トップ2019年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月16日

犬が自分の名前を聞き取る能力~カクテルパーティー効果はあるのか?

 多くの人がしゃべっている中でも自分の名前だけはクリアに聞こえる「カクテルパーティー効果」。犬にも同じ効果があるのだとすると、聞き取り能力の限界はどこにあるのでしょうか?背景の騒音レベルを変えた実験が行われました。

実験・犬の「カクテルパーティー効果」

 「カクテルパーティー効果」(cocktail-party effect)とは、騒音の中でも自分の名前や自分が注意を払っている会話の内容を自然と聞き取ることができる現象のこと。脳が自動的に行う「ノイズキャンセリング」のようなものです。 犬にも騒音の中で自分の名前を聞き取る「カクテルパーティー効果」がある  今回の調査を行ったのは、アメリカ・メリーランド大学のチーム。犬が自分の名前を聞き取る時にも上記「カクテルパーティー効果」が働いているのかどうかを確認するため、背景に流れているのノイズレベルを様々に変えた上で実験を行いました。
 基本的な実験デザインは、「マルチトーカーバブル」と呼ばれる複数人の発話をごちゃまぜにしたノイズを背景に流し、その中で「犬自身の名前」「別の犬の名前」を聞かせるというものです。自分の名前を発するスピーカーの方に、顔を向けている時間が長い場合「名前を認識した」とみなされました。
マルチトーカーバブル
 以下でご紹介するのは「マルチトーカーバブル」(multi-talker bubble)と呼ばれるノイズの一例です。今回の実験では9人の女性が本を朗読するときの声をごちゃまぜにしたものが用いられました。 元動画は⇒こちら
The cocktail party effect in the domestic dog (Canis familiaris)
Mallikarjun, A., Shroads, E. & Newman, R.S. Anim Cogn (2019) 22: 423. https://doi.org/10.1007/s10071-019-01255-4

実験1:ノイズ小さめ

 背景に流すノイズのボリュームを、名前を呼ぶときのボリュームよりも5デシベル下げた状態で実験を行いました。
 調査に参加したのは20頭の犬たち(オス6頭)。平均年齢は4.37歳、自分の名前暦は3.97年です。犬の名前を呼ぶ声は、飼い主とは全く別の第三者のものが用いられました。
実験結果
  • ノイズがない環境では、他の犬の名前よりも自分の名前に長い時間関心を払った
  • ノイズがある環境では、他の犬の名前よりも自分の名前に長い時間関心を払った
 こうした結果から、飼い主以外の第三者の声でも自分の名前を認識できること、そしてその聞き取り能力はノイズの中でも発揮されることが確認されました。

実験2:ノイズ中等度

 背景に流すノイズのボリュームを、名前を呼ぶときのボリュームと同等にした状態で実験を行いました。
 調査に参加したのは20頭の犬たち(オス16頭)。平均年齢は5.3歳、自分の名前歴は平均4.74年です。犬の名前を呼ぶ声は、飼い主とは全く別の第三者のものが用いられました。
実験結果
  • ノイズがない環境では、他の犬の名前よりも自分の名前に長い時間関心を払った
  • ノイズがある環境では、他の犬の名前よりも自分の名前に長い時間関心を払った
 こうした結果から、ノイズのレベルが名前を呼ぶときのボリュームと同等になっても、問題なく聞き取れることが示されました。音声の認識メカニズムが同じかどうかまではわからないものの、少なくともこの状況における名前の聞き取り能力は、人間の1歳児より上だとしています。

実験3:ノイズ大きめ

 背景に流すノイズのボリュームを、名前を呼ぶときのボリュームより5デシベル大きくした状態で実験を行いました。
 調査に参加したのは20頭の犬たち(オス11頭)。平均年齢は5.3歳、自分の名前歴は平均4.74年です。犬の名前を呼ぶ声は、飼い主とは全く別の第三者のものが用いられました。
実験結果
  • ノイズがある環境では、自分の名前に長い時間関心を払うという傾向が見られなかった
  • ノイズがない環境でも、自分の名前に長い時間関心を払うという傾向が見られなかった
 ノイズが流れている環境で自分の名前に反応するという傾向が消えました。このことから犬の「カクテルパーティー効果」の限界はこの辺にあるのではないかと推測されています。奇妙なのは、ノイズがない環境においても、なぜか自分の名前に対する関心を失ってしまった点です。

犬の音素聞き取り能力

 実験により、飼い主以外の人物が発した声でも自分の名前を認識できることが明らかになりました。この事実が意味しているのは、飼い主のフォルマントや口調ではなく、名前を構成している音素を認識している可能性が高いという点です。なお「フォルマント」(formant)とは発声器の大きさや長さによって決定づけられる特徴的な周波数のこと、「音素」(phenome)とは語と語の意味を区別する機能をもつ音声の最小単位を意味します。
 ただし音素の聞き取り能力に関しては、犬がどのような環境で暮らしているかによっても大きく左右されるでしょう。例えば一人暮らしの家庭で飼われている犬と、大家族に飼われている犬とでは、音素の聞き取り能力に微妙な差が出ると思われます。なぜなら自分の名前を呼ぶ人物が前者が1人であるのに対し、後者が10人であるかもしれないからです。
 たくさんの人から名前を呼ばれた方が頭の中で一般化が起こり、「おやつをもらえるときの共通項は個々人の声の大きさや声の質ではなく、”マロン”という音の組み合わせだ!」と理解しやすくなるでしょう。

「カクテルパーティー効果」の限界

 背景に流れるノイズの大きさを色々に変えた結果、たとえノイズの中でも自分の名前を聞き分けられる可能性が示されました。ただしノイズの大きさは名前を呼ぶ時の声のボリュームと同じ程度が限界のようです。
 また奇妙なことに、あまりにもノイズがうるさいと、静かな環境で名前を呼んでも敏感に反応してくれなくなるという珍現象が起こりました。明確な理由は不明ですが、脳が耳からの入力情報を根本的に拒絶してしまったのではないかと考えられています。

犬種や役割による能力差

  犬の聞き取り能力を犬種やAKCグループ別に検証してみました。その結果、犬種間での格差は見られなかったものの、作業犬として働いている犬たちではわずかながら成績が良かったと言います。具体的には警察犬、セラピードッグ、サービスドッグ、救助犬などです。
 サンプル数40頭と少ないので犬全体に拡大解釈することができませんが、しっかりとトレーニングさえすれば、どんな犬でも聞き取り能力が高まる可能性が示されたことになります。

犬との生活へ応用する

 都会の喧騒とされるものは時として70デシベルに達することがあります。この騒音レベルは会話に用いられる音量65デシベルよりも5デシベル高い状態です。ノイズの中で犬の名前を呼んでもしっかりと反応してくれるようにするためには日頃から名前とご褒美をしっかりリンクしておくことと、ノイズよりも大きめの声を出すことが重要であると考えられます。
 また道路沿いに外飼いされている犬や、飛行場の近くに住んでいる犬は、絶えず交通騒音にさらされていると考えられます。こうした犬においてはひょっとすると名前に対するリアクションが悪くなってしまうかもしれません。なぜなら、騒音に煩わされないため、耳からの入力情報を脳がシャットアウトしている可能性があるからです。
 名前に対する反応を鈍くしないため、エアコンの室外機や交通騒音にさらされるような屋外環境につなぎっぱなしにしないことも重要です。部屋の中においてはテレビのボリュームを少し下げ、「耳がバカ」にならないくらいの配慮はしてあげましょう。 犬のアイコンタクトのしつけ 犬に最適な名前と命令