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犬の口腔ガン~症状・原因から予防・治療法まで

 犬の口腔ガン(こうくうがん)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の口腔ガンの病態と症状

 犬の口腔ガンとは、口の中からあごにかけて発生したガンのことを言います。 犬のガンの種類~扁平上皮ガン・メラノーマ・線維肉腫  皮膚を構成しているどの細胞がガン化するかによって、適宜呼び方が変わります。具体的には、「扁平上皮細胞→扁平上皮ガン」、「メラニン細胞→メラノーマ」、「線維芽細胞→線維肉腫」などです。しかし全て、無規律な増殖、浸潤、転移を特徴とした悪性腫瘍であることに変わりはありません。
 犬の口腔内に発生するガンとして多いのは、主に以下の3つです。どのタイプでも、食べるのが遅い・口臭が悪化する・よだれが多い・口から出血しているといった初期症状から始まります。
犬の口腔ガンの主症状
  • 悪性黒色腫  悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)は「メラノーマ」とも呼ばれ、口腔の粘膜や舌に発生します。口の中に急速に広がる黒い染みのような病変が特徴です。潰瘍や壊死を引き起こすこともあり、約80%ではリンパ節への転移が見られます。好発年齢は10歳以上です。
  • 扁平上皮ガン  扁平上皮ガン(へんぺいじょうひがん)は、数週間という短期間で歯肉や舌にただれや潰瘍を引き起こします。口先に近いほど転移率は低く、経過が良好だと言われていますが、口の奥に発生したものの多くはリンパ節や肺へ転移してしまいます。好発年齢は10.5歳で、中~大型犬に多いとされます。
  • 線維肉腫  線維肉腫(せんいにくしゅ)は、主に歯茎にできるしこりのような腫瘍で、1ヶ月ほどで急速に大きくなるのが特徴です。転移は多くないものの、骨への浸潤性が強いとされています。好発年齢は7.6歳で、中~大型犬のオスにやや多いとされます。
犬の口腔ガン
 なお、口の中にできる良性の腫瘍としては、「エプーリス」、「ウイルス性乳頭腫」、「エナメル芽細胞腫」などがあります。この中でも特によく見かけるのが「エプーリス」です。
 「エプーリス」とは「歯肉の表面」という意味で、歯に付着している結合組織が腫瘍化したものを指します。口腔内の腫瘤、よだれの増加、口臭の悪化、物を飲み込みにくい、歯列の変化といった、悪性腫瘍とよく似た症状を引き起こしますが、ガンのように転移はしません。7歳以上の短頭種に多く、「線維性」、「棘細胞性」、「骨形成性」の3種類に分類されます。
エプーリスの種類
  • 線維性 「線維性」とは歯周靭帯が腫瘍化したものです。付着している歯と歯槽骨の切除が必要になることもあります。
  • 棘細胞性 「棘細胞性」とは、皮膚を構成している細胞層の内、「有棘細胞」が腫瘍化したものです。慣習的にエプーリスに分類されていますが、近年は「エナメル上皮腫」の一種と考え、「棘細胞性エナメル上皮腫」と呼ばれることもあります。いずれにしてもガン化しやすいため、腫瘍の周囲2cmくらいを根こそぎ切り取ってしまいます。また下顎・上顎の部分切除が必要となることもしばしばです。ボクサー犬の口内に発生した線維性のエプーリス
  • 骨形成性 「骨形成性」とは顎の骨が腫瘍化したものです。内部に骨に似た組織を含みます。線維性に比べると切除が困難です。

犬の口腔ガンの原因

 犬の口腔ガンの原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の口腔ガンの主な原因
  • 口腔内の衛生(?)  人間の口腔ガンは、タバコ、アルコール、口腔内の不衛生、虫歯や入れ歯、反復的な噛み傷などが危険因子とされています。犬に関してはタバコとアルコールはないでしょうが、口の中のケアを余りにも怠ると細胞がガン化する可能性を高めてしまうかもしれません。
  • 不明 犬の口腔がんを引き起こす要因は、多くの場合不明です。

犬の口腔ガンの治療

 犬の口腔ガンの治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の口腔ガンの主な治療法
  • 手術療法  ガンが小さく、犬に体力がある場合は、外科手術によってがん細胞を除去してしまいます。
     扁平上皮ガンの場合、口先に出来た腫瘍を完全に切除することができれば予後は良好とされます。線維肉腫の場合、骨への浸潤性が強いため、腫瘍ができた側の顎を丸ごと切除することもあります。悪性黒色腫(メラノーマ)の場合、腫瘍が小さいうちに切除できれば予後は良しとされますが、処置が遅れて他の臓器に転移してからでは、長い余命を期待できません。仮に顎ごと切除しても、1年生きていられるかどうかです。
  • 化学療法・薬物療法  ガンが進行しており、犬に体力がない場合は手術療法が見送られ、抗がん剤治療などが施されます。
  • 放射線療法 特に扁平上皮ガンでは、放射線療法への感受性が高いとされています。
  • 免疫療法 近年注目されている最新の治療法としては「免疫チェックポイント阻害療法」があります。これは特殊な薬剤を静脈から注射することにより、犬が持っている免疫力を最大限に高めて自力で腫瘍細胞を駆逐させる治療法のことです。2017年の臨床試験では口腔悪性黒色腫と未分化肉腫に対し、それぞれ14.3%と50%の確率で奏功したと報告されています。まだ発展途上の治療法ですが、全身に対して効果があることと副作用が比較的少ないことなどから、今後大いに発展する分野だと考えられます。