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犬本来の免疫力でガンに対抗する「免疫チェックポイント阻害療法」

 外科手術や抗癌剤とは違い、犬が持つ本来の免疫力を回復することで間接的にガン細胞を駆逐する「免疫チェックポイント阻害療法」が注目を集めています(2016.6.29/日本)。

詳細

 「免疫チェックポイント阻害療法」を理解するために必要な基礎知識は以下です。
基礎知識
  • PD-1正式名称は「Programmed death-1」。免疫応答を調節するタンパク質の一種で、T細胞、B細胞、ミエロイド細胞、胸腺細胞といった免疫細胞の上で受容体として発現する。
  • リガンドある受容体の中の特定の部位(リガンド結合サイト)に特異的に結合する物質の総称。
  • PD-L免疫T細胞上のPD-1受容体に特異的に結合するリガンドで、「PD-L1」(PD-1 ligand 1)と「PD-L2」(PD-1 ligand 2)がある。「PD-L2」がマクロファージや樹枝状細胞に発現するのに対し、「PD-L1」は腫瘍細胞に発現する。
  • ガン発生メカニズム異物を除去するT細胞上のPD-1受容体に、腫瘍細胞上のPD-L1が結合すると、免疫反応が抑制される。その結果、ガン細胞が体内から除去されず、増殖を繰り返して悪性腫瘍(ガン)となる。
  • 抗PD-1抗体T細胞上のPD-1受容体といち早く結合し、腫瘍細胞のPD-L1やPD-L2と競合する。結果として、T細胞が本来の免疫機能を発揮し、腫瘍細胞を除去してくれるようになる。
 要するに「免疫チェックポイント阻害療法」とは、T細胞上のPD-1受容体と、腫瘍細胞上のPD-L1が結合することを阻害し、生体が本来持っている免疫力を最大限に発揮させてガンの増殖を抑えこむ治療法のことです。人医学の領域では数年前から試験が開始され、世界中の製薬会社がしのぎを削りながら「抗PD-1抗体」や「抗PD-L1抗体」の開発に取り組んでいます。
 北海道大学・病院感染制御部を中心とした調査チームは、人医学の領域で研究が進んでいる上記「免疫チェックポイント阻害療法」を犬に適用することもできるはずだという仮説を検証するため、病理診断のためラボに送られてきた合計110の細胞サンプルを精査しました。その結果、腫瘍細胞のPD-L1(結合する方の部位)発現率に関して以下のようなデータが得られたといいます。
腫瘍のPD-L1発現率
  • 口腔悪性黒色腫=90%
  • 乳腺腫=80%
  • 骨肉腫=70%
  • 血管肉種=60%
  • 肥満細胞腫=60%
  • 前立腺種=60%
PD-L1の発現率は腫瘍の種類によって異なる  一方、口腔悪性黒色腫から採取したリンパ細胞のうち、PD-1(結合される方の部位)が発現していた割合は、CD4陽性T細胞が「80.2~96.8%」、CD8陽性T細胞が「70.9~96.6%」だったとも。
 こうした事実から調査チームは、PD-L1の発現率が高く、免疫による妨害をすり抜けて転移しやすい悪性黒色腫や乳腺腫のような質(たち)の悪いガンに対し、「免疫チェックポイント阻害療法」は新たな治療法として活躍してくれるだろうとしています。 犬の口腔ガン(悪性黒色腫) 犬の乳ガン Immunohistochemical Analysis of PD-L1 Expression in Canine Malignant Cancers and PD-1 Expression on Lymphocytes in Canine Oral Melanoma

解説

 現在、世界中の製薬会社が躍起になって開発している免疫チェックポイント阻害剤には、以下のようなものがあります。
免疫チェックポイント阻害剤
  • 米Merck社抗PD-1抗体「MK-3475」。ターゲットは主として悪性黒色腫(→出典)。
  • 米Bristol-Myers Squibb社抗PD-1抗体「nivolumab」(Opdivo®)。ターゲットは主として悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌(→出典)。
  • 米CureTech社抗PD-1抗体「CT-011」(Pidilizumab)。ターゲットは主として転移性大腸・直腸癌、悪性黒色腫(→出典)。
 上記したような免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1発現率が高い悪性黒色腫(メラノーマ)、骨肉腫、血管肉腫、肥満細胞腫、乳腺腫、前立腺腫にはある程度の効果を示すものと予測されます。しかしその一方、今回の調査でPD-L1発現率がゼロであると判明した扁平上皮ガン、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、鼻腔ガン、軟部肉腫、組織球肉腫といった悪性腫瘍に対しては、阻害剤がターゲットとしているPD-L1自体が存在していないため、薬効を示さないと考えられます。ですから決して万能薬というわけではありません。 犬のガンについて 犬の悪性黒色腫(メラノーマ)に対する免疫療法が実用化に向けて一歩前進