詳細
調査を行ったのはチェコ共和国・メンデル大学のチーム。南モラヴィア州にある動物病院を受診した1歳以上の犬と18歳以上の飼い主を対象とし、代表的なシチュエーションにおける犬の飛びつき行動に関する統計調査を行いました。その結果、294人から回答が寄せられ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。なお数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
Rezac, Petr, Koru, Eva, Havlicek, Zdenek, Pospisilova, Dagmar, Applied Animal Behaviour Science, dx.doi.org/10.1016/j.applanim.2017.09.008
相手が「見知らぬ人」に対して「家族のメンバー」では
- 帰宅時→8.1
- 散歩中→2.7
飛びつくのが「散歩中」に対して「帰宅時」では
- 家族のメンバー→12.1
- 見知らぬ人→4.0
飛びつきに影響を及ぼす組み合わせ
- 大型犬+家族のメンバー+帰宅時→0.32
- 番犬+見知らぬ人+帰宅時→0.39
- メス犬+家族のメンバー+散歩中→1.74
- 1日2回以上散歩+家族のメンバー+散歩中→1.79
- メス犬+見知らぬ人+散歩中→2.03
「しゃがんでいる」に対して「立っている」では
- 低い姿勢のまま近づく→0.68
- 耳を後ろに引く→1.11
- しっぽをブンブン振る→0.30
- 下半身をブンブン振る→0.64
- 興奮して駆け回る→0.38
- 顔を舐める→10.3
Rezac, Petr, Koru, Eva, Havlicek, Zdenek, Pospisilova, Dagmar, Applied Animal Behaviour Science, dx.doi.org/10.1016/j.applanim.2017.09.008
解説
帰宅時(8.1倍)であれ散歩中(2.7倍)であれ、相手が見知らぬ人よりも家族のメンバーであるときのほうが、飛びつき行動が出やすいようです。また飛びつく相手が家族のメンバー(12.1倍)であれ見知らぬ人(4.0倍)であれ、散歩中よりも帰宅時のほうが飛びつき行動が出やすいようです。まとめると、家族のメンバーが帰宅したときにとりわけ飛びつきが出やすいということになります。
調査チームは飛びつきの目的を「相手の顔を舐めること」と推測しています。こちらのページでも解説しているように、犬にとって顔を舐めるという行為には「ごはんをねだる」、「親愛の情を伝える」、「上位者への服従サイン」といった意味があると考えられます。こうした本能的な衝動に加え、子犬の頃から「顔を舐める→人がキャーキャーはしゃぐ」といった経験を繰り返していると、「顔を舐めると喜んでくれる!」と学習し、知らないうちに癖になっているということもあるでしょう。相手が立っているような状況では、顔に口を近づけるためどうしても「飛びつく」という行動が出やすくなってしまいます。
犬の飛びつきは爪による引っかき傷や衣服の損傷、前足による汚れの付着、年配の人や足の不自由な人を押し倒したときの怪我など、さまざまな弊害をもたらしうる危険な行為です。また飛びつきの目的が「顔舐め」だったとしても、この行為自体が人獣共通感染症の伝播という別の危険性をはらんでいます。ですから犬の体の大きさや状況にかかわらず、どちらの行動も可能な限り出ないようにしつけておいたほうが無難でしょう。
しつけに際しては、行動が出た途端、犬への関心を遮断して放置する「タイムアウト」を用いるのが王道です。また2008年の調査では、飛びつきが出やすい状況(飼い主が玄関ドアから現れるなど)において、指定のラグマット上に待機するよう繰り返し強化しておけば、問題行動の発現率が大幅に減少すると報告されています(→出典)。こうしたしつけは間欠強化を避けるため家族が一丸となって行う必要がありますので、事前にしつけ方針を決めたら、一度の例外もなく遵守することが重要です。