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犬の鼻を介したC.ディフィシル感染症に要注意!

 院内感染菌として厄介視されている「C.ディフィシル」。犬の呼吸器を対象とした調査により、「鼻」という以外な場所が人間に対する感染源になっている可能性が示されました。

C.ディフィシルとは?

 クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)は芽胞形成性嫌気性グラム陽性桿菌の一種。2016年、系統発生学による分類に基づき従来の「クロストリジウム・ディフィシル」という名称から改名されました。 クロストリディオイデス・ディフィシル(旧:クロストリジウム・ディフィシル)の電子顕微鏡写真  トキシンAおよびBと呼ばれる2つの外毒素を産生し、抗菌薬に関連した下痢症の15~20%を引き起こしていると推計されています。
 人間における主な症状は水様性の下痢、発熱、食欲不振、吐き気、腹痛で、重症化すると偽膜性大腸炎、中毒性巨大結腸症、大腸穿孔、敗血症を合併することがあります。

犬の呼吸器におけるC.ディフィシル陽性率

 今回の調査を行ったのはベルギーにあるリエージュ大学獣医学部のチーム。呼吸器系の疾患で入院治療をしている21頭の犬(13頭はベルギー+8頭はフィンランド)を対象とし、どのくらいの割合でC.ディフィシルに感染しているかを調べました。 クロストリディオイデス・ディフィシルは犬の呼吸器内から高い確率で検出される  麻酔下で採取した鼻腔内粘液および気管支洗浄によって得られた液体を調べたところ、35サンプル中6サンプル(17.1%)、21頭中4頭(19%)の割合で陽性だったと言います。さらに検出された菌をPCRと呼ばれる手法でサブクラスに分類したところ、トキシンAおよびBの両方を産生する病原性の強い「014型」と同定されました。
 こうした結果から調査チームは、「犬の鼻」という以外な場所がC.ディフィシルの感染源として機能している可能性を否定できないと指摘しています。
Clostridium difficile beyond stools: dog nasal discharge as a possible new vector of bacterial transmission
C. Rodriguez, B. Taminiau et al., Heliyon. 2019 May; 5(5): e01629, doi: 10.1016/j.heliyon.2019.e01629

犬の鼻には要注意!

 C.ディフィシルは土壌、公園の砂場、河川などから検出される比較的ありふれた病原菌です。汚染された場所を歩くことにより、人間の靴底や犬の肉球に菌が付着していとも簡単に感染源となります。また汚染ルートは解明されていないものの、牛肉、豚肉、七面鳥といった食肉から検出されることもあります。 C.ディフィシルは犬が地面を嗅ぎ回るときに鼻腔内に入り込む  今回の調査により、「犬の鼻」と言う意外な場所が感染源になっている可能性が示されました。散歩中に地面をクンクンと嗅ぎまわることにより、偶発的に病原菌を鼻腔内に吸い込んでしまうものと推測されています。 C.ディフィシルは犬が自分の鼻先を舐めることで消化器内に侵入する  また犬は頻繁に自分の鼻先を舐めるため、呼吸器から容易に消化器内にC.ディフィシルが移行します。通常は胃酸によって不活性化されますが、そのまま消化管を降り糞便中に排出されるものもいるかもしれません。その状態で他の犬とあいさつをしたら、別の犬の鼻先にC.ディフィシルが移行してしまう危険性があるでしょう。また汚染されたベロで飼い主の顔を舐めると、人間に対しても病原菌を移してしまう危険性があります。 C.ディフィシルは犬同士がお尻の嗅ぎ合いをする時に伝染する  C.ディフィシル感染症による死亡リスクを高める要因としては抗菌薬への曝露、胃腸の手術歴、医療施設での長期滞在、重篤な基礎疾患、免疫不全、高齢などがあります。犬に顔を舐められたり手を舐められたりした後は、しっかりと当該部位を洗うようにしたほうが安全でしょう。また犬自身が急性の下痢や大腸炎を発症してしまうこともありますので、免疫力を落とさないようストレスや栄養管理を行うことも必要です。 犬のストレスチェック C.ディフィシルは犬が飼い主を舐めることによって人間にうつる