トップ2017年・犬ニュース一覧3月の犬ニュース3月1日

犬における特発性てんかんの原因遺伝子は「ADAM23」

 発症理由がよくわからない特発性てんかんの原因遺伝子を特定するため、発症リスクが高い8犬種を対象とした遺伝子調査が行われました(2017.3.1/フィンランド)。

詳細

 てんかんのうち原因がよくわからない「特発性てんかん」に関しては、過去に行われた調査でいくつかの原因遺伝子候補が明らかになっています。具体的にはロマーニャウォータードッグ(ラゴットロマニョーロ)の良性若年性てんかんに関わっている第3番染色体「LGI2遺伝子」、そしてベルジアンシェパードの遅発性焦点および全身性てんかんに関わっている第37番染色体「ADAM23遺伝子」の2つです。 発作の分類体系~てんかん様発作とてんかんの違い  今回の調査を行ったフィンランド・ヘルシンキ大学の研究チームは、特発性てんかんを好発するとされる4犬種を対象とし、GWAと呼ばれる解析手法で新しい原因遺伝子を特定すると同時に、好発8犬種を対象としてADAM23が発症とどのように関わっているかを検証しました。具体的な調査対象となったのは以下の8犬種です。
特発性てんかんの好発品種
 上記リストの上から4犬種を対象としたGWA解析の結果、新しいリスク遺伝子は見つからなかったと言います。一方、ADAM23に関しては、エクソン5~11の領域に含まれるハプロタイプ(遺伝子の組み合わせ)が、フィニッシュラップフントを除く7犬種においてリスク遺伝子になっており、発症リスクを1.7~12.3倍に高めていることが明らかになったとも。ただしリスクハプロタイプを保有しているからといって必ずしも発症するわけではなく、未知の調整因子が関わることによって浸透率(遺伝子型の変化が実際の表現型上の変化として現れる割合)が大きく変動する現象が確認されたとのこと。
ADAM23 is a common risk gene for canine idiopathic epilepsy
Lotta L. E. Koskinen, et al. BMC Genetics 2017 18:8, DOI: 10.1186/s12863-017-0478-6

解説

 「ADAM23」(metallopeptidase domain 23)は、幾つかの組織に発現する膜アンカータンパク質の生成に関わっており、細胞同士の接着と中枢神経の発達に影響を及ぼす遺伝子です。この遺伝子の組み合わせ(ハプロタイプ)がタンパク質の生成能力を変化させ、脳の発達に影響を及ぼして特発性てんかんを引き起こしていると推測されています。しかし詳細なメカニズムに関してはよくわかっておらず、解明は今後の課題とされています。
 ハプロタイプの違いにより、フィニッシュラップフントを除く7犬種において、以下に示すような発症リスクの上昇が確認されました。リストタイトルはハプロタイプの名称、犬種の横に記されている数値はオッズ比のことで、「2」とある場合は2倍発症しやすいという意味です。
CHR37_15085438
  • オーストラリアンシェパード→1.7
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→11.3
CHR37_15106446
  • オーストラリアンシェパード→1.7
  • クロムフォルレンダー→3.3
  • ラブラドールレトリバー→2.6
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→12.3
CHR37_15108593
  • オーストラリアンシェパード→1.7
  • クロムフォルレンダー→3.3
  • ラブラドールレトリバー→2.7
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→12.3
CHR37_15108802
  • オーストラリアンシェパード→1.7
  • クロムフォルレンダー→3.3
  • ラブラドールレトリバー→2.5
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→12.3
CHR37_15111724
  • オーストラリアンシェパード→1.8
  • クロムフォルレンダー→3.2
  • ラブラドールレトリバー→2.2
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→12.3
CHR37_15113325
  • オーストラリアンシェパード→1.7
  • クロムフォルレンダー→3.3
  • ラブラドールレトリバー→2.3
  • ピレニアンシェパード→2.6
  • ウィペット→12.3
 上記したように、同じハプロタイプを有しているからといって、発症率が同じになるわけではありません。犬種間における格差には、未知の調整因子が関わっているものと推測されています。ここの解明も今後の課題です。 犬のてんかん