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犬のブドウ中毒~原因・症状から予防・治療法まで

 犬が食べてはいけないものとして多くの犬関連書籍に記載されているブドウやレーズン。では一体、ブドウの中の何が犬の体に有毒なのでしょうか?また間違って食べてしまった場合、どのような症状が引き起こされるのでしょうか?

犬のブドウ中毒とは?

 「ブドウ中毒」とは犬がブドウの果実もしくはレーズンを食べてしまうことによって発症する中毒のこと。2000年初頭に最初の症例報告が出されて以来、徐々に認知度が高まり、現在ではほとんどの書籍に「犬が食べてはいけないもの」としてリストアップされています。基本情報は以下です。 腎毒性があるため犬にブドウやレーズンを与えてはいけない

犬のブドウ中毒・原因

 犬のブドウ中毒はブドウおよびレーズンを経口的に摂取することで発症します。具体的にどの成分が犬にとって毒なのかはいまだにわかっておらず、以下のような発症メカニズムが想定されています。
犬のブドウ中毒の原因候補
  • 皮に付着した殺虫剤、除草剤、カビ(マイコトキシン)が腎毒性を発揮している
  • 果実に含まれる高い糖分が腎臓のミネラル化と高カルシウム血症を引き起こしている
  • ビタミンD類似物質が高カルシウム血症を引き起こしている
  • 主に皮に含まれるレスベラトロールが毒性を発揮している
 一体どのくらいの量を食べたら発症するのかに関してもよくわかっておらず、体重1kg当たり3gで発症する場合もあれば、150g食べてようやく発症するパターンもあります。またブドウを食べても中毒に陥らない犬がいることから、犬種を始めとする何らかの遺伝性が関わっている可能性も示唆されています。

犬のブドウ中毒・症状

 犬のブドウ中毒では近位尿細管細胞の変性や壊死に伴う急性腎不全が多く見られます。何らかの症状が現れるのは誤食から8~24時間後、高窒素血症に発展するのはおおむね24~48時間後です。また過去に行われた報告では、受診時に高窒素血症を示していた犬の致死率が50%など極めて高い値が報告されています。
 よくある初期症状に関しては、ミシガン州立大学を中心としたチームがアメリカ国内にある3つの獣医療機関に集積された電子医療記録(2005年から2014年の期間)を回顧的に調査し、ブドウやレーズンの誤食と急性腎不全および予後との関係性を包括的に検証しました。その結果、139の症例(年齢中央値4歳 | 体重中央値21.35 kg)が見つかったといいます。
 62.6%(87症例)はレーズンの誤食、36.7%(51症例)はブドウの誤食、残り1症例は両方の誤食という内訳でした。また便宜上、誤食から4時間以下を「急性」(59%, 82症例)、4時間超を「慢性」(41%, 57症例)として症状を調べていったところ、以下のような結果になったとのこと。パーセント表示は「急性+慢性=合計」の順に記載してあります。
犬のブドウ中毒・主症状
犬のブドウ中毒でよく見られる症状一覧(急性+慢性)
  • 嘔吐→3.5%+9.5%=13.0%
  • 元気喪失→1.4%+5.0%=6.4%
  • 多飲→1.4%+3.0%=4.3%
  • 下痢→0.7%+3.0%=3.7%
  • 多尿→0.7%+2.1%=2.8%
  • 腹痛→0%+1.4%=1.4%
  • 食欲不振→0%+1.4%=1.4%
  • 運動失調→0%+0.7%=0.7%
  • 鼓腸→0.7%+0%=0.7%
  • 腹鳴→0.7%+0%=0.7%
  • 鼻出血→0%+0.7%=0.7%
  • 頻尿→0.7%+0%=0.7%
  • 吐き戻し→0%+0.7%=0.7%
  • 振戦→0.7%+0%=0.7%
 データが揃っていた120症例のうち6.7%(8症例)が急性腎不全の基準を満たしていたといいます。また139症例中、死亡したのは持続的腎代替療法(CRRT) に伴う合併症を発症した1頭のみでした。

犬のブドウ中毒・治療

 ブドウ中毒の急性期においては催吐剤を用いた嘔吐促進や活性炭などを用いた解毒治療、および輸液治療が基本とされます。また重症例においては、失われた腎臓の解毒機能を補うため、入院した上での持続的腎代替療法(CRRT=血液中の有害成分を人工的に取り除く透析治療)が考慮されます。

ブドウ中毒のメカニズムは謎

 2000年初頭に最初の症例報告が出されて以来、様々な臨床レポートが出されてきましたが、未だにブドウに含まれているどの成分が腎毒性を有しているのかに関してはよくわかっていません。現在でも「ブドウは犬に無毒」という報告があったり、「ブドウによって死亡した」という報告があったり、情報がかなり錯綜した状態です。以下で一例をご紹介します。

条件付きでブドウは犬に安全

 条件付きではありますが、犬が長期的にブドウの成分を摂取しても安全であるという報告している調査があります。
 調査を行ったのはフランスにあるナント・アンジェルマン大学のチーム。24頭のビーグル犬(平均31ヶ月齢 | 平均11.4kg)を6頭ずつ4つのグループに分け、「Neurophenols Consortium」(天然栄養に関する北米とヨーロッパの共同研究機関)が製造しているPEGBを様々な割合で9時しました。
PEGB
「PEGB」は「polyphenol-rich extract from grape and blueberry」の略称。ブドウとブルーベリーの種子から抽出されたポリフェノールを主体とする成分を指す。具体的にはカテキン、フラボノール、アントシアニン、フェノール酸、レスベラトロールなど。
 犬の体重1kgあたり1日「0mg」「4mg」「20mg」「40mg」という割合で給餌し、腎臓への障害(血漿クレアチニン濃度・BUN・尿糖・蛋白尿 etc)と肝臓への障害(ALT・ALP・AST・ビリルビン etc)を示唆する様々なバイオマーカーをモニタリングしながら24週間にわたって長期的に観察したところ、どのグループにおいても肝障害や腎障害の兆候は見られなかったと言います。
 こうした結果から調査チームは、少なくとも「Neurophenols Consortium」が製造するPEGBは犬に対して有害ではないとの結論に至りました。ただし製造過程において有毒成分が偶発的に除去された可能性があるため、他のメーカーが精製したものに関しては保証できないとしています。
A mixed grape and blueberry extract is safe for dogs to consume
Martineau et al. BMC Veterinary Research (2016) 12:162, DOI 10.1186/s12917-016-0786-5

犬がブドウで死ぬこともある

 2010年の日本獣医師会雑誌(63号, P875 ~877)ではブドウの誤食によって急性腎不全を発症し、最終的には死亡してしまった犬の症例が報告されています。
 患犬は3歳になるマルチーズ(オス・体重2.5kg・ワクチン接種歴なし)。来院時の主症状は嘔吐と元気消失で、飼い主に聞き取り調査したところ、種なし小ブドウ(デラウェア,産地不明)を皮ごと約70g(26g/kg体重)食べた5時間後から嘔吐が始まり、翌日からは排尿がみられなくなったとのこと。摂取2日後に当たる来院時にはほぼ虚脱状態で、膀胱内の尿貯留は少量でした。入院して輸液治療を行い、2日目には血漿カリウム値が下がって意識が若干改善したものの、以降の総尿量は1日10mLに至らず、摂取4日後に当たる入院3日目には無尿となり最終的には死亡してしまいました。
 死後、腎臓の組織を病理組織学的に調べたところ、ブドウ中毒の特徴的な所見である近位尿細管上皮細胞の著しい変性・壊死が認められたそうです。
ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1例
日本小動物獣医学会誌(2010)63号, P875 ~877

犬にブドウを食べさせてはいけない

 先にも述べたように、ブドウを食べて中毒に陥るかどうかには体質や遺伝性が関わっていると考えられます。具体的にどの成分が犬に対して有害かが分かっていない以上、「食べさせて様子を見る」という毒味作戦は賢明ではありませんね。基本的にブドウおよびレーズンは食べさせないようにしましょう。
 これらの食材を含む一般的な食べ物は以下です。家族全員が知っておく必要があります。 さもないと「おばあちゃんが犬にブドウパンをお裾分けした」といった事件が起こりかねません。
ブドウを含む食べ物
ブドウを含む食べ物一覧
  • 祝い事のフルーツ盛り合わせ
  • ゼリー
  • コンポート
  • フルーツケーキ
  • タルト
  • ジャム
  • ジュース
  • サラダ
  • ワイン
レーズンを含む食べ物
レーズンを含む食べ物一覧
  • ラムレーズン
  • ブドウパン
  • チョコレーズン
  • シリアル
  • クッキー・バターサンド
  • オールレーズン(東ハト)
  • ガトーレーズン(ブルボン)
最近はどらやき、大福、バウムクーヘンなど意表を突くものにまで含まれています。事前にパッケージやラベルをよく確認し、テーブルの上に放置しないよう気をつけましょう!犬の毒となる食べ物