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犬に対する大豆イソフラボンの有害性と効果を教えて!

 人間向けの健康食品などにも含まれておりなじみ深い成分「イソフラボン」。大豆製品に多く含まれているこの成分は、犬に対してどのような影響を及ぼすのでしょうか?

大豆イソフラボンとは?

 イソフラボンとは大豆(だいず)、レッドクローバー、クズ、カンゾウなどのマメ科の植物に多く含まれているフラボノイドの一種。大豆に含まれるものは特に大豆イソフラボンと呼ばれます。
 大豆イソフラボンは体内において女性ホルモンに似た作用を示すことから、過敏性腸症候群、女性の更年期の血管障害、骨粗鬆症に対して有効である可能性が示されています。また人間用の特定保健用食品の中には、大豆イソフラボンを関与成分として「骨の健康維持に役立つ」という保健用途の表示が、そしてカルシウムと大豆イソフラボンアグリコンを関与成分として「歯茎の健康を保つ」という保健用途の表示ができる製品があります。
 2006年に食品安全委員会が設定した大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限は、アグリコン(※)という形で70~75mgです。
アグリコン
 イソフラボンには糖がグリコシド結合により様々な原子と結合した「配糖体」という形と、配糖体から糖が外れた「アグリコン」という形があります。配糖体の代表格が「ゲニスチン」「ダイジン」「グリシチン」。この3種のアグリコン型がそれぞれ「ゲニステイン」「ダイゼイン」「グリシテイン」という対応関係です。
 人間向けの健康食品としても認可されている大豆イソフラボン。一見すると犬に対しても健康増進効果があるような印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょうか?データが不足しているため断言することは難しいですが、人間における摂取上限と同様、体重1kg当たりアグリコンで2mgを超えないようにしたほうが無難だと考えられます。以下で具体的なデータを見ていきましょう。

ドッグフード中のイソフラボン

 大豆を原料としたドッグフードにはほぼ確実にイソフラボンが含まれているようです。
 2002年の春、ペンシルヴェニア大学の調査チームは州内にあるスーパーや大学病院付属の薬局から24種類(ドライ16種+ウエット8種)のドッグフードを購入し、中に含まれるイソフラボンの濃度を分析しました(→Cerundolo, 2003)。その結果、原料に大豆が用いられている12種類のうち11種類から最低1つのイソフラボン・アグリコン(ダイゼイン・ゲニステイン・グリシテイン)が検出されたと言います。それに対し大豆が用いられていない12種類からは全く検出されませんでした。
 さらに犬の体重を15kg、1日の摂取エネルギーを750~1,000kcalと仮定して1日のイソフラボン摂取量を推定した所、「0.4~39mg/kg」という値が導き出されました。これは人間においてステロイドホルモンや甲状腺ホルモンの値に影響を及ぼすとされている「2mg/kg」に近いかそれを超える値です。
 こうした結果から調査チームは、大豆を原料に含むドッグフードを日常的に食べている犬においては、大豆イソフラボンによって何らかの生理的変化が引き起こされてもおかしくないとしています。ただしイソフラボンにはメリットとデメリットの両方があるため、生理的変化が犬にプラスに働いているのか、それともマイナスに働いているのかを見極めるためには、今後さらなる調査が必要だとも。

犬に対するイソフラボンの毒性

 大豆を原料として用いたドッグフードには高い確率で大豆イソフラボンも含まれていることがわかりました。ではイソフラボンの摂取は犬の健康にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
 2005年、McClain Associatesの調査チームは臨床上健康な犬を対象とし、4週間および52週間という中~長期的なイソフラボン給餌試験を行いました(→McClain, 2005)。イソフラボンの摂取量を体重1kg当たり1日50、150、500mgと変動させて犬の健康状態をモニタリングした所、150mgを超える高濃度摂取グループにおいて子宮重量の増加(メス)、卵巣重量の低下(メス)、精巣、精巣上体、前立腺の大きさと重量の低下(オス)といった変化が観察されたと言います。
 最終的にはNOAEL(無有害作用量=動物を使った毒性試験において何ら有害作用が認められなかった用量レベル)とNOEL(無影響量=動物試験等でいかなる影響も認められない最高の投与量)に関し以下のような値が導かれました。
犬のNOAEL・NOEL
  • 4週摂取●NOAEL→500mg超/kg(体重)/日
    ●NOEL→150mg/kg(体重)/日
  • 52週摂取●NOAEL→500mg超/kg(体重)/日
    ●NOEL→50mg/kg(体重)/日

犬に対するイソフラボンの影響

 イソフラボンを体重1当たり1日50mgまで摂取して大丈夫という意見がある一方、長期的にはやはり内分泌系に影響をもたらすのではないかと指摘している研究班もあります。
 2009年、ペンシルヴェニア大学のチームはイソフラボン濃度が異なる2種類のドッグフードを用い、15頭の犬を対象とした1年に渡る長期的な給餌試験を行いました(→Cerundolo, 2009)。
 長期的なモニタリングの結果、高濃度グループと低濃度グループ間で皮膚の状態、ボディコンディション、行動、血液、生化学、尿検査、被毛の状態、毛包、被毛の直径、副腎ホルモンに違いは見られなかったと言います。逆に違いが見られたのは以下の2項目です。
  • 甲状腺ホルモン甲状腺ホルモンの一種である総T4(チロキシン)濃度が、高濃度摂取群では「ベースライン+15.3」だったのに対し、低濃度では「ベースライン-1.4」
  • 女性ホルモン副腎皮質刺激ホルモンテスト後のエストラジオール(※女性ホルモンであるエストロゲンの一種)濃度が、高濃度摂取群では「ベースライン+19pg/ml」だったのに対し低濃度摂取群では「ベースライン-5.6pg/ml」
 こうした結果から調査チームは、イソフラボンを高濃度で含有するドッグフードを長期に渡って食べている犬においては、内分泌機能に変化が生じ、体調に何らかの変化が生じる可能性を否定できないとの結論に至っています。高濃度イソフラボンフードには1kg当たり92~129mg含まれていましたので、体重5kgの犬が1日100g食べるとすると9.2~12.9mg、体重1kg当たり1.8~2.6mg摂取するという計算になります。この摂取量は人間においてステロイドホルモンや甲状腺ホルモンの値に影響を及ぼすとされている「2mg/kg」に近い値です。

飼い主の注意・心がけ

 断片的なデータしか無いため、すべての犬に当てはまるような公式を導き出すことはさすがに困難です。しかし甲状腺ホルモンや女性ホルモンに影響を及ぼす可能性があることから考えると、イソフラボンを無節操に与える事は控えた方が賢明だと思われます。人間においては体重1kg当たり2mgのイソフラボンアグリコンを摂取すると体内のホルモンバランスに変化が生ずるとされています。犬においては体重1当たり1日50mgまで摂取しても問題ないという意見があるものの、便宜上、犬においても「2mg」程度に抑えておいた方が無難でしょう。

グレインフリーに注意!

 近年、欧米を中心として「グレインフリー」と呼ばれるペットフードが人気を博しています。これは小麦やトウモロコシなど特定の穀物を原料から取り除いたフードのことで、背景にあるのは「小麦アレルギーを避ける」という体質上の理由や、「野生環境で食べる食事が1番良い!」という思い込みです。
 しかし2018年7月、アメリカのFDA(食品医薬品局)が「グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症との間に因果関係があるかもしれない」という注意喚起を行ったことから、ちょっとした騒動を引き起こしました。この騒動については以下のページをご参照ください。 グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係  現在想定されている拡張型心筋症の発症メカニズムは、「タウリンの欠乏+X」です。「X」の部分に何が入るのかは今後の調査を待たなければなりませんが、グレインフリーのドッグフードにはメジャーな穀物の代わりに、いも類や豆類が豊富に含まれていることは覚えておく必要があります。大豆を含むこうした代替食材を長期的に犬に給餌した時の影響に関してはよくわかっていませんので、少なくとも「グレインフリー=健康的!」という安易な思い込みは捨てた方がよいでしょう。

ベジタリアンフードに注意!

 宗教的もしくは道徳的な信念から、自分のペットに動物の肉を食べさせたくないという飼い主が一部にいます。そういう人たちが選ぶのが、ペット向けのベジタリアンフードやヴィーガンフードです。 ベジタリアンとヴィーガンが口にできる食品の一覧表 菜食主義フードの安全性に関するエビデンス(医学的な証拠)を中立的な立場から調査したものとしては、2016年にイギリス・ウィンチェスター大学が行った総括レビューがあります。このレビューでは2000年以降にベジタリアン(ヴィーガン)フードを対象として行われた調査が懐古的に精査されました。その結果、ほとんどのケースでAAFCOもしくはNRCの栄養基準を下回る商品が見つかったものの、少数の例外を除き、植物由来のフードが犬や猫に健康被害をもたらすという証拠は不思議と見当たらなかったといいます。それどころか、逸話的に以前より健康になったと言う飼い主すら散見されました。ただしこうした調査の多くは、エビデンスに基づいた医学の基準とされるRCT(ランダム化比較試験)という条件を満たしておらず、また血液検査も不十分であるため、解釈は慎重に行わなければならないと忠告しています。詳しくは姉妹サイト「子猫のへや」内にある以下の記事をご参照ください。 犬や猫向け菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン)フードの多くにはなぜか動物成分が入っている  菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン)フードには植物由来のタンパク質が含まれており、大豆が原料となっていることもしばしばあります。「ベジタリアンフードに切り替えてペットの体調が良くなった」といった飼い主の逸話的な報告がある一方、長期的に給餌した時の影響に関してはよくわかっていないというのが現状です。「植物由来の成分しか使っていません」と宣言していたにもかかわらず動物性成分が含まれていることもザラですので、ペットフードメーカーに過剰な信頼を寄せるのは避けたほうが賢明でしょう。

イソフラボン含有食品

 2005年、日本の新開発食品専門調査会が文献等で報告されている測定値を元に、日常的に食される大豆食品中のイソフラボン含有量(アグリコン換算値)を試算しました。以下はその一覧表で、単位は「μg/g」です(※1μg=0.001mg)。 人間向け大豆食品に含まれるイソフラボン(アグリコン)の含有濃度一覧表  また2002年の春、ペンシルヴェニア大学の調査チームは州内にあるスーパーや大学病院付属の薬局から24種類(ドライ16種+ウエット8種)のドッグフードを購入し、中に含まれるイソフラボン(アグリコン)の濃度を分析しました。以下はその一覧で、単位は乾燥重量中の「μg/g」です(※1μg=0.001mg)。「Dai=ダイゼイン」「Gly=グリシテイン」「Geni=ゲニステイン」を意味しています。 アメリカ国内で販売されていたドッグフード中に含まれるイソフラボン(アグリコン)の含有濃度一覧表  人間用の食品では「大豆」「煮大豆」「納豆」など大豆が原型をとどめているような食品、ドッグフードではウエットでもドライでも「大豆ミール」を含んだもののイソフラボン含有濃度が高いようです。無節操に犬に与えるとイソフラボンの過剰摂取になりかねないため、おすそ分けや盗み食いには要注意です。