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古いシャンプーボトルが原因の「グルーミング後せつ症」

 古いシャンプーボトルの中で繁殖した緑膿菌が原因と考えられる皮膚病の症例が報告されました(2016.6.22/アメリカ)。

詳細

 2歳になるジャーマンシェパードミックス(メス・避妊手術済)に関する報告を行ったのはアメリカ・ノースカロライナ州立大学の獣医科学チーム。飼い主によると、倦怠感や食欲不振といった全身症状が入浴後24時間以内に現れ始め、それに続発する形で背中、胸部側面、臀部に広がる有痛の皮膚病変が出現したといいます。 シャンプーボトルの中で繁殖した緑膿菌が原因と考えられる「せつ症」  入浴は、薬用では無い市販のシャンプーを用いた自宅入浴で、7ヶ月前に購入した古いシャンプーの残りと、最近買った同じブランドの新しいシャンプーを合わせて使用したとのこと。洗浄は手で軽く皮膚をこする程度で、シャンプー前後におけるブラッシングは行わなかったそうです。
 検査のため、挫創膿疱と新旧2つのシャンプーボトルをラボに送ったところ、皮膚の病変部と古いボトルから同じ系統の緑膿菌が検出され、薬剤に対する感受性も一致していたという結果が返ってきました。様々な所見から考慮し、下された診断名は「グルーミング後せつ症」。治療としてはシプロフロキサシン(29mg/kg)の1日1回経口投与と、クロルヘキシジン3%シャンプーを用いた週一の薬浴が採用され、8週間で完全に治癒したそうです。
 研究チームは、他の感染源としてブラシ、浴槽、水道の蛇口、汚染水、土壌といった可能性がある点は否定できないものの、恐らく古いシャンプーボトルの中で繁殖した緑膿菌が犬の皮膚上で繁殖し、広範囲に渡って炎症を引き起こしたものと推定しました。シャンプーの衛生管理法としては、「あまりにも古いものは捨てる」、「常に密閉されていることを確認する」、「希釈したシャンプーを長時間放置しない」などを挙げています。 犬のシャンプー Molecular confirmation of shampoo as the putative source of Pseudomonas aeruginosa-induced postgrooming furunculosis in a dog

解説

 緑膿菌とは、環境中に広く分布しているシュードモナス属の一種です。病原性は弱く、仮に感染したとしても、宿主の免疫力が正常であれば何ら問題はありません。しかし宿主の免疫力が低下し、菌の増殖力に打ち勝てなくなってしまうと、様々な症状を招いて「日和見(ひよりみ)感染症」を引き起こしてしまいます。今回報告されたジャーマンシェパードミックスの症例も、犬の免疫力が通常よりも低下していたのでしょう。免疫力低下の一般的な原因としては、若齢や老齢、基礎疾患、糖質コルチコイドや免疫抑制剤の投与、ストレスなどが挙げられます。
 緑膿菌が引き起こす問題としては、上記「日和見感染症」のほか「多剤耐性獲得」があります。これは、ある特定の抗菌剤に対して抵抗力を獲得してしまう現象のことで、中には消毒液の中で生息し続ける系統もありますので厄介です。今回報告された症例では、長期間放置されたシャンプーの中で緑膿菌がじわじわと増え続けていたのだと推測されます。 プールや温泉といった施設でよく発生する温泉毛嚢炎  長時間水が停滞しやすいプールや温泉といった施設でよく発生する「温泉毛嚢炎」患者を対象とした調査では、感染リスクを高める要因が「バクテリアの濃度」、「暴露されていた時間」、「皮膚の水分過剰」、「外傷」などであるとしています。このデータを参考にすると、入浴に伴って発生する犬の「グルーミング後せつ症」を予防するためには、以下のような点に注意する必要があると思われます。
せつ症予防法
  • あまりにも古いシャンプーは捨てる
  • シャンプー容器が密閉されていることを確認する
  • 希釈したシャンプーを長時間放置しない
  • 被毛はすぐに乾かす
  • 入浴前に擦り傷の有無をよく確認する
  • 犬の免疫力を落とさない
 緑膿菌による症例はそれほど多くありませんが、日本では2009年、通常の抗菌剤に対して抵抗力を持った多剤耐性緑膿菌による慢性外耳炎の症例が報告されています(→出典)。一言で緑膿菌といっても、その中に含まれる系統は数百に及びますので、ある特定の薬剤に対して抵抗力を持った特異体質の菌はどうしても生まれてしまいます。こうした菌に対して通常の抗菌剤を使っても効果がなく、症状が慢性化してしまいますので要注意です。