トップ2019年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月2日

犬と一緒に寝るのはいいこと?悪いこと?

 犬と一緒に寝ることは飼い主の睡眠の質にどのような影響を及ぼすのでしょうか?毎晩犬と同じベッドで寝ているという人を対象としたアンケート調査が行われました。

犬と一緒に寝る悪影響

 調査を行ったのはオーストラリアにあるセントラルクイーンズランド大学のチーム。犬と一緒に寝ることが飼い主の睡眠の質にどのような影響を及ぼしているのかを検証するため、オーストラリア国内に暮らす健康な女性を対象としたアンケート調査を行いました。調査に参加したのは以下の5名です。
毎晩犬と一緒に寝ている人たち
犬と一緒に寝ている人は睡眠中頻繁に起こされる
  • 50代女性週40時間以上働いているフルタイムワーカー | 毎日キングベッドで配偶者および犬とともに眠る | 犬は避妊済みのマルチーズミックス(11歳)
  • 50代女性仕事はリタイア済みで独身の一人暮らし | 避妊済みのチワワミックス(7ヶ月齢)および猫とともに毎日眠る
  • 60代女性既婚 | 配偶者および2頭の犬と毎日同じベッドで眠る | 犬は去勢済みのオーストラリアンテリア(7歳)とキャバリアキング・チャールズ・スパニエル(11歳)
  • 20代女性学生 | 同棲中のパートナーおよび犬と毎日一緒に眠る | 犬は去勢済みのスタッフィクロス(1歳)
  • 20代女性パートタイマー | パートナーおよび犬と毎日一緒に眠る | 犬は去勢済みのスタッフィクロス(1歳4ヶ月)
 自分自身と犬に関する統計学的な基本情報のほか、睡眠日誌をつけてもらうと同時に「PSQI」(Pittsburgh Sleep Quality Index)と「ESS」(Epworth Sleepiness Scale)という睡眠に関するアンケート調査に回答してもらいました。前者は睡眠の質を測るための指標で、後者は日中の眠気を測るための指標です。また飼い主の腕と犬の首輪の前面に速度計を付け、睡眠中にどの程度の活動が見られるかを客観的にデータ化しました。
 最終的に調査対象となった28日分、29,832に及ぶ観測ポイントを統計学的に解析したところ、以下のような事実が判明したといいます。なお「睡眠効率」とはベッドや寝床に入っている時間のうち実際に眠りに落ちている時間が占める割合のことで、85%くらいがちょうどよいとされています。
犬と一緒に寝る影響
  • 犬たちは平均して17.46%覚醒状態にあった
  • 飼い主が目を覚ましている確率に関し、犬が覚醒していない時間帯(2.45%)に比べ覚醒している時間帯(10.55%)おいては4.3倍
  • 犬と人間の両方が安静状態にある時、人間側の睡眠効率は93%まで高まった
  • 犬が覚醒状態にある時、睡眠効率は81%まで落ち込んだ
  • 日中の眠気を測るESSに関し、5人中3人は過度な眠気を感じた
  • 睡眠の質を測るPSQIに関し、5人中3人が5以上を記録し質の良い睡眠をとれていない可能性が示唆された
 こうしたデータから調査チームは、犬と一緒に眠ることが飼い主の睡眠の質を低下させる恐れがあるとの結論に至りました。しかし客観的なデータから導き出された結論は飼い主の主観評価とは必ずしも一致せず、80%(5人中4人)では自分自身の睡眠を「よい」もしくは「大変よい」と評価したとのこと。このことから睡眠の質は客観的クオリティと主観的なクオリティの差し引きで決まるものと考えられています。
An Exploratory Study of Human?Dog Co-sleeping Using Actigraphy: Do Dogs Disrupt Their Owner’s Sleep?
Bradley P. Smith, Matthew Browne, Jessica Mack & Thomas G. Kontou(2018) , Anthrozoos, 31:6, 727-740, DOI: 10.1080/08927936.2018.1529355T

問題は「犬と同じベッドで寝る」こと

 2015年8月から12月の期間、アメリカのメイヨークリニックが行った別の調査では、犬と同じ部屋で眠ることが必ずしも飼い主の睡眠クオリティを低下させないとの結論に至っています。こちらの調査では睡眠障害を抱えていない40人の健康な成人が観察対象となりました。被験者の88%が女性、平均年齢44歳。犬の平均年齢が5歳、平均体重が15kgという内訳です。
 調査の結果、飼い主がベッドの中にいた総時間が475分で、睡眠効率(寝床に入っていた時間÷実際に眠っていた時間)に換算すると81%になったといいます。また犬がただ単に室内にいる時よりも、ベッドの上にいる時の方が飼い主の睡眠効率が低下したとも(Patel, 2017)
 一般的な睡眠効率の理想値は85%くらいとされていますので、「やや寝不足」といったところでしょうか。この傾向は犬が横でもぞもぞ動いたり顔をなめたりして、飼い主を起こしてしまう状況で強まると考えられます。オーストラリアで行われた今回の調査でも、犬が覚醒していない時間帯(2.45%)より、覚醒している時間帯(10.55%)おいては飼い主が4.3倍も多く目を覚ましていたと言いますので、犬が睡眠妨害をするという事実は確かにあるようです。ちなみに犬の睡眠は1サイクル21分からなる20回の睡眠サイクルから成り立っているといいます(Adams & Johnson, 1994)。21分のうち5分は覚醒状態ですので、暇つぶしにうろうろ動いたり飼い主にちょっかいを出すのは当然といえば当然でしょう。また欧米においては大型犬が庭で用を足すために飼い主を起こすというシチュエーションも増えるかもしれません。

寝不足だけどぐっすり眠れる?

 睡眠の質や日中の眠気を測る客観的な指標においては、過半数の人で質の良い睡眠を取れていない可能性が示されました。しかし飼い主による主観的評価では5人中4人までもが「ちゃんと睡眠を取れている」と回答したと言います。客観的データと主観的評価に食い違いが生まれる理由は、睡眠は邪魔されるけれども犬がそばにいることで得られる精神的なメリットが大きいからだと考えられます。
 同居人がいる場合、パートナーもろとも犬と同じベッドに入るというシチュエーションが多々生まれるようです。パートナーも犬好きならば問題ありませんが、犬の侵入を渋々許しているような場合は、上で示したような「犬がそばにいることで得られる精神的なメリット」が十分に享受できていない危険性があります。その人にとって犬はただ単に睡眠を妨害する夜中の道路工事と同じ存在になってしまいますので注意が必要となるでしょう。
 犬と人間の絆は些細なことから崩れていきます。相手(同棲相手や配偶者)のコンセンサスを得られていないような場合は、犬が寝る場所に関して一度話し合う必要がありますね。 訓練に対する犬の成績を高めるには睡眠が効果的 犬の睡眠の質と量に影響を及ぼすのは起きている時の活動内容と寝る場所