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怖がり犬の譲渡率を高めるコツは動物保護施設における人との交流

 動物保護施設における人とのちょっとした交流が、怖がりな犬の譲渡率を高めてくれる可能性が示されました。

人との交流と適性テスト結果

 調査を行ったのはアメリカ・オハイオ州にあるライト州立大学のチーム。動物保護施設に収容された犬を対象とし、人との交流が犬の「怖がり」という側面にどのような影響を及ぼすかを検証しました。 リビングルームを模した動物保護シェルター内の一室  調査に参加したのは、デイトンにある大型保護施設に収容された生後6ヶ月齢以上の犬合計124頭(路上放浪犬93頭+飼育放棄犬31頭/オス61頭+メス63頭)。性別や来歴に偏りが生まれないよう、犬たちをランダムでグループ分けし、一方を「人との交流あり」、他方を「人との交流なし」と設定した上で、「SAFER」と呼ばれる犬の気質を推し量るためのテストを実施しました。各言葉の定義は以下です。
用語解説
  • 怖がりな犬応用動物行動学の訓練を受けた専門家が施設に収容されてから24時間以内に審査する。判断基準となる行動は犬舎の後ろに引きこもる、震える、毛を逆立てる、アイコンタクトを避ける、ひっきりなしにパンティングをする、耳を下げたり後ろに倒す、尻尾を下げる、目を見開く、半分しゃがんだ姿勢になる、人から身を遠ざける、唸る、など。
  • 怖がりでない犬「怖がりの犬」で見られたような兆候が見られない犬。
  • 人との交流アイコンタクトを取らない状態で犬舎の前におやつを落とし、人の存在に慣らせる→優しく話しかけながら屋外エリアに連れ出す。ただし体に触ったりアイコンタクトは取らない。犬は自由に人間のスタッフを調べることができる→エンリッチメントが整った隔離部屋(3.0×3.7m)に連れて行く。そこは一般家庭の室内を模して作られたデザインで、カーペットやカウチといった家具が備え付けられている。部屋の中には犬用のおもちゃが用意してあり自由に遊ぶことができる。また犬をリラックスさせるためクラシックミュージックが流れておりラベンダーの香りが漂っている。室内では人間のスタッフが優しくなでたり話しかけたり一緒に遊んだりする。
  • SAFER犬の攻撃性を推し量る時に用いられるプロトコル。「アイコンタクト」「体に触る」「遊んでいる途中の動きや音」「前足をつかむ」「食事中に食器を動かす」「他の犬」といった刺激に対するリアクションを5段階で評価する。全ての項目に関し1~2の評価を受けた時に合格とする(1がベスト)。
 「怖がり」と評価された犬60頭をランダムで2つのグループに分け、一方の30頭にだけ「人との交流」を持たせました。15分の交流を1日2回、5日間にわたって実施したところ、6日目に行われたSAFERテストでは30頭中23頭が合格したといいます(合格率76.7%)。それに対し交流を持たなかったグループでは10頭しか合格しませんでした(合格率33.3%)。
 次に、上記テストとはまったく別の犬たちを「怖がり+交流あり」「怖がり+交流なし」「怖がりでない+交流あり」「怖がりでない+交流なし」という4つのグループに分け、SAFER合格率を比較したところ、以下のようになったと言います。交流期間は6~8日間、各グループはすべて16頭です。 人との交流が犬の攻撃性テスト合格率に及ぼす影響一覧
  • 怖がり+交流あり→93.7%
  • 怖がり+交流なし→12.5%
  • 非怖がり+交流あり→93.7%
  • 非怖がり+交流なし→87.5%
 犬が怖がりであるかどうかにかかわらず、人と交流を持った時の合格率が最も高く93.7%でした。一方、怖がりな犬が交流をもたなかった場合の合格率が最も低く12.5%にとどまりました。またそもそも怖がりではない犬が交流を持たなかった場合の合格率は87.5%で、交流を持った犬と同等のレベルであることが判明しました。
 こうした結果から調査チームは、1日30分という人との短い交流が犬の心をほぐし、恐怖と急性ストレスに起因する攻撃性を軽減してSAFERテストに合格する確率を高めてくれるという可能性を示しました。これまで家庭犬には向かないと判断されてきた犬たちも、シェルター内におけるちょっとした交流によって譲渡される可能性が高まるものと期待されています。
Enrichment Centered on Human Interaction Moderates Fear-Induced Aggression and Increases Positive Expectancy in Fearful Shelter Dogs
Willen RM, Schiml PA, Hennessy MB,,Applied Animal Behaviour Science(2019),https://doi.org/10.1016/j.applanim.2019.05.001

譲渡犬の選別テストと致命的な欠点

 次から次へと犬が収容される動物保護施設においては、家庭犬として譲渡される犬と譲渡できない犬とを素早く振り分けて行かなければなりません。こうした必要性に駆られて考案されたのが「SAFER」と呼ばれる評価プロトコルです。
SAFERテスト
 以下でご紹介するのは犬の攻撃性と譲渡適性を評価するときのプロトコル「SAFER」です。アメリカ動物虐待防止協会が考案した方法で、詳しいやり方は以下の資料に記載されています(英語)。 SAFER manual and training guide 元動画は⇒こちら
 手順を画一化することにより職員の手間が省けることは確かですが、犬にとって保護施設は見知らぬ場所であり、見知らぬ犬たちに囲まれたストレスフルな環境ですので、必ずしもフェアとは言えません。誰かの例えを借りると「突然放り込まれた難民キャンプで人格テストを受けるようなもの」です。イレギュラーな状況では、普段の自分はなかなか出てきてくれませんね。 難民キャンプという非日常的な環境下で本来の人間性は測れない  こうしたアンフェアな環境におけるテストにより、本当は家庭犬として十分やっていけるのにも関わらず「怖がり」だとか「攻撃性が高い」と判断され、譲渡が見送られて安楽死という憂き目に遭った犬達の数は相当数に上ると考えられています。

日本における生命の線引き問題

 動物保護施設における生命の線引き問題は日本にもあります。保健所や動物愛護センターに収容された犬たちは職員の判断により譲渡向きの犬とそうではない犬とに選(よ)り分けられますが、選別する時の基準は定かではなく多くの場合職員の勘です。
 朝日新聞が2018年12月、動物愛護行政を所管する全国の都道府県、政令指定都市、中核市合計121自治体に調査を行ったところ、2017年度の時点で「譲渡不適切」の分類を始めている自治体が107あったといいます。しかし「不適切」と判断するための判断基準やガイドラインを策定していると回答したのは73自治体で、全く策定していない自治体が34あったとも出典資料:朝日新聞
 SAFERのような明確なプロトコルを設けているところがほとんどないため、ある施設では譲渡対象となるのに他の施設では殺処分されるという具合に、命の格差が生まれてしまいます。
 こうした問題を解消するため、日本においても収容施設におけるハンドリングと犬の譲渡可能性を判断するときの統一プロトコルが必要となるでしょう。これは犬の譲渡率を高める上でも、行政機関による数字の操作を予防する上でも重要です。

犬の譲渡率を高める

 犬の中には恐怖を感じた反動から攻撃的になってしまうものの、それ以外の側面には全く問題がなく、家庭犬として十分暮らしていけるものがたくさんいます。こうした犬達が保護施設に収容されると、見知らぬ環境や見知らぬ犬に刺激を受けて恐怖心が煽られ、傍から見ると「攻撃的で譲渡不可」と判断されてしまうことが多々あります。
 今回の調査により、シェルター内における短時間の人間との交流が犬の恐怖心を軽減してくれる可能性が示されました。ちょっとした人馴れの時間を設けることで犬の恐怖心が軽減されれば、それに起因する攻撃性も連動して軽減しますので、譲渡可能と判断される機会が増えるでしょう。

数字の操作を予防する

 犬の譲渡に対する姿勢は自治体によって非常に大きな温度差があります。行政機関の中には「殺処分ゼロ」という名目上の目標を達成するため、譲渡可能であるにも関わらず犬を攻撃的だとか人見知りが激しいと判断し、「福祉上のやむをえない致死処分」というカテゴリの中に無理やり放り込んで殺処分数から省いてしまうことがあります。その結果が近頃よく耳にする、見かけ上の「殺処分ゼロ(減少)」です。
 施設におけるハンドリングと譲渡可能性の評価基準を統一すれば、やる気のない自治体による恣意的な命の線引きを予防することにもつながるでしょう。

導入には課題も

 収容された犬たち一頭一頭に人馴れの時間を設けるというのは理想です。しかし実際には様々な現実的な問題があるため、実現するのはそうたやすくはありません。
 例えば実験で用いられたような、人間の部屋を模した隔離ルームを用意するためには広いスペースと資金が必要となります。また恐怖心に起因する攻撃性を示す犬の人慣れを促進するためには、動物行動学に関する知識がある優秀なスタッフを雇わなければならないでしょう。さらに1日30分とはいえ、収容動物の数が増えればそれだけ人的なリソースが奪われてしまいます 。
 上記したような様々なハードルを越えるために必要なことは、とにかく収容動物の数を減らすことです。無責任な飼い主が飼育放棄という形で持ち込む犬達の数のみならず、無責任な飼い主によって迷子になった犬達の数も減らしていかなければなりません。2019年に行われる動物愛護法の改正では、果たしてこうした問題にアプローチしてくれるのでしょうか? 犬の殺処分の現状 動物愛護法をもっと知ろう! ノーキルへの道