トップ2022年・犬ニュース一覧6月の犬ニュース6月16日

飼い主の肥満は犬に伝染する~生活習慣による無自覚な虐待

 親子間では体型が類似し、太った親の子もまた太りやすくなる傾向が確認されています。この関係性は飼い主とペット犬との間でも古くから認められていますが、両者間に遺伝的なつながりはありませんので、必然的に生活習慣が原因ということになります。

人から犬への肥満の伝染

 スペインにあるラス・パルマス・デ・グラン・カナリア大学の調査チームは住人の肥満率が高く、肥満の原因となるリスクファクターが明らかになっているスペイン領カナリア諸島において大規模なアンケートを行い、人とペット間で起こる肥満の伝染に関する疫学調査を行いました。 犬の肥満 肥満体型は飼い主から犬へと伝染する  調査対象となったのは島内にある動物病院を健康診断のために受診した臨床上健康な犬と飼い主のペア198組。犬たちの肥満度を9段階のBCS、飼い主の肥満度をBMI(体重/身長2)という指標で評価し、両者の間にどのような関連性があるのかを統計的に解析しました。
 犬の肥満を「BCS6以上」と定義したところ、通常体型が61頭、肥満体型が137頭になったといいます。大まかに見て「メス」「6歳超」「不妊手術済み」という属性傾向が見られました。
 また通常体型の犬の飼い主と肥満体型の犬の飼い主の属性を比較したところ、犬の体型と飼い主の「肥満」「40歳超」「運動習慣なし」「基礎教育止まり」という属性が強く連動していたそうです。
 さらに肥満の飼い主の犬が肥満であるリスクは通常犬の3.02倍、運動習慣がない飼い主の犬が肥満であるリスクは2.76倍と算定されました。
Is Dog Owner Obesity a Risk Factor for Canine Obesity A “One-Health” Study on Human Animal Interaction in a Region with a High Prevalence of Obesity
Lourdes Suarez, Inmaculada Bautista-Castano, et al., Vet. Sci. 2022, 9(5), 243; DOI:10.3390/vetsci9050243

犬の肥満は病気・放置は虐待

 飼い主の体重や健康状態が飼い犬に影響を及ぼすという現象は、早くも1970年の段階で指摘されており、2000年代に入ってから行われた複数の調査でも追認されている普遍的なものです出典資料:Bland, 2009 | 出典資料:Nijland, 2009)

犬を肥満に陥れる危険因子

 今回の調査では飼い主の「肥満」「40歳超」「運動習慣なし」「基礎教育止まり」という属性が飼い犬の肥満体型と強く連動していることが明らかになりました。
 運動習慣がないと肥満になり、肥満になると運動が億劫になって家にこもりがちになります。こうした悪循環に加齢(基礎代謝と身体能力の低下)という要素が加わると、負のスパイラルが加速してますます太りやすくなることは自明です。さらに「基礎教育止まり」を「新しい情報に無頓着」とか「勉強が苦手」と読み替えると、肥満が万病のもとになるという知識が欠落したまま暮らしていくリスクが高まるでしょう。

根底にあるのは無知・無頓着

 今回の調査では「飼い犬は健康だと思うか?」という設問に対し、通常犬の飼い主は100%(61/61)、肥満犬の飼い主は86.1%(118/137)がYesと回答しています。肥満が疾患のスタートライン~疾患の一種であるという認識がない事自体が、犬の肥満リスクを高めているという側面が見て取れます。
 飼い主が肥満である場合、犬が肥満であるリスクはおよそ3倍、飼い主に運動習慣がない場合、犬が肥満であるリスクはおよそ2.8倍に高まると推定されました。ペット肥満予防協会(APOP)では犬や猫の肥満を疾患として認めるよう働きかけており、飼い主が肥満を引き起こしたり放置することを虐待の一種とみなす動きも出始めています。知らずしらずのうちに虐待行為に加担していた、ということがないよう自覚が必要です。 犬の肥満 犬の肥満を助長しているのは飼い主による甘やかし