トップ2022年・犬ニュース一覧3月の犬ニュース3月18日

犬はおやつディスペンサー(自動給餌器)を楽しんでいる?~留守番中の退屈しのぎにはなってくれそう

 遠隔操作でおやつを一粒ずつ出してくれる留守番カメラがありますが、犬たちはこうしたペットグッズを楽しんでくれているのでしょうか?検証実験が行われました。

おやつ給餌器と犬の反応

 調査を行ったのはイギリス・ウィンチェスター大学健康福祉学部のチーム。一般家庭で飼育されている17頭の成犬を対象とし、遠隔操作でおやつを一粒づつ与えることができるトリートディスペンサー(おやつ給餌器)を用いたときの犬たちのリアクションを、質的行動解析(QBA)という手法を用いて評価しました。これは20の言葉に集約される心的な状態と強く結び付いた行動から、犬たちの抱いている気持ちを質的に推測するというものです。

実験方法

 犬たちの参加条件は分離不安の兆候がないこと、及び「おすわり」や「ふせ」といった指示語を聞いただけで再現できる行動パターンが2~4つあることとされました。実験でテストされたのは以下の3つの状況です。 遠隔操作式のおやつ給餌器に対する犬の反応実験セッティング
  • ベースライン実験室内にディスペンサーと飼い主と実験者がいる状況/飼い主が犬に対して指示を出しうまくできたらご褒美を与える
  • 機械+人実験室内にディスペンサーと飼い主と実験者がいる状況/ディスペンサーから飼い主の声で指示を出しうまく出来たらご褒美が飛び出てくる
  • 機械だけ実験室内にはディスペンサーしかない状況/ディスペンサーから飼い主の声で指示を出しうまくできたらご褒美が出てくる

実験結果

 すべての犬に上記3つのテストを行い、合計51の実験映像(17頭 × 3状況)から行動を抽出して主成分分析(複数の変数を1つにまとめて構成概念を探る手法)したところ、第1主成分に関してはすべての状況で同質と判断されました。具体的には「注意を払っている/興味を抱いている/期待している」~「葛藤している/興味を失っている」という言葉でくくられる軸のうち、ほとんどの犬ではポジティブな側面の強い前者が見られたというものです。
 一方、第2主成分に関しては、飼い主自身が指示を出す状況では「落ち着いている/不安を抱いている」~「興奮している/覚醒している」の軸内、機械が指示を出す状況では「落ち着いている/集中している」~「覚醒している/興奮している/執着している」の軸内という具合に犬ごとにばらけていたそうです。
 さらに犬たちのリアクションを質的ではなく量的に解析しましたが、状況間で統計的な格差は見られなかったとのこと。ただ「顔を上げる」「耳を立てる」「指示に対する反応(正解・不正解問わず)」と第1主成分との間に強い関連性が確認されました。
 総合的に見て、テスト状況に関わらず期待、持続的な働きかけ、能力の高さ、動機づけといったポジティブな指標が確認されました。こうした結果から調査チームは、遠隔操作できる機械を通じた犬と人との関わり合いは、それが正の強化である限り少なくともネガティブに作用することはないとの結論に至りました。
Bark to the future: The welfare of domestic dogs during interaction with a positively reinforcing artificial agent
Nicky Shaw, Francoise Wemelsfelder, Lisa M.Riley, Applied Animal Behaviour Science, Volume 249, April 2022, DOI:10.1016/j.applanim.2022.105595

犬は機械にもワクワクする

 古典的な「喜びのサイクル」(pleasure cycle)では来たるべき報酬を予想してワクワクする「期待」、実際に報酬を得て快感を得る「消費」、成功体験を通して期待感が刷り込まれる「満足」というフェーズが想定されています。
 今回の実験ではテスト状況に関わらず、犬たちが「自発的に機械に接近して指示を待つ」という行動を見せました。調査チームはこの反応が上記したサイクル中の「期待」を示しており、おやつディスペンサーが飼い主の存在と同程度にドーパミン依存性の報酬になりうると述べています。
 機械は犬を見つめたりほめたりなでたりできませんので、「飼い主と同等」という表現には論理の飛躍があると思いますが、少なくとも留守番中の犬にとって退屈しのぎが増えてくれることは間違いないようです。
 ちなみに論文のタイトルにある「Bark to the future」は、映画「Back to the future」内でドクの愛犬アインシュタインのために作られた自動給餌器をイメージしているのだと考えられます。市販されている機械にウェットタイプはNGですので真似しないでください。 犬の留守番のしつけ 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の中に登場した犬用の自動給餌器