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犬や猫のペットフードに含まれる米とヒ素の危険性

 有毒性と発がん性が確認されている重金属「ヒ素」は、稲に蓄積しやすいという性質を持っています。では、稲の果実であるお米や玄米をペットフードに入れても安全なのでしょうか?最新データと共に検証しましょう。

米とヒ素

 キャットフードやドッグフードのラベルで頻繁に目にする「米」という言葉。表記としては「玄米」「白米」「ライス」などがあります。どのような表現であっても、水田で育てられるという性質上、水や土壌から吸い上げた発がん性物質「ヒ素」を蓄積しやすいという点は共通です。実はこの重金属、人間が食べるお米においてすら上限値が設けられていません。果たしてペットフードは安全なのでしょうか?そんな訳はありません!

籾・玄米・白米の違い

 稲から収穫されたばかりの果実部分は籾(もみ)と呼ばれます。この籾の表面を覆っている籾殻(もみがら)を取り除いた状態が玄米です。さらにこの玄米の表面を覆っている糠(ぬか)や胚芽を取り除いた状態が白米と呼ばれます。 籾・玄米・白米の違い  日本国内においては2011年から、米トレーサビリティ法が施行されたことにより、米穀(玄米・精米等)、米粉(上新粉・みじん粉・洋菓子用米粉など)、米こうじ、米飯類、もち、だんご、米菓、清酒、単式蒸留しょうちゅう、みりんの原料米の産地情報が消費者に伝えられるようになりました。

ヒ素の危険性

 ヒ素(砒素)とは原子番号33の重金属の一種。日本国内では、鉱山労働者の健康問題や鉱山周辺の環境汚染問題(土呂久砒素公害, 1920~1960)、粉ミルクに混入したヒ素による中毒事件(森永ヒ素ミルク中毒事件, 1955)、カレーに盛られたヒ素によって4名の死者を出した殺人事件(和歌山毒物カレー事件, 1998)などから、猛毒というイメージが定着しています。また2004年7月には、日本から輸入したヒジキに無機ヒ素が多く含有されていることを懸念した英国食品規格庁(UKFSA)が、摂食を控えるよう勧告したことから、日本国内においてもヒジキの安全性を疑う声が強まりました。
 急性毒性としては吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、ショック、最悪の場合は死。慢性毒性としては皮膚の角化や色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、黄疸、腎不全などが確認されています。また国際がん研究機関(IARC)では、単体のヒ素および無機ヒ素化合物がグループ1(=ヒトに対して発がん性が認められる)、そして無機ヒ素の代謝物であるモノメチルアルソン酸MMA(V)とジメチルアルシン酸DMA(V)をグループ2B(ヒトに対して発がん性を有する可能性がある)に分類しています。

ヒ素は稲にたまりやすい!

 お米を実らせる稲は、他の穀物に比べて組織中にヒ素を蓄積しやすい性質を持っています。理由の一つは、稲の成長に必要なケイ酸とヒ素(亜ヒ酸)の分子構造が似ているため、根が間違ってヒ素の方を吸収してしまうからです。もう一つは、水田環境に含まれるヒ素が5価のヒ酸から3価の亜ヒ酸に還元され、植物に吸収されやすい形に変化してしまうからです。その結果、吸収されたヒ素が根、茎、籾殻、糠、白米全体に分布し、少しずつ蓄積されていきます。
 例えば以下は、中国で栽培された稲の各部位におけるヒ素の含有濃度です(Kumarathilaka, 2018)。土壌の濃度よりも根のほうが高く、そこから上に行くに連れ徐々に濃度が低下していくことがおわかりいただけるでしょう。基本的に上部<下部という濃度勾配を示します。単位は「mg/kg」です。 稲の各部位におけるヒ素の含有濃度一覧表  ペットフードに用いられるのは主に玄米や白米です。しかし上記したように、土壌にヒ素が含まれている場合、たとえ精米したとしても中にヒ素が含まれた状態のまま加工されてしまいます。果たして日本国内のペットフードは大丈夫なのでしょうか?結論から言うと安心できません。以下ではヒ素の具体的な混入ルートと危険性について考えていきたいと思います。

ヒ素の混入・国産米編

 日本国内で栽培されるお米に関しては、国民の主食であるせいかかなり厳格にヒ素の混入を食い止めるための法律が張り巡らされています。その一方、含有量の上限値が定められておらず、十分なチェックも行われていないという矛盾もはらんでいます。
 まず農薬取締法に基づき、農林水産省が登録制度を設けて農薬の管理をしており、現在ヒ素を含有する農薬はありません。また肥料取締法に基づき汚泥肥料の種類と有害成分の規制事項が決められており、ヒ素は最大0.005%までとされています。さらに農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)により特定有害物質としてカドミウム、銅、ヒ素が規定されており、水田の土壌に含まれるヒ素の量が土壌1kgにつき15mgまでとされています。
 生産された米(玄米)に関しては、ポジティブリスト制度にのっとり農薬のランダムチェックが行われており、直近2015年の検査結果ではヒ素を含有していたものはゼロとされています。ただし検査件数はわずか8件で、なおかつ上限値自体がそもそも設定されていません。
 上記したような栽培環境から考えると、国産米にヒ素が含まれているのだとすると、主として土壌に含まれていたものが稲の中に移行したと推測されます。しかし後述する「ヒ素と健康被害との明確な関係性が証明されていない」という政府のスタンスにより、そもそもお米のヒ素上限値が設定されておらず、また十分な検査も行われていないというのが現状です。

ヒ素の混入・輸入米編

 一昔前とは違い、日本も外国産のお米を輸入するようになりました。しかし安全性検査でなぜかヒ素は対象外になっているようです。ヒ素で汚染されたお米でペットフードを製造した場合、そのままフード内に混入してしまうでしょう。

お米の輸入先国はアメリカ

 日本は1995年まで米の輸入に関して許可制度を設けてきましたが、ガット(GATT=関税および貿易に関する一般協定)のウルグアイラウンド農業合意により「ミニマム・アクセス米制度」に切り替わりました。これはお米の輸入量が事前に取り決めた最低量の範囲内であれば、低い関税をキープしなければならないというルールのことです。
 ミニマム・アクセス米制度の導入以降、輸入先国はおおむねアメリカがトップとなっており、種別ではうるち精米中粒種(年34万トン程度)、産地別ではカリフォルニア州産キャルローズとなっています。
 ミニマム・アクセス米の輸入は、入札によって決定した業者を仲介者として国が買い入れるという形になっています。輸入されたお米の用途は、1年間の平均で主食用が10万トン、加工用が15~30万トン、飼料用が30~40万トン、援助用が10~20万トン程度です。

輸入米の安全性は?

 輸入米の安全性検査に関しては、食糧法により輸入する米穀や麦に含まれるカビ毒、重金属、残留農薬等の検査が義務付けられています。産地での検査に加え船に積みこむときにも再検査が行われますが、カドミウムや鉛の分析はするもののなぜかヒ素の検査は行われません。
 アメリカにおいては近年、独立系レビュー雑誌「コンシューマーレポート」によりお米がヒ素によって汚染されている危険性が指摘されました。そして日本におけるお米の主要な輸入先国はアメリカです。そして輸入米に関してはなぜかヒ素の検査が行われていません。動物用の飼料のみならず人間用の食料としても消費されるにもかかわらず、輸入米に含まれるヒ素に関しては驚くほど無頓着という現実が浮かび上がってきました。

アメリカ米のヒ素汚染

 アメリカにおいてお米とヒ素の関係性を最初に指摘したのは、ニューハンプシャー州ハノーバーにある研究機関「DCEHDRC」で、2011年とごく最近のことです。調査チームは最終的に「お米を食べることによって気づかないうちに重金属を取り込んでいる危険性がある」との結論に至っています。
 これを受け2012年、独立系レビュー雑誌「コンシューマレポート」がニューヨークの実店舗やオンラインを通じて223種類のお米を用いた商品を分析し、中に含まれる重金属(ヒ素・カドミウム・鉛)の濃度を調べました。1つの商品につき最低3ロット調べた所、以下のような事実が判明したといいます。 お米製品中のヒ素濃度・元データ
アメリカ米のヒ素汚染の実態
  • 有機ヒ素より毒性が強い無機ヒ素の濃度が高かった
  • 無機ヒ素の代謝物であるDMAやMMAも検出された
  • 同じメーカーの商品でも白米より玄米の方がヒ素濃度が高かった
  • 国産米の76%を栽培する地域において総ヒ素濃度および無機ヒ素濃度が高かった
  • 赤ちゃん用シリアルからもヒ素が検出された
 国産米の7割以上を栽培するアーカンソー州、ルイジアナ州、ミズーリ州、テキサス州では長年綿花を栽培してきた歴史があり、害虫であるワタミハナゾウムシ対策として使用してきたヒ素含有殺虫剤が土壌に残っているのではないかと推測されています。スコットランドのアバディーン大学行った調査でも、やはりこの地域で栽培されたお米の無機ヒ素濃度が高かったと報告されています。
 2003年から2010年、国家的な疫学調査「National Center for Health Statistics」に参加している6歳以上の人を対象として尿中ヒ素レベルを調べたところ、直近の食事にお米が含まれていた3,633人の尿中ヒ素レベルが44%も高かったといいます。さらに2食以上食べていた人では70%以上高かったとも。調査チームは「偶発的な要因が絡んだとしてもお米とヒ素の関連性を否定できない」と指摘しています。
 現在、コンシューマーレポートのロビイスト部門であるコンシューマーユニオンはFDAに対し「白米の無機ヒ素=200ppb」(200μg/kg=0.2mg/kg)と「玄米の総ヒ素=300ppb」(300μg/kg=0.3mg/kg)を上限値として設定するよう圧力をかけています。それに対しFDAはアメリカ環境保護庁(EPA)やアメリカ米穀協会(USA Rice Federation)と協同し、妥当な上限を定めるための調査を行っている最中とのこと。
 FDAは同団体からの圧力でアップルジュースの上限値(2013年)、および乳幼児向けライスシリアルの上限値(2016年)を設定してきたという経緯があります。ですから近い将来、お米のヒ素濃度にも上限値が設定されるようになるかもしれません。

ヒ素の混入・海外産フード編

 ペットフードが海外ですでに製造されている場合、中にヒ素が含まれているかどうかは念入りに調べる必要があります。

グレインフリーとヒ素

 近年アメリカでブームになっている「グレインフリー」がペットフード内に含まれるヒ素濃度を高めているかもしれません。
 「グレインフリー」(grain free)とは、小麦やトウモロコシと言ったメジャーな穀物(グレイン)を使用していない(フリー)フードのこと。本来は小麦グルテンに対してアレルギー反応を示す一部の犬にだけ用いられるものでしたが、人間界の「炭水化物は体に悪い」というイメージに流され、全く無関係な犬にまで「グレインフリー」が給餌されるようになりました。
 小麦やトウモロコシの代わりとしては豆類やイモ類のほか、お米が用いられることもありますが、にわかに沸き起こった「グレインフリー」ブームが犬の拡張型心筋症を引き起こしているのではないかという懸念があります。特定の成分が心筋症を引き起こしているというよりは、風変わりな材料を使うことにより「タウリン」と呼ばれる成分が減ってしまい、疾患につながっているものと推測されています。詳しくは以下のページをご参照ください。 グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係  さらに心配なのは重金属による汚染です。人間や動物の食品の安全性を客観的に評価する「Clean Label Project」が2017年に行った調査では、「グレインフリー」と名の付くフードほど、重金属を始めとする有害成分が高濃度で含まれていたといいます。ホームページ内では1,000を超えるペットフードサンプルに関するデータが公開されており、ヒ素に関しては最大で18,000μg/kg(18mg/kg)という高濃度のものまで存在していることが暴露されています。
 日本国内に輸入されたペットフードがアメリカ産であり、なおかつ「グレインフリー」で主原料としてお米(玄米)が用いられている場合、ヒ素を始めとする重金属による汚染に警戒したほうがよいでしょう。

行政によるヒ素のチェック

 日本国内で流通しているペットフードに関してはペットフード安全法によりヒ素の上限値が「15μg/g」と定められています。検査はFAMIC(農林水産消費安全技術センター)が定期的に抜き打ち検査を行っているものの、検査項目は年によってまちまちで、ヒ素が調べられるのは全体の1/3程度に過ぎません。ペットフードが海外で製造されている場合は注意が必要です。
 また定められている「15μg/g」という値は、アメリカのFDAで幼児用のお米シリアルに設けられた「100ppb/g」に比べるとずいぶん緩い基準のように思われます。「100ppb/g」が「0.0001mg/g」であるのに対し、「15μg/g」が「0.015mg/g」ですので、単純計算で150倍です。犬や猫は人間の子供よりさらに体が小さいのに、このような基準値で果たして本当によいのでしょうか?

輸入業者によるヒ素のチェック

 海外から輸入されたペットフードに関しては輸入業者自身が責任持ってチェックしなければなりません。例えば以下のような項目です。
  • 製造国でヒ素の上限値は設定されているか?
  • 米のヒ素濃度はチェックしているか?
  • 輸入業者は製品中のヒ素濃度はチェックしているか?
 海外産のペットフードに米、玄米、ライスと記載がある場合は、少なくとも輸入業者が独自の受け入れ規格を設定し、ペットフード安全法が定めるヒ素やその他の重金属の濃度チェックをしておく義務があります。心配な場合は、飼い主自身が直接問い合わせ、どのような受け入れ規格を設けているのかを確認しておきましょう。またフードが製造された国におけるヒ素の基準値や法律を調べ、使用が野放しになっていないかどうかも合わせて確認する必要があります。

ヒ素の毒性と規制

 短期的にも長期的にも毒性を発揮することが確認されているヒ素ですが、規制に関しては国によってまちまちなようです。

日本での規制と基準

 日本国内では水道法による水道水質基準によりヒ素及びその化合物の濃度基準が「0.01mg/L以下」とされています(厚生労働省, 2003)。それに対し、畜産物や水産物に関しては摂取量の基準値が設けられていません。食品安全委員会による見解は「無機ヒ素に遺伝毒性があり、発がん性を有している可能性は否定できないものの、現在得られている知見からは、ヒ素の直接的なDNAへの影響の有無について判断することはできない」というものです。水には基準値があるのに食品にはないというのは、なんともおかしな話です。

海外での規制と基準

 一方、世界的にはヒ素を含有する可能性が高い食品に関して上限値が設けられています。以下は一例で単位は「mg/kg」です。 世界各国における主要食品のヒ素含有上限値一覧グラフ
Codex(世界食品規格)
  • 食用油脂(総ヒ素)=0.1
  • 精米(無機ヒ素)=0.2
  • 玄米(無機ヒ素)=0.35
  • 食塩(総ヒ素)=0.5
EU(ヨーロッパ連合)
  • 精米(無機ヒ素)=0.2
  • 乳幼児用食品向けの米(無機ヒ素)=0.1
FDA(アメリカ食品医薬品局)
  • リンゴジュース(無機ヒ素)=0.01
  • 乳幼児ライスシリアル(無機ヒ素)=0.1
オーストラリア・ニュージーランド
  • 穀物(総ヒ素)=1
  • 甲殻類(無機ヒ素)=2
  • 魚(無機ヒ素)=2
  • 軟体動物(無機ヒ素)=1
  • 海藻(無機ヒ素)=1

ペットフードのヒ素上限値

 日本のペットフード安全法で設定されているドッグフードとキャットフードの上限値は「15mg/kg」(=15μg/g)になっています。詳細に検討していくと、この数値はずいぶんと甘いようです。動物や人間を対象とした調査により、ヒ素が毒性を発揮する最小量に関する知見がいくつか報告されています。以下は一例です。
ヒ素の摂取上限量
  • LD50JECFA(WHOとFAOの合同機関)は、毒性が強いとされる無機ヒ素の一種「亜ヒ酸」のラットにおけるLD50(半数が死亡する量)を、体重1kg当たり1日「15mg」としています。犬の体重が5kgなら75mg、10kgなら150mgになるでしょう。
  • 肺がんのBMDL0.5JECFA(WHOとFAOの合同機関)は、肺がんの発生率が0.5%増加する無機ヒ素のBMDL0.5(安全側の95%信頼下限値)を、体重1kg当たり1日「3.0μg」(2.0~7.0μg)と算出しています。犬の体重が5kgなら15μg(0.015mg)、10kgなら30μg(0.03mg)になるでしょう。
  • 皮膚病変のNOAELATSDR(アメリカの毒物調査機関)は、人間における皮膚病変のNOAEL(無有害作用量)を体重1kg当たり1日「0.8μg」と推定しています。犬の体重が5kgなら4.0μg(0.004mg)、10kgなら8μg(0.008mg)になるでしょう。
 アメリカ産のペットフードを例に取ると、含まれるヒ素の濃度は最大で18,000μg/kg(=0.018mg/g)だったと報告されています。もしこのドッグフードの原料がもっぱら米であり、犬が1日100g食べるとすると、単純計算で1日1.8mgのヒ素を摂取することになるでしょう。この摂取量は上で紹介した皮膚病変のNOAEL(体重5kgなら0.004mg/日)や肺がんのBMDL0.5(体重5kgなら0.015mg/日)を100倍以上も上回る値です。
 また日本で設定されているペットフードのヒ素上限値「15μg/g」(0.015mg/g)を当てはめてみると、犬が1日100g食べると仮定して最大で1500μg(=1.5mg)ものヒ素を摂取してしまうことになります。さすがに致死量ではありませんが、皮膚病変が生じたりがんの発症リスクが高まっても不思議ではありません。

飼い主の注意点

 ペットフードのヒ素含有量は、有機ヒ素と無機ヒ素の割合やその他の原料などによって多少は毒性が薄まると考えられます。とは言え、飼い主として不安が残ることに変わりはありません。ペットフードを選ぶときは、最低限以下の点に注意しましょう。
米の注意点
  • ペットフードにヒ素が混入する可能性がある
  • ヒ素は米に多く含まれる
  • ペットフードのヒ素はあまりチェックされていない
  • 法律が定める上限値はなぜか人間の10倍近い
 ヒ素を始めとする重金属の含有量検査を、メーカーや輸入業者がしっかりと行っているかどうかは、重要なチェックポイントです。またフードを切り替えて1週間以上経過したにもかかわらず犬が食べようとしないとか、食べるけれども必ず吐くといった場合は、いさぎよくそのフードを諦めましょう。