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北海道の犬は都市部であってもエキノコックスに感染する危険がある

 札幌にある動物保護施設に収容された犬を対象とした調査により、およそ2%がエキノコックスに感染している可能性が示されました(2018.3.21/日本)。

詳細

 調査を行ったのは北海道立衛生研究所のチーム。2013年9月から2017年4月の期間、札幌市内にある動物保護施設に収容された犬156頭(126頭は屋外捕獲 | 30頭は飼育放棄)を対象とし、条虫の一種である「エキノコックス」(Echinococcus multilocularis)の感染率調査を行いました。その結果、合計3頭(1.9%)で陽性反応が出たと言います。うち2頭は屋外を放浪していた迷子犬や野良犬でしたが、残りの1頭は飼い主によって飼育放棄されたペット犬でした。
 こうした結果から調査チームは、たとえ短時間でも屋外を放浪していた犬はネズミなどの中間宿主を摂食することによりエキノコックスに感染している危険性があると指摘しています。また家庭犬であっても都市部であっても例外ではないとも。犬の保護施設においては気の緩みから予防措置がおろそかになっていることが多々あるため、北海道のような流行エリアにおいては駆虫薬の一種である「プラジカンテル」の投与を保護施設内で標準化する必要があると指摘しています。
Echinococcus multilocularis Surveillance Using Copro-DNA and Egg Examination of Shelter Dogs from an Endemic Area in Hokkaido, Japan
Takao Irie et al., VECTOR-BORNE AND ZOONOTIC DISEASES, DOI: 10.1089/vbz.2017.2245

解説

 エキノコックスはテニア科エキノコックス属に属する寄生虫の総称。キタキツネ、タヌキ、イヌといったイヌ科動物を終宿主とし、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ネズミといった多様な哺乳動物を中間宿主として生活環を形成します。基本情報は以下です。 国立感染症研究所
エキノコックス症
  • 原因条虫の一種である「エキノコックス」およびその虫卵。
  • 症状犬においてはほとんど無症状。人間に感染した場合は10~20年という極めて長い潜伏期間をおいた後で発症する。多包性エキノコックス症では約98%が肝臓に病巣を形成し、肝臓腫大、右上部の腹痛、黄疸、腹水といった肝症状のほか、咳、血痰、胸痛、発熱といった肺症状を引き起こす。
  • 感染経路キツネ、イヌなどの終宿主には虫卵を含んだ中間宿主を経口摂取することで感染する。人間などの中間宿主には、成虫に感染しているキツネ、イヌなどの糞便を何らかのはずみで口に入れることに感染してしまうと考えられている。
  • 治療第一選択肢は病巣部の外科的切除。何らかの理由で手術ができない場合はアルベンダゾールによる化学療法。
  • 予防犬においてはプラジカンテル(praziquantel)の投与。人間においては虫卵を保有している可能性がある動物との接触を避けること。手洗いの励行。
 北海道におけるエキノコックスの感染率は、野良犬で1%(死後解剖)、ペット犬で0.4%(糞便検査)程度と推測されていますが、今回の調査では放浪犬で1.6%(2/126)、ペット犬で3.3%(1/30)という高い値でした。犬たちの生息域が札幌だったという事実と考え合わせると、その地域が都市化されていようといまいと寄生虫の危険性は常にあると考えた方がよさそうです。 エキノコックスの虫卵と成虫  当調査ではペット犬においても感染が確認されました。感染した状況としては「散歩の途中でネズミの死骸をくわえてしまった」「ネズミの死骸の上で背中をスリスリしてしまった」「散歩の途中で得体の知れない糞便を食べてしまった」など様々な可能性が考えられます。ただ1つ確実に言える事は「ペット犬だからといって安全では無い」ということです。
 人間への感染は虫卵を含んだ排泄物を口に入れてしまうことで成立すると推測されています。「そんなことあるわけない」と思いたいところですが、感染した犬が自分のお尻を舐めたり食糞癖があった場合、口の中に虫卵が移ってしまう可能性を否定できません。その口で人間の手や顔を舐めると寄生虫の卵が人間の皮膚に移ってしまうでしょう。そしてそのままうっかり手洗いや洗顔を忘れてしまうと、あっという間に感染が成立します。 エキノコックスの生活環  北海道の東北、中央、西部地域では、1965年から1988年までの23年の間に発見された患者数は30名でした。しかし1989年から1997年までのわずか8年の間に発見された患者数は66名にのぼったと言います。詳細な感染経路は不明ですが、北海道においてはたとえキタキツネと接する機会がなかったとしても、エキノコックスに感染してしまう危険性は否定できないようです。犬を散歩させるときは犬が得体の知れない者に鼻を突っ込まないようしっかりと監督し、あらかじめ拾い食いのしつけをマスターさせておくしかありません。 犬の拾い食いをしつけ直す