トップ2019年・犬ニュース一覧3月の犬ニュース3月17日

犬向け遺伝子検査キット「WisdomPanel®」

 犬向け遺伝子検査キット「WisdomPanel®」について、特徴から使い方までを詳しく解説します。

WisdomPanel®とは?

 「WisdomPanel®」(ウィズダムパネル)シリーズは「Mars, Inc」の獣医療部門である「Mars Veterinary」が開発した犬向けの遺伝子チェックパネルのことです。「Mars Veterinary」は2017年にフィンランドの「Genoscoper™ Laboratories」と合併してから「Wisdom Health」と社名を変えています。 WisdomPanel 「Wisdom Health」が提供する犬向け遺伝子検査キット「WisdomPanel」

何がわかる?

 独自に開発したコンピューターアルゴリズムを利用し、犬種と遺伝病の発症リスクがわかります。
 検査結果の再現性は99%超とされていますが、採取されたDNAサンプルの純度に多少左右されるとのこと。子犬の頬粘膜からサンプルを採取する場合は、母乳による汚染を避けるため離乳後に行うのが理想です。
 なお「親子関係の証明」「年齢証明」「血統証明」の代わりとしては使えません。

わかる犬種は?

 3代前(曽祖父母)までの祖先の血統にどの犬種が混じっているのかを明らかにできます。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、イギリスなどのブリーダーやケネルクラブから、合計13,000頭を超える純血種のサンプルを採取して巨大なデータベースを作成しました。2019年3月の時点で判別できるのは250犬種程度です。
Ancestry Trees
 以下でご紹介するのは「WisdomPanel®」による犬種判定プロセスを解説した動画です。膨大な数の純血種データから、おのおのの犬種に特有の遺伝子マーカーを見つけ、判別の手がかりにしています。なお遺伝子解析のアルゴリズムは専売特許技術です。 元動画は→こちら

わかる遺伝病は?

 犬種に加え25の染色体に散らばる1,800超の遺伝子マーカーを解析し、150を超える遺伝病へのかかりやすさを明らかにすることができます。
 具体的には「ミックス種でのみ確認できる変異」「純血種でのみ確認できる変異」「ミックスと純血両方で確認できる変異」「めったにない変異」などに細分されます。なお一覧リスト中「めったにない変異」とは、10万頭を超える犬を対象とした調査でも見られなかったマイナーな変異のことです。 Wisdom Panelでわかる遺伝病一覧(別窓)

どのような種類がある?

 検査キットの種類と内容は以下です。現在市場では最新版の「Wisdom Panel 4.0」と「Wisdom Panel Health」が主流になっています。公式サイトによる値段は「Wisdom Panel 4.0」が$84.99、「Wisdom Panel Health」が$149.99と設定されています。Amazonでも販売されていますが、価格設定は一緒のようです。日本円に換算すると9,400~17,000円といったところでしょう。 WISDOM PANEL Product Comparison Amazon WISDOM PANEL
Wisdom Panelの種類
  • Wisdom Panel 2.03代前までの祖先犬種
  • Wisdom Panel 3.03代前までの祖先犬種+MDR1
  • Wisdom Panel 4.03代前までの祖先犬種+MDR1+運動誘発性衰弱(虚脱)
  • Wisdom Panel Health3代前までの祖先犬種+MDR1+運動誘発性衰弱(虚脱)+150超の疾患関連遺伝子変異

MDR1とは何か?

 「MDR1」とはP糖タンパク質を生成している遺伝子のことです。
 この遺伝子には「MDR1」と「mdr1」という対立遺伝子が存在しており、「MDR1/MDR1」という遺伝子型のときは正常なP糖タンパク質を生成できるものの、「mdr1/mdr1」のときは不完全なP糖タンパク質しか生成できません。その結果、血液脳関門におけるブロック作用が弱まり、通常では侵入できないはずのイベルメクチンが脳内に入って神経症状を示してしまいます。これが「イベルメクチン中毒」です。詳しくは以下のページをご覧ください。 フィラリア予防薬(イベルメクチン)中毒を引き起こすMDR1遺伝子の変異率調査

運動誘発性衰弱(虚脱)とは何か?

 「運動誘発性衰弱」(Exercise-induced collapse , EIC, 運動誘発性虚脱とも)とは、激しい運動をした後、突如として後ろ足の力が抜け、歩行困難に陥る疾患のことです。
 9番染色体にあるDNM1遺伝子の常染色体劣性遺伝が関わっていると考えられており、ラブラドールレトリバーにおいて1.8%~13.6%という高いホモ型(両親から1本ずつ受け継ぐ)保有率が確認されています。詳しくは以下のページをご覧ください。 ラブラドールレトリバーにおける運動誘発性衰弱(虚脱)と十字靭帯断裂の関連性

検査キットの使い方は?

 検査キットの基本的な使い方は、まず注文後に送られてきたキットに同梱されているスワブ(綿棒)で犬の頬の内側をこすり、粘膜(DNA) を採取します。そしてスワブが乾いたタイミングで再びパッケージに戻し、そのままラボに送り返します。
 検査結果がわかるまでにかかる時間はおおむね2~3週間です。オプションとして選ばない限り検査結果は郵送されず、オンライン上でIDを入力してデータを確認します。
Wisdom Panel®
 以下でご紹介するのは「Wisdom Panel」(2.0)の基本的な使い方を解説した動画です。 元動画は→こちら

日本でもできる?

 日本でも公式サイトやAmazonを通じて購入することができます。ただしアメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、イギリスの犬を元にデータベースを構築していますので、それ以外の国で産まれた犬に関しては、解析の精度が落ちるとされています。
 日本国内で今後、同様のサービスが登場するかどうかは現時点ではわかりません。

類似商品は?

 「Embark Dog DNA Test Kit」という検査キットが「Embark Veterinary」から発売されています。こちらのキットで検出できる遺伝疾患は160ほどです。その他いくつかの類似商品がありますがAmazonレビューを信用する限り、あまり評判はよろしくないようです。
 なお「Wisdom Panel®」に関しては以下のような調査の中でも登場しています。 「ピットブル」というミスラベルにより無関係な犬が憂き目に 犬の「雑種強勢」(hybrid vigor)はある種の遺伝病に関しては当てはまらない