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短頭種の鼻腔構造は犬種によって微妙に異なる~気道手術の成功率を左右する可能性あり

 気道狭窄を起こしやすいことで知られる鼻ぺちゃの短頭種。代表的な3犬種の鼻腔を解剖学的に比較したところ、同じ短頭種内でも微妙な違いがあり、この違いが外科手術の成功率を左右する可能性が浮かび上がってきました。

短頭種の鼻腔構造の犬種差

 北海道大学と麻布大学からなる共同チームは2014年10月から2021年4月の期間、2大学付属の獣医教育病院において頭部CTスキャンを受けた短頭種の医療データを後ろ向きに参照し、鼻腔内の解剖学的な構造を比較検証しました。解析対象となったのは以下の3犬種です。
短頭3犬種
短頭種の代表格的な3犬種~フレンチブルドッグ・パグ・シーズー
  • フレンチブルドッグ20頭/8歳(1~13歳)/去勢オス9頭+未去勢オス1頭+避妊メス10頭
  • シーズー20頭/10.5歳(6~13歳)/去勢オス7頭+未去勢オス3頭+不明オス4頭+避妊メス4頭+未避妊メス1頭+不明メス1頭
  • パグ10頭/8歳(2~13歳)/去勢オス6頭+未去勢オス1頭+不明オス1頭+避妊メス2頭
 犬たちのCT画像を切歯レベル、犬歯レベル、口蓋水平板レベル、眼窩下孔レベルで区分し、それぞれのレベルにおけるAA/NC比を算出したところ、以下のような統計的特徴が認められました。ここで言う「AA/NC比」とは総鼻腔領域(下写真の黄色枠)を気道横断領域(下写真の緑エリア)で割った値のことで、気道領域が小さくなるほどAA/NC比も小さくなります。
AA/NC比の犬種差
総鼻腔領域を気道横断領域で割ったAA/NC比の模式図
  • 切歯レベルシーズー>他犬種
  • 犬歯レベルシーズー>他犬種
  • 口蓋水平板レベルシーズー<他犬種
  • 眼窩下孔レベルフレンチブルドッグ>他犬種
Assessment of Nasal Structure Using CT Imaging of Brachycephalic Dog Breeds
Ryo Oshita, Sakie Katayose, Eiichi Kanai, Animals 2022, 12(13), 1636; DOI:10.3390/ani12131636

鼻先の狭窄が重症度と連動

 短頭種気道症候群(BAS)を発症しやすく、また重症化しやすいフレンチブルドッグパグに関しては、AA/NC比が吻側(口の先端)から尾側(喉の奥)に向かうほど増大するという共通の傾向が見られました。一方、短頭種ではあるもののBASの発症率が低いシーズーに関しては、犬歯レベルのAA/NC比が最大で口蓋水平板レベルが最小という逆の傾向を見せました。 犬歯レベルにおける短頭3犬種のAA/NC比  過去にブルドッグを対象として行われた水力学調査では、鼻腔の吻側1/3における抵抗がとりわけ強い(=通りが悪い)と報告されています。今回のデータと合わせ調査チームは、鼻腔吻側における気道の虚脱が短頭種気道症候群の重症度を高めるリスクではないかと推測しています。また矯正手術にも関わらず、およそ半数の犬では症状の改善が見られない理由には、上記した解剖学的な犬種差が関わっているのではないかとも言及しています。
鼻腔狭窄を外科的に矯正する場合、成功率を最大にまで高めるため犬種ごとに異なるアプローチをしていく必要があるかもしれません。犬の鼻腔狭窄(短頭種気道症候群)