トップ2021年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月16日

膿皮症を引き起こすブドウ球菌は犬の鼻にも生息している

 膿皮症と診断された犬を対象とした調査により、病変部と鼻腔内には高い割合でブドウ球菌が生息しており、なおかつ多剤耐性の割合がほぼ同じであることが明らかになりました。

膿皮症患部と鼻腔のブドウ球菌

 調査を行ったのは東京薬科大学のチーム。2011年7月から9月の期間、東京都内にある一次診療病院で表在性(superficial, 浅層)の膿皮症と診断されたペット犬125頭の鼻腔からスワブ(綿棒)サンプルを採取すると同時に、2014年7月から9月の期間、関東圏にある3つの一次診療病院で表在性膿皮症と診断されたペット犬108頭(東京43+埼玉40+千葉25)の病変部からスワブサンプルを採取しました。 発症部位によって分類される膿皮症  重複個体がない両サンプルを対象とし、犬における膿皮症の原因菌として数多くの報告があるブドウ球菌にターゲットを絞ったDNA調査を行ったところ、以下のような割合で菌が検出されたと言います。「S.」は「Staphylococcus=ブドウ球菌」の意味です。
部位別に見たブドウ球菌
  • 鼻腔125頭ブドウ球菌は92頭(73.6%)から合計107サンプル(13種)が採取され、特に以下の3種が多かった(※MR=メチシリン耐性)。
    ✓S. pseudintermedius=57(53.3%)
    ※うちMRSP=18(31.6%)
    ✓S. schleiferi=26(24.3%)
    ※うちMRSS=8(30.8%)
    ✓S. aureus=5(4.7%)
    ※うちMRSA=2(40.0%)
  • 病変部108頭ブドウ球菌は98頭(90.7%)から合計110サンプル(8種)が採取され、特に以下の3種が多かった(※MR=メチシリン耐性)。
    ✓S. pseudintermedius=82(74.5%)
    ※うちMRSP=28(34.1%)
    ✓S. schleiferi=18(16.4%)
    ※うちMRSS=5(27.8%)
    ✓S. aureus=1(0.9%)
    ※うちMRSA=0(0%)
 ブドウ球菌の単離率に関しては、全種類を合わせた全体で見ても(P<0.001)、最も多いS. pseudintermediusに限定して見ても(P<0.01)、「病変部>鼻腔」という格差が見られました。
 一方、とりわけ単離率が高かった「S. pseudintermedius」「S. schleiferi」「S. aureus」を対象としてメチシリン耐性を示す「mecA遺伝子」の有無を確認しましたが、 MRSPとMRSSの検出率は採取場所で変わらないという結果になりました。さらにMRS菌を対象とした多剤耐性テストを行ないましたが、サンプルの採取場所で抵抗性に違いは見られませんでした。
Prevalence of antimicrobial-resistant staphylococci in nares and affected sites of pet dogs with superficial pyoderma
Hidemasa Nakaminami, Yuu Okamura, Satomi Tanaka et al., J. Vet. Med. Sci.83(2): 214-219, 2021, DOI:10.1292/jvms.20-0439

犬と飼い主間の人獣感染

 ブドウ球菌属には大別して「コアグラーゼ陽性」と「コアグラーゼ陰性」とがあり、一般的に陽性菌の方が毒性が強く、特に「S. aureus(黄色ブドウ球菌)」「S. pseudintermedius」「S. schleiferi」は人間においても犬においても毒素を産生する病原菌として多く報告されています出典資料:Iyori, 2014)犬の表在性膿皮症とその原因菌であるメチシリン耐性S. pseudintermedius  日本国内においては特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のうちS. pseudintermedius(MRSP)とS. schleiferi(MRSS)が問題になっており、過去に行われた疫学調査では犬からのMRSP検出率が66.5%、今回の調査でも31.6%(鼻腔)~34.1%(病変部)に達することが明らかになりました出典資料:Kawakami, 2010)。海外で行われた調査では0~7%とされていますので、国内ではすでにMRSPがかなり蔓延していると言ってよいでしょう。 犬と人間における病原菌の伝染ルート  ブドウ球菌の検出率に関し「病変部>鼻腔」という勾配があったこと、および病変部と鼻腔という空間的に離れた場所でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が同じ割合で検出されたことから考え、犬が患部をなめたり嗅いだりすることによって口元や鼻腔内に細菌が移行してしまった可能性が伺えます。
 片利共生的なブドウ球菌は犬の皮膚や粘膜から90%近い割合で検出されるありふれた常在菌ですが、不適切で無節操な抗菌薬管理が耐性の獲得につながり、最終的に膿皮症を引き起こすと考えられています。臨床の現場で犬を診察する獣医師や、犬の飼い主の皮膚感染症病変部からS. pseudintermedius株が分離されたという報告があることから、犬に手や顔をなめられることによって「犬→人間」という病原菌の伝播が懸念されますので、双方の健康を維持するためにも過度なスキンシップには注意したいものです。また犬が膿皮症の診断を受けた場合は、患部から口腔・鼻腔への病原菌移行を防ぐため、エリザベスカラーの装着が推奨されます。
犬の鼻に関しては院内感染菌として厄介視されている「C.ディフィシル」を保有している可能性も指摘されています。 犬の鼻を介したC.ディフィシル感染症に要注意!