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アイコンタクトに現れる犬の認知症サイン~自宅でできる簡単なテスト方法

 犬と人との間で行われるコミュニケーションの基本であるアイコンタクト。犬がシニア期に入った場合、この持続時間を認知症の簡易テストとして応用できるようです。

犬の認知症はアイコンタクトに出る

 実験を行ったのはノースカロライナ州立大学のチーム。人間や犬を対象とした認知症の調査において、認知機能との連動が報告されている「注意の維持能力の低下」に着目し、アイコンタクトを応用した「注視継続テスト」を試験的に開発しました。

実験方法

 実験に参加したのはノースカロライナ州立大学獣医学校の生徒やスタッフからリクルートされた合計20名。犬の参加条件は臨床上健康で食べ物に対する動機づけが強い純血の老犬です。便宜上「高齢犬(senior)」はAKCが公開している犬種平均寿命の最後の25%、「老齢犬(geriatric)」はAKCが公開している犬種平均寿命をすでに超えている犬と定義されました。また「注視継続テスト」の具体的な内容は以下です。
注視継続テスト (Sustained Gaze Test)
元動画は→こちら
✅床が滑らず、気をそらすようなものを排除した静かな室内に犬を誘導する
✅動機づけを確保するためハイグレードなおやつを用意し、最後の食事から少なくとも2時間空ける
✅飼い主は片方の手で顔の横におやつを掲げ、もう片方の手でスマートフォンを掲げて犬の顔を録画する
✅犬がそっぽを向いているタイミングで名前を呼びアイコンタクトを取る
アイコンタクトが始まった時点をスタート、犬が自発的にアイコンタクトを崩した瞬間、もしくはアイコンタクトを保ちながら60秒が経過した時点をゴールとし、注視継続時間とする
✅名前以外の余計なコマンド(おすわり・ふせ)を出したり名前を繰り返し呼ばない
✅偶発的な強化を避けるため目線をそらした直後ではなく、しばらく時間をおいてからご褒美を与える
✅常に同一の人物が同一の室内で、同じおやつを用いて週に1度の頻度で1日3回テストを行う×3週間
✅飼い主の顔とおやつの間を行き来する状態は許容範囲とする

実験結果

 飼い主にはテストと同時に「CADES」と呼ばれる犬の認知症の度合いを推し量るアンケートに回答してもらいました(高いほど認知症の度合いが高い)。注視継続時間を統計的に多変量解析したところ、年齢そのものではなくこのCADESスコアとの間に負の関係があったといいます。言い換えるとスコアが高ければ高いほど(=認知症の度合いが強いほど)注視時間が短くなる(=飼い主の顔から早く目線をそらす)となります。またCADESスコアで重度(45超)と評価された犬たちを極端な例として除外して同様の解析を行っても、やはり同様の関係性が残ったそうです。
 今後さらに調査対象数を増やしてテストの有効性が証明された暁には、飼い主が自宅でできる簡易テストとして犬の認知症の早期発見に役立つだろうと期待を寄せています。
Sustained Gaze Is a Reliable In-home Test of Attention for Aging Pet Dogs.
Hoel JA, Templeton GB, Fefer G, et al., Front Vet Sci. 2021;8:819135. Published 2021 Dec 23. DOI:10.3389/fvets.2021.819135

家庭でできる簡易認知症テスト

 過去に犬を対象として行われた調査では、血漿中に含まれる神経細胞死を示すニューロフィラメント軽鎖と認知症の発症に関連したβアミロイド40および42の濃度と、CADESスコアが連動している可能性が示されています。今回の調査内容に病理学的な検査は含まれていませんが、アイコンタクトの持続時間とCADESスコアが連動しているようですので、病院に行く前に家庭でできる簡易テストとして役立ってくれそうです。
 資料として提出された映像資料の35.5%(全頭中70%)では位置や姿勢を変えるという行動が見られました。高齢という点から考え、関節の痛みが関連しているのではないかと推測されています。テストを行う際は犬の居心地が良い場所で行ったほうが紛れが少なくなるでしょう。
 おやつもしくはスマホと飼い主の顔を交互に見つめるという行動が全資料の16.4%(全頭中40%)で見られました。今調査においては犬の意識がこちらに向いている限り、この行動も「注視」に含まれるとされました。
 一部では興奮やフラストレーションのため視線を外してぐるぐる回ったりする犬が見られました。必ずしも注意力が切れているわけではないものの、それが注視という形で現れない犬にこの簡易テストは向いていないと調査チームは指摘しています。
別室で誰かがくしゃみをするとか外から救急車のサイレンが聞こえるなど、犬の集中力を阻害する刺激が加わった場合は無効・やり直しとなります。定時観測すると変化がよくわかるかもしれません。犬の認知症