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ラブラドールレトリバーの肥満遺伝子が特定される

 ポーランドやイギリスなどで行われた調査により、ラブラドールレトリバーを太りやすい体質にしているのが「TNF遺伝子」と「POMC遺伝子」という遺伝子である可能性が浮上してきました(2016.5.4/ポーランド・イギリス)。

詳細

 普通体型の犬と太った犬を対象とした複数の遺伝子調査により、ラブラドールレトリバーを肥満に向かわせている原因遺伝子らしきものが発見されました。

ポーランドの調査

 報告を行ったのは、ポーランド・ポズナン大学を中心とした研究チーム。犬の肥満に関連した遺伝子を特定するため、普通体型109頭、太り気味88頭、完全な肥満63頭という合計260頭の犬(そのうち136頭は太りやすいことで知られるラブラドールレトリバー)を対象とし、メタボリックシンドロームの発症に深く関わっている「アディポカイン」の生成に関わる遺伝子の調査を行いました。「アディポカイン」とは脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称で、今回ターゲットとなったのはアディポカインの一種「腫瘍壊死因子」の生成に関わる「TNF遺伝子」、「レジスチン」の生成に関わる「RETN遺伝子」、「インターロイキン6」の生成に関わる「IL6遺伝子」の3つです。チームが遺伝子を構成しているアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基配列にどのような違いがあるかを調べたところ、全部で24種類のバリエーションがあったと言います。具体的には「TNF遺伝子」に12種類、「RETN遺伝子」に8種類、「IL6遺伝子」に4種類という内訳でした。さらに、最も怪しいと考えられる5ヶ所を精査したところ、「TNF遺伝子」に含まれる2ヶ所が犬の肥満度と関連していたとのこと。
 こうした結果から研究チームは、アディポカイン遺伝子には豊富な多型が存在しており、中でもTNF遺伝子内に含まれる2ヶ所(c.-40A>C/c.233+14G>A)が、ラブラドールレトリバーの太りやすさに関する予見因子になっているとの結論に至りました。 Sequence analysis of three canine adipokine genes revealed an association between TNF polymorphisms and obesity in Labrador dogs ラブラドールレトリバーの太りやすさには「TNF遺伝子」が関わっている

イギリスの調査

 調査を行ったのは、イギリス・ケンブリッジ大学代謝科学研究所のチーム。チームは肥満体型のラブラドールレトリバー15頭と、通常体型のラブラドールレトリバー18頭を対象とした遺伝子調査を行い、肥満体型グループにおいて「POMC遺伝子」(pro-opiomelanocortin/プロオピオメラノコルチン)に変異があることを見出しました。その後、310頭のラブラドールレトリバーを対象とした別の調査を行った所、遺伝子に変異があるおよそ4分の1の個体では、「食べ物に対する執着心が強い」、「飼い主にすぐおねだりする」、「食べ残しを漁る」といった行動を頻繁に見せる傾向があり、平均して2kgも体重が重かったとのこと。さらにイギリスとアメリカに暮らす411頭の犬を対象として行った調査では、およそ23%で「POMC遺伝子」の変異が見つかり、それらは全てラブラドールレトリバーと、犬種の作出過程でラブラドールレトリバーの血統が用いられたフラットコーテドレトリバーでのみ見出されたそうです。
 こうしたデータから研究チームは、「POMC遺伝子」の変異が「β-MSH」や「β-エンドルフィン」の生成を阻害して食後の満腹感が生じにくくなり、結果として肥満につながっているという可能性を突き止めました。また補助犬に合格した81頭のラブラドールレトリバーにおける変異率が76%という異常な高率だった理由は、「遺伝子に変異を持った個体はご褒美に対する執着が強く、訓練性が高まったからではないか」と推測しています。 A Deletion in the Canine POMC Gene Is Associated with Weight and Appetite in Obesity-Prone Labrador Retriever Dogs ラブラドールレトリバーの太りやすさには「POMC遺伝子」が関わっている

解説

 ラブラドールレトリバーは食いしん坊として有名ですが、その背景には遺伝子の変異と言う科学的な根拠があるようです。かつて旅番組で人気を博した「まさお君」もラブラドールレトリバーでした。彼の死因は胃捻転でしたが、早食いやドカ食いをする姿が面白いからといって、それを放置してしまうのは感心できません。この犬種を飼われている方は、「TNF遺伝子」や「POMC遺伝子」によって先天的に太りやすい素地を持っているという自覚を持ち、犬が肥満に陥らないよう、とりわけ注意深く食事管理をしていく必要があります。 犬のダイエット 犬の肥満