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ラブラドールレトリバーにおける運動誘発性衰弱(虚脱)と十字靭帯断裂の関連性

 300頭以上のラブラドールレトリバーを対象とした調査により、好発疾患とされる運動誘発性衰弱(虚脱)と十字靭帯断裂の関連性が検証されました(2017.2.16/アメリカ)。

詳細

 「運動誘発性衰弱」(Exercise-induced collapse , EIC, 運動誘発性虚脱とも)は、激しい運動をした後、突如として後ろ足の力が抜け、歩行困難に陥る疾患。9番染色体にあるDNM1遺伝子の常染色体劣性遺伝が関わっていると考えられており、ラブラドールレトリバーにおいて1.8%~13.6%という高いホモ型(両親から1本ずつ受け継ぐ)保有率が確認されています。
運動誘発性衰弱(虚脱)
 以下でご紹介するのは運動誘発性衰弱を発症した黒ラブの動画です。激しい運動した後、まるで酔っ払いのような千鳥足になったり、腰が抜けたように下半身が動かなくなります。休ませておけば5~30分で回復し、何の後遺症も残しません。熱中症との鑑別診断が必要です。 元動画は→こちら
 一方「十字靭帯断裂」は、膝関節の中で交差するように上下の骨をつないでいる十字靭帯が何らかの理由によって切れてしまう整形外科的な外傷。ラブラドールレトリバーでは他の犬種に比べ、5.5倍発症しやすいと推定されています。
 今回の調査を行ったアメリカ・ミネソタ大学獣医科学部の研究チームは、ラブラドールレトリバーにおいて好発する上記疾患は「運動する→衰弱症候群を発症→後ろ足を引きずる→膝に外力が加わる→十字靭帯が断裂する」という流れによって連動しているかもしれないと予測を立て、両疾患を抱えた犬を対象とした統計調査を行いました。
 チームは2010年から2011年の期間、北米とカナダにある複数の医療機関から十字靭帯断裂の発症歴があるラブラドールレトリバーと発症歴がないラブラドールレトリバーを集め、採取した血液や頬粘膜からDNAサンプルを抽出し、運動誘発性衰弱に関わっているとされるDNM1遺伝子の変異を調べました。その結果は以下です。 ラブラドールレトリバーにおける十字靭帯断裂の病歴とDNM1遺伝子の変異保有率  得られたデータを統計的に検証したところ、以下のような事実が明らかになりました。
十字靭帯断裂への影響因子
  • メス犬の方が2倍程度断裂を発症しやすいかもしれない
  • 断裂歴がある犬では2.18倍衰弱症候群を発症しやすいが統計的に有意とまでは言えない
  • メス犬の避妊手術と断裂とは無関係
  • オス犬の去勢手術と断裂とは無関係
  • 1歳以下のタイミングで避妊手術を受けたメス犬では4.30倍断裂を発症しやすく統計的にも有意
  • 1歳以下のタイミングで去勢手術を受けたオス犬では3.05倍断裂を発症しやすいが統計的に有意とまでは言えない
 これらのデータから調査チームは、運動誘発性衰弱と十字靭帯断裂との間に関連性があるという証拠は見当たらないとの結論に至りました。ただし十字靭帯断裂の危険因子は1歳以下のタイミングで不妊手術を受けることであり、この傾向は特にメス犬で顕著であるとのこと。
DNM1 mutation status, sex, and sterilization status of a cohort of Labrador retrievers with and without cranial cruciate ligament rupture
Ekenstedt et al. Canine Genetics and Epidemiology (2017) 4:2 DOI 10.1186/s40575-017-0041-9

解説

 運動誘発性衰弱を引き起こすと考えられているDNM1遺伝子は、ラブラドールレトリバーの補助犬ラインで1.8%、ショードッグラインでは13.6%というホモ型保有率が報告されています。この高い保有率はおそらく、遺伝子に変異を抱えた種オスを基にしてたくさんの子犬を生んだ結果でしょう。今回の調査でも313頭のうち11頭(3.5%)がホモ型であることが確認されましたので、国によって多少の違いはあるものの、運動誘発性衰弱はラブラドールレトリバーの好発疾患と考えてよさそうです。
 十字靭帯断裂のリスクファクターとしては、不妊手術そのものではなく、不妊手術を施すタイミングの方が重大であることが分かりました。身体が成熟する前の段階で性腺を切除すると、骨端軟骨(成長線)の閉鎖が遅れ、その分骨の成長が促進されると言います。この過剰な成長が膝関節の力学を変え、十字靭帯に対する過剰なストレスになっている可能性はあるでしょう。
 ゴールデンレトリバーを対象とした過去の調査では、「1歳未満のタイミングで去勢手術を受けたオス犬は断裂を発症しやすい」と報告されています。またジャーマンシェパード対象とした調査では、「オス犬でもメス犬でも1歳未満のタイミングで不妊手術を受けた方が断裂を発症しやすい」と報告されています。さらにラブラドールレトリバーを対象とした調査では、「6ヶ月齢未満のタイミングで去勢手術を受けたオス犬は断裂を発症しやすかった。メス犬でも同じ傾向が確認されたが統計的に有意ではなかった」と報告されています。
 こうした過去のデータや今回の調査結果から考えると、重力負荷が大きい大型犬においては、早期不妊手術が十字靭帯断裂の危険因子になっているという事実は否めないようです。この知見は、メス犬に対して避妊手術を施すタイミングを決定する際、重要になると考えられます。 ボーダーコリー衰弱症候群 犬の不妊手術