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犬と狼の社交性の違いは愛情ホルモンのせい?

 「愛情ホルモン」という異名を持つオキシトシンの受容器に関し、犬と狼とでは決定的な違いがある可能性が示されました(2016.5.30/日本)。

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 「オキシトシン」とは体内を循環して感情や行動を微調整するホルモンの一種で、「母性行動の促進」、「社交性の強化」、「不安の軽減」といった多様な生理作用を有しています。マウスを用いた調査では、オキシトシン受容器を機能しなくすると仲間の顔を認識できなくなるといった現象が観察されていたり、ハタネズミを用いた調査では、メスがパートナーとなるオスを選ぶときに決定的に重要な役割を果たすといった現象が観察されています。さらに人間においても、オキシトシン受容器のバリエーションがストレスに対する反応や愛着行動に影響を及ぼすのではないかという仮説が提唱されています。
 麻布大学の研究チームは、上記「オキシトシン受容器」の変化が犬の家畜化過程で大きな役割を担ったのではないかという仮説を検証するため、犬と狼を対象とした大規模なDNA調査を行いました。チームは日本国内から集められた228頭の犬と5頭の狼の遺伝子解析を行い、オキシトシン受容器のバリエーション形成に関わっていると考えられる5ヶ所に狙いを定め、犬と狼との間でどのような違いが見られるかを精査しました。その結果「rs8679682」と「rs22896457」と呼ばれる部位において、最も大きな違いが観察されたといいます。
犬と狼のSNPの違い
  • rs8679682 狼における「CC」という遺伝子型は80%に達するが、犬では小型テリア(33%)とマスティフタイプ(60%)を除いて極めて低い割合(2~19%)にとどまっている。犬を家畜化する過程において、「CC」という遺伝子型を減らすような選択圧がかかった可能性がある。
  • rs22896457 狼における「C」の出現頻度は40%に達するが、小型テリア(17%)とマスティフタイプ(20%)を除いた犬ではほぼ0%である。犬を家畜化する過程において、「C」(シトシン)が加わる遺伝子型を減らすような選択圧がかかった可能性がある。
 こうした結果から研究チームは、犬の家畜化過程で「見知らぬ人間に近づく友好性」といった行動特性を選択基準に入れた結果、オキシトシン受容器の遺伝子型に解離が生まれ、長い時間をかけて固定化されていったのではないかとの推論を展開しています。ただし今のところ、具体的に遺伝子がどのようなメカニズムを介して犬の特性を生み出しているのかに関しては未知の部分が多いとのこと。 オキシトシンが絆を作る? 犬は小型の狼である? The Frequency Variations of the Oxytocin Receptor Gene Polymorphisms among Dog Breeds(麻布大学雑誌vol.27, 2015) 犬とオオカミとの間に見られる気質の違いは、オキシトシンレセプターの違いで説明できるかもしれない