トップ2020年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月6日

犬が短頭種(鼻ぺちゃ)だと肝臓にまで悪影響が出る~睡眠時無呼吸症候群と同じ肝炎や線維化の危険性

 人間における睡眠時無呼吸症候群は、気道の閉塞だけでなく慢性的な低酸素状態によって肝臓や脾臓に悪影響が出るとされています。短頭種(鼻ぺちゃ)の犬を対象とした調査により、人間の無呼吸患者で見られるのと同様の病変が肝臓や脾臓に発生する危険性が確認されました。

短頭種気道症候群と肝臓の硬さ

 調査を行ったのはブラジルにあるサンパウロ州立大学(UNESP)のチーム。人医学の分野で報告されている、睡眠時無呼吸症候群に伴う肝臓や脾臓での二次的な病変が犬においても見られるかどうかを確かめるため、気道の閉塞と呼吸困難を主症状とする短頭種気道症候群(BOAS)を抱えた犬を対象とした検査を行いました。 犬の短頭種気道症候群(BOAS)
睡眠時無呼吸症候群
 睡眠時無呼吸症候群とは口の中の軟部組織によって気道が閉塞される呼吸器系の病気。仰向けになって眠ったとき、口蓋や舌の位置が重力によって変化し、より深刻な悪影響を及ぼすことから「睡眠時」無呼吸症候群と呼ばれる。 閉塞性睡眠時低呼吸の発症メカニズム  慢性的な低酸素状態によって肝臓への酸素供給が滞り、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)から細胞の壊死と線維化が引き起こされ、最悪のケースでは肝硬変にまで発展する。肝臓が線維化することによって血液の流れが悪くなると、供給源である門脈の血圧が上昇し(門脈圧亢進症)、脾臓の腫大→機能不全→白血球や血小板数が減少といった連鎖を通じて感染や出血のリスクが高まる。 MSDマニュアル・門脈圧亢進症
 調査に参加したのは短頭種の代表格である31頭のフレンチブルドッグと17頭のパグ(メス65% | 3.1kg | BCS6.0)。比較対象としては中頭種の代表格であるビーグル22頭(メス55% | 3.7kg | BCS5.95)が参加しました。「ARFI」(音響放射力インパルス)と呼ばれる技術を用いたエラストグラフィ(硬度計)で体の外から肝臓と脾臓の硬さを計測したところ、以下のような値になったといいます。数値は剪断波弾性波速度(SWV)を表しており、数値が大きいほど硬いという意味です。
肝臓の硬さ(m/s)
計測部位短頭種中頭種
内側葉1.530.96
左葉1.470.93
右葉1.200.74
尾側葉1.230.76
計測部位症候組無症候組
内側葉1.571.10
左葉1.541.03
右葉1.230.85
尾側葉1.280.85
脾臓の硬さ(m/s)
  • 短頭種総合=2.51
  • 短頭種・症候組=2.47
  • 短頭種・無症候組=2.41
  • 中頭種=2.29
無症候組
グレード0
呼吸時のノイズなし/努力呼吸なし/呼吸困難・チアノーゼ・卒倒なし
グレード1
呼吸時のノイズなし~軽度/努力呼吸なし~軽度/呼吸困難・チアノーゼ・卒倒なし
Liver and spleen elastography of dogs affected by brachycephalic obstructive airway syndrome and its correlation with clinical biomarkers.
Facin, A.C., Uscategui, R.A.R., Maronezi, M.C. et al. Sci Rep 10, 16156 (2020). DOI:10.1038/s41598-020-73209-7

呼吸困難は肝臓まで障害

 短頭種と中頭種の肝臓の硬さを比較した結果、計測部位に関わらず短頭種の方が統計的に有意なレベルで硬いことが明らかになりました。さらに無症候性の短頭種(症状の軽いグレード0と1=24頭)と症候性の短頭種(症状の重いグレード2と3=24頭)とを比較した場合、症候性の犬たちの方が高い値を示しました。
 過去に人間の子供を対象として行われた調査では、肝臓に線維症がある子とない子のSWV差が0.362m/sだったとされています。当調査では短頭種と中頭種の差が0.509m/s、症候組と無症候組の差が0.447m/sでしたので、BOASの症状が重ければ重いほど肝臓も硬くなるという正の相関を確認することができます。
 その一方、肝臓に病変があると診断する際の参照値としては以下のようなものが報告されています。
肝病変とSWV値(m/s)
  • 人間の重度肝線維症→平均1.48
  • 人間の肝硬変→平均1.63
  • 子供の肝炎や線維症→1.7
  • 肝炎を抱えた犬→中央値1.61
  • 線維症を抱えた犬→中央値2.04
 当調査における値は1.28~1.57m/sで、必ずしも上記した値とは合致しませんでしたが、計測部位を統一した上でより大規模な調査を行えば、診断的な価値が高い参照値が得られるでしょう。同時に行われた血液検査では、炎症反応を示唆する「好中球/リンパ球比」の上昇が短頭種において見られましたので、BOASの重症度に関わらず肝炎が起こっている可能性が十分に考えられます。

問題は体重より鼻ぺちゃ

 人間においては睡眠時無呼吸症候群に伴う肝疾患および肝線維症のリスクは、BMIとは独立した形で高まるとされています。犬を対象として行われた当調査においても、体型(BSC)と肝臓の内側葉SWV値、好中球、好中球/リンパ球比で弱い連動が確認されただけでした。この事実から、BOASの重症度に影響を及ぼしているのは体型よりも生まれ持った解剖学的な構造の方だと推測されます。具体的には頭蓋骨の変形に伴う軟口蓋のひだ化と肥厚、鼻甲介の密集、鼻腔の狭窄、喉頭小嚢の反転、喉頭虚脱、気管の低形成などです。下に示した喉頭(のどの奥)の図ではグレード0が最も軽症、グレード3が最も重症になります。 短頭種気道症候群による後頭部の狭窄化グレード0~3

脾臓への悪影響にも注意

 人間の子供を対象とした調査では、肝臓に線維症を抱えている場合の脾臓SWVが2.51m/s、抱えていない場合のそれが2.16m/sと報告されています。犬を対象として行われた当調査においては、統計的に有意には届かなかったものの「短頭種2.51m/s>中頭種2.29m/s」という同じ傾向が確認されました。
 この事実から、人医学の領域で確認されている肝臓病変(線維化・肝硬変)に伴う脾臓への悪影響が、犬においても存在している可能性が懸念されます。具体的には白血球の減少による免疫力の低下や、血小板の減少による易出血性などです。

根本的な解決は繁殖制限

 調査チームは、短頭種気道症候群(BOAS)を抱えた犬に対してはなるべく早く医療的な介入を行い、外科手術によって解剖学的な構造の改善を行う必要があると指摘しています。これは人間に対して行われる「CPAP」(シーパップ=経鼻的持続陽圧呼吸)療法に相当するとも。
 しかし根本的な解決法は、そもそもこのような犬種を繁殖しないことです。日本国内では鼻ぺちゃ犬専門の雑誌が発行されており、「ブヒブヒ」と鼻を鳴らすことがあたかも可愛さの表れであるかのような扱いをしています。短頭種の犬たちは気道の閉塞によって慢性的な息苦しさを感じているだけではなく、低酸素血症によって肝臓や脾臓が蝕(むしば)まれています。人間における睡眠時無呼吸症候群が、眠っているときだけでなく常に起こっている状態を想像して下さい。
犬の健康を無視した営利目的のブリーディングは虐待繁殖と言っても過言ではありません。繁殖に関わる人間、販売する人間、その販売を助長しようとする人間のすべてが自覚を持つ必要があるでしょう。ペットショップで犬を買う前の注意