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犬のリソースガーディング(資源死守行動)~危険因子から予防・対処法まで

 犬がおやつ、おもちゃ、休憩場所といった資源を守ろうとして競争相手を威嚇する「リソースガーディング」。この行動を悪化させる危険因子に関する調査が行われました。

犬のリソースガーディングとは?

 「リソースガーディング」(Resource Guarding, 資源死守行動)とは自分にとって資源となるものを競争相手から守ろうとする行動のこと。犬の場合はおやつ、おもちゃ、休憩場所、飼い主の存在といったものが「資源」としてみなされます。
 今回の調査を行ったのはカナダ・オンタリオ州にあるゲルフ大学のチーム。インターネットなどを介して犬の飼い主に呼びかけを行い、犬が見せるリソースガーディングに関する疫学調査を行いました。当調査におけるリソースガーディング(RG)の定義は以下です。
RGの種類と定義
  • 早食い型RG競争相手に奪われないよう食べ物を急いで胃袋にかきこむこと
  • 遮断型RG体の姿勢や位置を変えることで競争相手が資源にアクセスできないようブロックすること
  • 攻撃型RG競争相手に攻撃的な態度をとること。唸る、歯をむき出す、噛みつこうとする場合は「威嚇攻撃型RG」。実際に噛み付く場合は「接触攻撃型RG」。
 最終的に2,207人の飼い主から3,589頭分の情報を収集することができました。得られたデータを解析したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。

人間に対するリソースガーディングの疫学

 リソースガーディング(RG)を1種類だけ見せる犬が63%(1,223頭)、2種類見せる犬が32%(617頭)、3種類見せる犬が5%(93頭)という内訳でした。またすべての種類のリソースガーディングに共通していたのは「犬の衝動性のスコアが高い」という項目でした。 衝動性が強い犬ほどリソースガーディングが出やすい  さらに人間との生活していく中で致命的な支障となる「接触攻撃型RG」(=実際に噛み付くこと)を見せる犬にターゲットを絞ってリスクファクターを検証したところ、以下のような項目と関連があったと言います。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
接触攻撃型RGを見せる犬の危険因子とオッズ比
  • 十代の人間と定期的に交流を持つ機会がある=2.21
  • 生後16週齢から1歳になるまでの間、人間の手から食べ物をもらっていた=2.21
  • 同居犬に対しても接触攻撃型RGを見せる=6.41
  • 指示に合わせて「オアズケ」ができる=0.46
 時間の経過とともに、11%の犬ではリソースガーディングの改善が見られたのに対し、逆に4%の犬ではリソースガーディングの悪化が見られたといいます。これらの犬にターゲットを絞って調査を進めたところ、RGの悪化には「犬が1歳を過ぎた後、食べている最中に食器を下げようとする」(OR=1.88)という項目が関連していたことが明らかになりました。
 逆にRGの改善には以下のような項目が関連していたとのこと。数字はオッズ比です。
RGの改善と関連した因子
  • 犬が健康問題を抱えている=1.69
  • 犬が食べている最中、より嗜好性の高いものを食器に入れてあげる=1.77
  • 犬が8~16週齢の間、食べている時に食器を下げられるという経験をしている=0.69
Title: Factors associated with canine resource guardingbehaviour in the presence of people: A cross-sectional surveyof dog owners
Jacobs, Jacquelyn A., Coe, Jason, Pearl, David L., Widowski,Tina M., Niel, Lee, , Preventive Veterinary Medicine, http://dx.doi.org/10.1016/j.prevetmed.2017.02.005

リソースガーディングの予防・対処法

 今回の調査で得られた知見、および過去に行われた調査との共通項を参考にするとリソースガーディングの効果的な予防法や対処法が見えてきます。以下は一例です。

リソースガーディングの予防法

 「生後16週齢から1歳になるまでの間、人間の手から食べ物をもらっていた」犬、および「8~16週齢の間、食べている時に食器を下げられるという経験をした」犬においてはRGが悪化する傾向を見せました。こうした知見から、いわゆる社会化期における飼い主の振る舞い方が、成長してからのリソースガーディングの発現に大きな影響を及ぼしている可能性が見えてきます。 子犬の社会化期  手から直接餌を与える飼い主は、ひょっとすると子犬の甘噛みを許していたのかもしれません。多くの場合「かわいい~!」などという社会的な報酬を伴いますので、子犬の頭の中では「人間の体=おもちゃ」という固定観念が出来上がり、リソースガーディング癖がついてしまうことでしょう。  子犬の脳が柔軟な社会化期においては、人間の手からではなくなるべく食器から餌を与えること、および食器を片付けるときは次に述べる「トレードオフ」を採用して素早く下げるという習慣をつけておけば、子犬に妙な癖がつくことも少なくなると考えられます。

リソースガーディングの対処法

 「犬が食べている最中、より嗜好性の高いものを食器に入れてあげる」とリソースガーディングが改善する傾向が示されました。
 犬がリソースとして守ろうとしているものより魅力的なものを提示し、「トレードオフ」によってガーディングを軽減するという対処法は非常に多くのドッグトレーナーが推奨しているところです。今回の調査によりこの対処法が最も効果的かつ効率的であることが示された形になります。
 犬の頭の中では「今守っているものを手放した方が自分にとって得である」 という思考回路が出来上がりますので、リソースガーディングが出にくくなるという寸法です。 犬がお気に入りのものを独り占めしているときに近づいてくる人の手には、犬にとって占有物よりも魅力的なものが握られていると覚えこませる。  また「衝動性のスコアが高い」犬ほどRGが出やすく、逆に「ダセ」や「オアズケ」を指示通りにできる犬ほどRGが出にくいことが判明しました。
 「ダセ」や「オアズケ」のしつけには多くの場合、報酬の勾配がテクニックとして使われます。 先述した「トレードオフ」と同様、「今守っているものを手放した方がより魅力的なご褒美をもらえる」という経験を繰り返すことにより、 リソースガーディングが出にくくなるということです。 犬の鼻先におやつを持っていき自発的に口を開けるよう誘導してあげる  飼い主に対する犬の攻撃行動は飼育放棄や遺棄の原因となる深刻な問題です。今回の調査で示された予防法や対処法を参考にすれば、いくらか行動の改善が見込めるのではないでしょうか。
 ちなみに嫌悪刺激を提示することで行動頻度を下げようとする「正の弱化」によるトレーニングを受けた犬では、「早食い型リソースガーディング」を見せる傾向が見られました。また「食べている最中に食器を下げようとする」という「負の弱化」でも行動の悪化が確認されました。
 リソースガーディングを根本的に改善したいのであれば、魅力的なご褒美を与えることで行動を方向づける「正の強化」を基本方針としてください。具体的な方法は以下に示してあります。 犬のうなる癖をしつけ直す 犬のダセのしつけ 犬のオアズケのしつけ