV-1:82.3% | CDV:66.0%)に近似しています。加齢に伴う免疫力の低下としてはインフラメイジング(炎症加齢)や胸腺退縮(胸腺時計)が指摘されていますが、少なくとも3大感染症に関しては高齢~老齢層に属する犬たちも若い犬と遜色ないレベルのPAT保有率を保っているようです。
パルボウイルス感染症
パルボウイルス感染症(CPV-2)のPATに関しては全体保有率が88.6%(310/350)と非常に高く、小型犬や中型犬よりも大型犬におけるPAT値の方が高いことが確認されました。また抗体価レベルも防御閾値より1~2桁多いことや、不健康犬より健康犬におけるPAT値が高いことが判明しました。
保有率と抗体価の両方で確認された犬たちの感染防御能の高さは、CPV-2が環境中に広く存在すること、抵抗性が強く環境中に残りやすいこと、そして免疫原性が強いため接触した個体の免疫応答を強く誘発することなどが関係していると推測されています。要するに「自然ブースター」がかかっている状態です。
さらに猫に感染して便を通じて外界に排出されるという特徴を有していることから、外飼いで散歩時間が長く、外出機会が多い大型犬の方がウイルスに接する機会が増えてしまうことも要因として数えられています。
ちなみにワクチン接種歴のなかった9頭中5頭はCPV-2への免疫抵抗力を有していました。残り4頭中3頭も防御閾値をわずかに下回る程度のPATを有していたことから、重大な症状を引き起こさない無症候性の感染例があることがうかがえます。
保有率と抗体価の両方で確認された犬たちの感染防御能の高さは、CPV-2が環境中に広く存在すること、抵抗性が強く環境中に残りやすいこと、そして免疫原性が強いため接触した個体の免疫応答を強く誘発することなどが関係していると推測されています。要するに「自然ブースター」がかかっている状態です。
さらに猫に感染して便を通じて外界に排出されるという特徴を有していることから、外飼いで散歩時間が長く、外出機会が多い大型犬の方がウイルスに接する機会が増えてしまうことも要因として数えられています。
ちなみにワクチン接種歴のなかった9頭中5頭はCPV-2への免疫抵抗力を有していました。残り4頭中3頭も防御閾値をわずかに下回る程度のPATを有していたことから、重大な症状を引き起こさない無症候性の感染例があることがうかがえます。
イヌ伝染性肝炎
イヌ伝染性肝炎(CAdV-1)に関しては野生動物や南部の野犬などごく限られた個体で見られる限局的なウイルスで、イタリア国内では長らく症例報告すら挙がっていません。
にもかかわらず「82.3%」という高いPAT保有率が確認された理由としては、咳などを通じて空気感染するCAdV-2との交差反応が生じたからではないかと推測されています。
にもかかわらず「82.3%」という高いPAT保有率が確認された理由としては、咳などを通じて空気感染するCAdV-2との交差反応が生じたからではないかと推測されています。
ジステンパー
ジステンパー(CDV)は3大感染症の中では最もPAT保有率が低く、わずか66.0%(231/350)にとどまりました。
この理由はちょうどCPV-2とは逆に、環境中における抵抗性が低く容易に感染能を失うことや、免疫原性が弱く接触個体の応答を十分に引き起こせないからだと考えられています。
またこのウイルスのPAT値に関しては、統計的に有意なレベルで高齢犬より老齢犬の方が低い値を示しました。さらにCPV-2とCDVの2つに関しては、やせ体型の老犬や肥満体型の老犬でワクチンに対する免疫反応が弱くなる可能性が先行調査で指摘されています。
この理由はちょうどCPV-2とは逆に、環境中における抵抗性が低く容易に感染能を失うことや、免疫原性が弱く接触個体の応答を十分に引き起こせないからだと考えられています。
またこのウイルスのPAT値に関しては、統計的に有意なレベルで高齢犬より老齢犬の方が低い値を示しました。さらにCPV-2とCDVの2つに関しては、やせ体型の老犬や肥満体型の老犬でワクチンに対する免疫反応が弱くなる可能性が先行調査で指摘されています。
ワクチン接種計画は柔軟に
院内簡易検査キットの登場により、3大感染症の抗体価が簡単にわかるようになりました。ブースターの間隔は3年に1度などと推奨されていますが、その前に抗体価を調べるという選択肢もありますので、老犬の健康状態、飼い主の経済状況、生活環境とウイルスへの曝露リスクなどを勘案して柔軟に決めるのが良いでしょう。
参考までに以下は直近のワクチン接種時期とPAT値の関係表です。時間経過とともに抗体価が減少していくことは確かなようです。
ちなみに3ウイルスすべてに無防備と判断された犬のうち6頭は、血液採取から1ヶ月~2.5年以内のワクチン接種歴がありました。確率は低いものの、十分な免疫応答が引き出されない「ワクチンブレーク」がある点は要注意です。
参考までに以下は直近のワクチン接種時期とPAT値の関係表です。時間経過とともに抗体価が減少していくことは確かなようです。
直近接種 | CPV-2 | CDV | CAdV-1 |
1年以内 | 92.2% | 76.5% | 90.4% |
1~3年以内 | 88.8% | 70.1% | 90.3% |
3年超 | 87.0% | 52.2% | 66.3% |