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保護施設内でフードガーディングを示す犬が譲渡先で攻撃的になるとは限らない

 保護施設に収容された犬にフードガーディングが見られたとしても、極端なレベルでない限りは里親宅で問題なく生活できる可能性が示されました(2018.2.14/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、ニューヨークにあるASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)のチーム。全米7つの州にある9つの動物保護施設に協力を仰ぎ、収容された犬を対象として行われる「フードガーディング評価」というプロセスが本当に必要なのかどうかが検証されました。
 フードガーディング(food guarding)とは、食事中の犬に近づいたり食事中の食器に手を出すとうなったり歯を鳴らして威嚇する行動のこと。本当に噛みつくこともある。 フードガーディングをもつ犬では、食事中に近づいてくる手に対して攻撃性を示す  犬にフードガーディングがあるかどうかを調べる際は「SAFER™」と呼ばれるプロトコルにのっとって行われるのが一般的で、具体的には人間の手の模型を食事中の犬に近づけてリアクションを見るというもの。ASPCA基準ではフードガーディングの度合いが「軽度」<「中等度」<「重度」の3段階で評価される。
フードガーディングのレベル
  • 軽度評価が進行するに連れ食べるスピードが早くなっていく | 人が近くにいると食器の上でしゃがむような姿勢を取る | 人や手の模型が食器に近づくと体や頭を動かして妨害する | 人や手の模型が食器に近づくと食器から頭を上げない状態で動きを一瞬止めたり食べるのをやめる
  • 中等度唇を挙げて歯をむき出す | 人や手の模型が食器に近づくと食器から頭をずらさないまま食べ物や手の模型に向かって噛み付く仕草を見せる | 手の模型に噛み付くものの、食器からは頭を上げたり引き下がる手を執拗に追いかけようとはしない
  • 重度手の模型に何度も噛み付く | 手の模型が近づくときや引き下がるとき食器から離れてまで噛み付こうとする | 評価が終わった前や後のタイミングで人の腕や体に飛びかかる、歯を鳴らす、噛み付く
 最初の2ヶ月間はフードガーディング評価ありの「ベースライン期間」(犬を持ち込んだ飼い主からの報告+シェルタースタッフによる観察+シェルタースタッフによる行動評価の3項目でフードガーディングを判断)、次の2ヶ月間はフードガーディング評価を省いた「テスト期間」(犬を持ち込んだ飼い主からの報告+シェルタースタッフによる観察の2項目だけでフードガーディングを判断)と設定して譲渡活動を行い、最後の1ヶ月で犬の返還率(譲渡した先から再び犬が施設に戻されること)や受傷率(犬が原因で里親が怪我をしてしまうこと/咬傷とは限らない)に関するデータが収集されました。
 調査チームの予想は「規定の手順にのっとったフードガーディング評価を省いたテスト期間において攻撃的な犬がたくさん譲渡され、結果として里親の返還率や受傷率が高まるはずである」というものでした。実際の結果は以下です。
フードガーディング評価の存在意義
  • ベースライン期間とテスト期間の両方でフードガーディングを示す犬が譲渡されたが、どちらか一方において高い受傷率が報告されるということはなかった
  • テスト期間でもベースライン期間でも、譲渡された犬のうちフードガーディングがある犬ではフードガーディングがない犬よりも里親から高い受傷率が報告された
  • ベースライン期間でもテスト期間でも、保護施設内においてフードガーディングがある犬とない犬の間でスタッフの受傷率に格差は見られなかった
  • ベースライン期間でもテスト期間でも、フードガーディングがある犬の方が施設内にとどまっている期間が平均して長かった(9.9日:13.6日)
  • フードガーディングがある犬の安楽死率は15.4%、ない犬のそれは10.9%で、前者の方が有意に高かった
  • 安楽死となったフードガーディング犬120頭のうち74%(89頭)では問題行動が安楽死の理由として挙げられ、さらにそのうち45%がフードガーディングだった
  • ベースライン期間においてフードガーディングと判断した時の材料は80%が行動評価だった
  • ベースライン期間におけるフードガーディング犬の返還率が9%だったのに対し、テスト期間における返還率は11%で、統計的に有意ではなかった
  • ベースライン期間(10%)よりもテスト期間(13%)における返還率の方が3%ほど高く統計的にと判断されたが、慎重な解釈が必要
 フードガーディング評価の有無にかかわらず、ベースライン期間とテスト期間における里親の「受傷率」と里親からの「返還率」に格差は見られませんでした。こうした結果から調査チームは、フードガーディング評価はもはや収容した犬の行動を予見するためのテストとして必要ではないとの結論に至りました。ベースライン期間においてフードガーディングと判断された犬のうち80%は行動評価を通してであったことから、それほど攻撃的ではない犬を「攻撃的で譲渡不可能」であると誤認しているケースが相当数あると推測されます。
The Impact of Excluding Food Guarding from a Standardized Behavioral Canine Assessment in Animal Shelters
Heather Mohan-Gibbons, et al., Animals 2018, 8(2), 27; doi: 10.3390/ani8020027

解説

 近年行われた2つの調査により、フードガーディング評価があまり役に立ってないのではないかという疑いがにわかに浮上しました。
 Marderが2013年に行った調査では、保護施設におけるフードガーディングが21%(20頭)で見られたが、これらの犬が譲渡された里親宅で実際にフードガーディングを見せた割合は55%に過ぎなかったと報告されています。また逆にフードガーディングを見られなかった77頭のうち、譲渡された里親宅でフードガーディングを見せた割合は22%(17頭)にのぼったとも。
 Mohan-Gibbonsが2012年に行った調査では、「SAFER™」と呼ばれるプロトコルでフードガーディングを示すと判断された96頭を対象とした追跡調査が行われました。その結果、譲渡から3週間後のタイミングで里親宅でフードガーディングを示したのはわずか1頭、3ヶ月後ではゼロになったそうです。
 そして今回の調査でもフードガーディングの行動評価が里親宅に譲渡されてからの犬の行動を予見できていないことが明らかになりました。こうした各種の事実から調査チームは、もはやこのプロトコルは保護施設において必要ではないと断言しています。
フードガーディング評価
 以下でご紹介するのはASPCAで標準化されている犬の行動評価プロトコル「SAFER™」のうち、「フードガーディング」の有無を判断するときの手順です。 元動画は→こちら
 ベースライン期間では8%(571/7112頭)の犬がフードガーディングと判断されたのに対し、テスト期間では3%(207/7068頭)に激減しました。目減りした分は、これまで行動評価において杓子定規に「攻撃的」とカテゴライズされていた軽度から中等度のフードガーディング犬だと推測されます。しかしこれらの犬が実際に譲渡されたとしても、返還率や受傷率が高まらなかったことから、フードガーディングが極端なレベルでない限り「譲渡不可」と判断してしまうのは早計ということになります。
 2005年にASPCAが行った調査では、全米にある動物保護施設のうち89%は収容した動物に対して何らかの行動評価を行っており、ほぼ全数に「フードガーディング」が含まれていたといいます。フードガーディングを示す犬は悪ければ譲渡に適さないとして安楽死の対象、よくても「犬の飼育歴があり子供がいない家庭」など里親候補者に条件が課せられ、結局譲渡率が下がってしまうのが常です。フードガーディングの行動評価を省くことにより、これまで譲渡不可能されていた軽度~中等度のフードガーディング犬が譲渡対象となることで、安楽死という憂き目にあう犬の数が減ってくれるものと推測されます。
 ただし「フードガーディングがない犬よりもある犬の方が受傷率が高い」(※注:食事中の咬傷とは限らない)という事実もあるため、調査チームはシェルタースタッフに必要とされているのは譲渡した先の飼い主に対し、この行動が生後2~3週の子犬でも見られる自然のものであることを説明し、どうしても気になる場合は行動修正プロトコルを情報として提供することだとしています。
 日本国内では「殺処分ゼロ」の代わりに「理由なき殺処分ゼロ」というスローガンを掲げている自治体があります。この「理由」の中に軽度~中等度のフードガーディングが含まれているのだとすると、アメリカが踏んだ道と全くおなじルートを辿ってしまう危険性がありそうです。 犬のうなる癖をしつけ直す