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同居犬と死別した犬はペットロスの悲しみに似た変化を見せる

 人間がペットを失った時に感じる深い悲しみの感情である「ペットロス」。かけがえのない存在が目の前から消えてしまったとき、果たして犬も人間と同じように悲嘆に暮れるのでしょうか?

同居犬と死別した犬の変化

 調査を行ったのはイタリア・パドヴァ大学を中心としたチーム。ペットを失った時に飼い主が感じる深い悲しみの感情は一般的に「ペットロス」と呼ばれますが、同居していた犬の死に直面した犬にもそれと似たような感情があるのかどうか検証するため、オンラインアンケートを利用した大規模な調査を行いました。 同居犬と死別した犬は悲しみに似たネガティブな変化を見せる  調査対象となったのはイタリア国内に暮らす18歳以上の犬の飼い主。参加条件は「犬の死に直面したとき、少なくとも2頭の犬を飼育していたこと」とされました。アンケート調査を通じて飼い主と犬(死亡した犬/残された犬)の属性を明確化すると同時に、死に直面した犬の変化や飼い主の心的状態を専用のフォーマットを通じて数値化しました。
心的な変化の指標
  • PBQペットの死に直面した飼い主の感情を「悲しみ」「怒り」「後ろめたさ」の3側面で評価する
  • LAPSペットとの愛着の度合いを測る
  • AHCS動物と人間をどのくらい同等視しているかを測る
  • P-Scale人生(生活)や経験をどのくらいポジティブに見られるかを測る
  • TDRS死に関する存在論的な認識(死後の世界に至るための通過点なのか消滅なのか)を測る
 最終的に残った426人(女性384+男性42/平均年齢42.19歳)のデータを解析したところ、残された犬では「注目を求める(67%)」「遊ぶ機会が減る(57%)」「活動レベルが下がる(46%)」「睡眠時間が増える(35%)」「怖がりになる(35%)」「食事量が減る(32%)」「鳴く回数が増える(30%)」といった行動の変化が頻繁に見られたといいます。
 また様々な変数と犬の行動の変化を統計的に解析したところ、以下のような項目間に関連性が見出されました。
犬の変化と影響因子
  • 犬の関係「フレンドリー」●遊ぶ機会が減る
    ●食事量が増える
  • 犬の関係「親子」●食事量が減る
    ●怖がりになる
    ●鳴く機会が増える
  • PBQで「悲しみ」が強い●食事量が減る
    ●注目を求める
  • PBQで「怒り」が強い●怖がりになる
  • 生前食事をシェア●活動レベルが下がる
    ●睡眠時間が増える
 J.ボウルビィの「愛着理論」では人とペットの愛着の度合いがペットロスの強さに影響を及ぼすとされています。調査チームは同居犬の死に際して犬たちに行動的・情動的な変化が見られたことから、人と犬の間で語られることが多い愛着理論が、犬同士の間にも適用できるかもしれないとしています。
Domestic dogs (Canis familiaris) grieve over the loss of a conspecific
Uccheddu, S., Ronconi, L., Albertini, M. et al. . Sci Rep 12, 1920 (2022), DOI:10.1038/s41598-022-05669-y

残された犬の変化は悲しみか?

 生前の犬たちの関係性だけでなく、飼い主の感情面もまた、残された犬のネガティブな変化に影響を及ぼしていました。この変化を単純に「悲しみ」とか「ペットのペットロス」と解釈するにはいくつかのハードルがあります。

生前の関係と犬の変化

 「フレンドリーな関係だった場合、残された犬の遊ぶ機会が減り食事量が増える」に関しては、仲間がいなくなって単純に遊び相手がいなくなったことや、人間で言うところの「感情的摂食」(ストレスを紛らわすために食べること)による過食などが考えられます。
 「親子関係だった場合、残された犬の食事量が減って怖がりになり、鳴く機会が増える」に関しては、子犬の発する救難信号(distress call=親犬がいなくなったとき、生後間もない子犬が発する甲高い鳴き声)や、親犬が子犬を呼ぶときの遠吠えが増えるイメージでしょうか。だとすると本能に根ざしたハードワイアな反応とも言えます。
 「食事をシェアしていた場合、残された犬の活動レベルが下がって睡眠時間が増える」に関しては、行動を共有していた仲間が急にいなくなったことによりルーチンの変更を余儀なくされたのではないかと調査チームは推測しています。

飼い主の感情と犬の変化

 生前の犬たちの関係性だけでなく、飼い主の感情面もまた残された犬に影響を及ぼしていました。
 「PBQで悲しみが強い場合、残された犬の食事量が減って注目を求める機会が増える」に関しては、感情の伝染が関わっているのではないかと推測されています。つまり飼い主の悲しみが犬に伝わって食事量が減ってしまうというものです。「注目を求める機会が増える」の方は、いつもとは違う様子の飼い主を見て異常を読み取り、「どうしたの?」と確かめようとしているのかもしれません。批判を恐れず擬人的に考えると「慰めようとしている」という解釈もできるでしょう。
 「PBQで怒りが強い場合、残された犬は怖がりになる」に関してはいくつかの可能性が考えられます。例えば「恐怖を感じている人間の体から発せられる匂いを犬が嗅覚で捉えた」「単純に飼い主の言動(大声で泣くなど)に恐怖を感じた」「飼い主主導のルーチンが変化し、生活中の予見可能性がなくなって不安になった」「社会的参照を通じて飼い主のリアクションが犬の態度を変えた」「飼い主が自分の感情を犬に投射した」などです。

気付いてあげたい「ペットのペットロス」

 過去に行われた調査により、犬は人間の勘定の変化にかなり敏感であることが判明しています。犬と死別して深い悲しみに暮れているとき、犬の行動面や感情面でネガティブな変化が見られるかもしれません。その変化の原因としてもっとも分かりやすいのは「仲間との死別を悲しんでいるから」というものですが、「犬との死別を悲しんでいるいつもとは違う飼い主に触れて不安になっているから」という説明も可能です。
 原因がどちらであっても、家の中から犬がいなくなってネガティブな影響を受けるのは人間だけではないという点は重要でしょう。調査チームは多頭飼育家庭が少なくないこと、また犬たちにも高齢化社会が進んで犬同士の死別が増えていることに言及し、親しい仲間を失ったときの犬たちの感情が見過ごされてしまうことに懸念を表明しています。 犬には同情心がある? 犬には以心伝心がある?