トップ2018年・犬ニュース一覧7月の犬ニュース7月12日

子犬は生後8週齢の時点ですでに模倣学習(モノマネ)ができる

 子犬を対象とした観察実験により、生後8週齢の時点ですでに他の犬や人間の行動を真似する高い社会的学習能力(模倣)を備えていることが明らかになりました(2018.7.12/ハンガリー)。

詳細

 調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュローランド大学のチーム。7頭の母犬から生まれた合計41頭の子犬対象とし、生後8週齢という早い段階で、他の個体から行動を取り入れ自分のものとする「社会的学習」の能力がすでに備わっているかどうかを検証しました。観察実験に際しては「箱の中に隠されたおやつを取り出す」というタスクを用意し、以下に述べる4つの状況下における子犬たちの成績が比較されました。
問題解決タスク
蓋を上に持ち上げるタイプと蓋をスライドさせるタイプの容器におやつを入れ子犬の社会的学習能力を試す
  • コントロール人間や他の犬のお手本を一切見ない
  • 母犬のお手本を見る母犬が問題を解決している様子を事前に2回観察する
  • 見知らぬ犬のお手本を見る見知らぬ犬が問題を解決している様子を事前に2回観察する
  • 人間のお手本を見る人間が問題を解決している様子を事前に2回観察する
 子犬たちを上記した4つの状況にランダムで振り分けた後、子犬の自由行動を観察したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
生後8週齢時の社会的学習能力
  • 観察学習をしなかったグループよりも観察学習をしたグループの方が素早く問題を解決した
  • 観察学習グループを成績順に並べると、人間を観察>見知らぬ犬を観察>母犬を観察だった
  • 統計的には人間を観察したグループと見知らぬ犬を観察したグループだけがコントロールグループより問題解決が早いと判断された
  • 母犬を観察したグループ(30.5秒)よりも見知らぬ犬や人間を観察したグループ(44秒)の方が模範演技者(人もしくは犬)に注視している時間が長かった
  • 1時間のブランクを空けて同じ状況に子犬を置いたところ、1時間前の行動がしっかり記憶されていた
  • 1時間空けて行ったトライアルでは蓋をスライドするタイプよりも蓋を持ち上げるタイプの方が成功率が高かった
 こうした結果から調査チームは、子犬には生後8週齢の時点ですでに、他の犬や人間から行動をまねて自分のものとする社会的学習能力があるという可能性を示しました。同じ種類に属する犬よりも、全く別の種に属する人間がお手本を見せた時の方が成績が良くなるという不思議な現象の理由としては、「新奇性が子犬の集中力を高め、結果として効果的な観察学習につながった」というものが想定されています。
Social learning from conspecifics and humans in dog puppies
Scientific Reportsvolume 8, Article number: 9257 (2018) , DOI:10.1038/s41598-018-27654-0, Claudia Fugazza, Alexandra Moesta, Akos Pogany & Adam Miklosi

解説

 社会的学習(Social Learning)は、自分の親から行動を学習する垂直学習であれ、同じ社会的グループに属する個体から学習する水平学習であれ、生命を危険にさらすような状況を避けて生存の確率を最大限に高める上で重要です。
社会的学習いろいろ
社会的学習の一般的な分類一覧表  過去に行われた調査により、成犬は様々なコンテクストで社会的学習能力を示し、1~24時間はその記憶を保持できることが示されています。しかし子犬における調査ほとんど行われておらず、「同腹仔がトローリーを引っ張る様子を見て真似する」(Adler, 1977)とか「母犬の麻薬捜査トレーニングを事前に観察した子犬の方がタスクのマスターが早い」(Slabbert and Rasa, 1997)など限られた報告しかありませんでした。今回の調査により、模範演技者が犬だろうと人間だろうと、生後8週齢の時点である程度の模倣学習能力があることが示されたことになります。
 模範演技者が犬だった場合、8頭はマズル、3頭は前足、3頭は両方を用いて問題解決に当たりました。一方、子犬たちは例外なくマズルを使って問題を解決したといいます。この事実は、子犬たちがただ単に行動を猿真似したのではなく、「箱の中のおやつをゲットする」という目的を理解した上で行動を再現した可能性が高いことを意味しています。もしこれが事実なら、社会的学習の中でも最も高度な「模倣」を生後2ヶ月くらいの時点で行ったということになります。
 母犬を観察したグループにおける成績がコントロールグループと大差なかった理由としては、「常に一緒にいる存在なので新奇性がなくなり注意力が散漫になった」ことと「母犬は食事をねだる相手という意識が強く注意力が散漫になった」といったものが想定されています。逆に考えると、見知らぬ犬や人間は「ねだっても餌をくれるかどうかわからない新奇な存在」だったため、子犬の注意力が増し、結果として観察学習につながったともいえるでしょう。
 見知らぬ犬や人間がお手本になった方が学習がはかどるという現象は、生後間もない時期に接する個体を情報源として最大限に利用するという、生得的な行動パターンによって生み出されているのかもしれません。群れをなさない猫においては見知らぬ猫が模範の時よりも母猫が模範になった時の方が効率的に学習されると言います。一方、群居性動物である犬の場合、狼でも犬でも生後3週齢ころから外の環境を探検し、グループの他のメンバーと接する機会が多くなります。猫から見た他の個体はライバルですが、犬から見た他の個体はグループのメンバーです。こうした認識の違いが、模倣学習の成績に影響を及ぼしている可能性は大いにあります。 群居性動物である犬にとって他の個体はライバルと言うよりお手本  生得的行動パターン以外では、見知らぬ犬が見せる模範演技を子犬が自発的に長く注視したことや、人間が模範演技をしている間、子犬の注意を切らさないよう、常に呼びかけていたことが効率的な学習につながったと考えられます。成犬においても注意を自分に向けることによって学習能力が高まるとされていますので、子犬が相手だろうと成犬が相手だろうと、しつけを施す際の参考になるでしょう。 犬はモノマネが得意? 犬のアイコンタクト(来い)のしつけ