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生肉ベースのドッグフード(RMBD)に含まれるサルモネラ菌の危険性

 日本国内で流通している犬向けのおやつはおよそ2%の割合でサルモネラ菌に汚染されているとされます。では殺菌消毒していない生肉ベースのフード(RMBD)には、一体どのくらいの割合でこの食中毒菌が含まれているのでしょうか?

生肉フード中のサルモネラ菌・日本編

 調査を行ったのは倉敷芸術科学大学を中心とした共同チーム。2016年12月から2017年3月にかけ、岡山県及び大阪府内で生肉ベースのフード(raw meat-based diet, RMBD)を60種類(国産商品50+輸入商品10)購入し、サルモネラ菌の有無を調べると同時にPCR検査を通して血清型を特定しました。
 その結果、サルモネラ菌が12%(7商品)の割合で検出されたと言います。商品はすべて国産で鶏肉3種、鹿肉1種、カンガルー肉1種、その他2種という内訳でした。血清型に関しては「S. Infantis」が3、「S. Typhimurium」が1、「S. Schwarzengrund」が1、残りは特定不可だったとも。さらに薬剤耐性遺伝子を調べたところ、「aadA1(ストレプトマイシン耐性)」、「dfrA12(トリメトプリム耐性)」、「floR(フロルフェニコール-クロラムフェニコール耐性)」、「tetB(テトラサイクリン耐性)」が検出されたそうです。
 これらの汚染食材により、実際に食べるペット動物だけでなく食材を素手で扱う人間にも薬剤耐性を持ったサルモネラ菌が感染してしまう危険性を否定できないと、調査チームは警鐘を鳴らしています。
Anti-microbial resistance of Salmonella isolates from raw meat-based dog food in Japan
Shoichiro Yukawa,Ikuo Uchida,Hiroshi Takemitsu,et al., Veterinary Medicine and Science(2022), DOI:10.1002/vms3.739

生肉は犬にも飼い主にも危険

 今回の調査で検出されたS. Typhimuriumはネズミチフス菌として知られ人間を含めた多くの哺乳動物で食中毒を引き起こす原因菌です。またS. Schwarzengrundは広島市で集団食中毒事例を引き起こしたことがある前科菌、そしてS. Infantisは鶏肉から頻繁に分離される食中毒原因菌です。こうした菌が生肉ベースの犬向け製品に12%という高い割合で含まれているという事実は深刻な脅威と考えてよいでしょう。 汚染された生肉がペット動物を通じて病原体を広げる模式図  上記したようなリスクがあることから、アメリカの食品医薬品局(FDA)や疾病予防管理センター(CDC)ではペット向けの生肉の扱いに関する注意喚起を行っています。また世界小動物獣医師会(WSAVA)でもその危険性を公的に指摘しています。
 一方、日本国内では2014年に農林水産省が「ペットフードの適正製造マニュアル」を作成・公開し、製造業者が遵守すべき項目を明記しました。その中では微生物汚染を防ぐ具体的な方法も例示されていますが、そもそもRMBDの定義は加熱処理をしないことですので、殺菌を免れた病原体が原材料の中で増殖しても不思議ではありませんし、実際に増殖しています。
 ペットフードの安全性を確保するためFAMIC(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)では抜き打ち検査を行っているものの、対象はウェットフードやドライフードばかりで少数派のRMBDはそもそも検査されておらず、またサルモネラ菌も検査項目に入っていないのが現状です。
 ペットの健康を保つ上でも、また多剤耐性菌の蔓延を防ぐ上でも、生肉食の安全性をしっかりモニタリングする体制の確立が強く望まれます。
2019年、犬向けのおやつを対象として行われた先行調査では約2%の割合でサルモネラ菌が検出されています。感染予防法は以下のページをご参照ください。犬向けおやつは2%の確率でサルモネラ菌に汚染されている