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ブタの唾液に含まれるフェロモン「アンドロステノン」が犬の引っ張り予防に有効?

 ブタの唾液に含まれるフェロモンが、犬の問題行動をしつける際に役立ってくれるかもしれません(2016.7.8/アメリカ)。

詳細

 動物の体から外界に発散され、他の個体の行動を変容させる微量物質は一般的にフェロモンと呼ばれますが、動物種を超えて作用するものは特に「インテロモン」(interomone)と呼ばれます。犬に作用するインテロモンとしては、ブタの唾液に含まれる「アンドロステノン」(androstenone)と呼ばれる物質が有名で、2014年に行われた調査では無駄吠えの抑制に効果があったとの結果が報告されています(→出典)。 オス豚の唾液中には「アンドロステノン」と呼ばれるインテロモンが含まれている  アメリカにあるテキサス・テック大学の動物食品科学部チームは、上記した「アンドロステノン」の効果が本物であるかどうかを確かめるため、「リードを引っ張る」、「人間に飛びつく」という2つの問題行動と、以下に示す4つのしつけ用品を用いた検証実験を行いました。
  • 水鉄砲のように犬に水を直射する。霧状にしない。
  • アンドロ水水にアンドロステノン(1.0μg/mL)を混ぜたものを水鉄砲のように直射する。霧状にしない。
  • スプレー1「InteroSTOP」という名で市販されている商品。0.1μg/mLのアンドロステノンを含んでおり、「シュッ!」という大きな音とともに霧状に散布される。犬から30~45cm離して使用する(→動画)。
  • スプレー2「Stop That!」という名で市販されている商品。1.0μg/mLのアンドロステノンを含んでおり、「シュッ!」という大きな音とともに霧状に散布される。犬から30~45cm離して使用する(→動画)。
リード引きへの効果
 各しつけ用品の被験犬として10頭ずつを振り分け、「何の介入もしないで犬の散歩をした時の引っ張り回数」と「しつけ用品で介入しながら散歩した時の引っ張り回数」を比較しました。介入したことによって目減りした引っ張り行動の割合は以下で、数値が大きいほど「効果があった」ことを意味しています。 アンドロステノンを成分として含んだしつけ用品による「リード引き」への効果  「水」(32.8%)と「アンドロ水」(81.1%)に大きな開きが見られたことから、アンドロステノンには単純計算で両者の格差に当たる48.3%程度の問題行動減衰効果があると推定されました。一方、「アンドロ水」(81.1%)と「スプレー1」(71.9%)および「スプレー2」(85.7%)の格差が著明ではなかったことから、スプレーに含まれる「シュッ!」というノイズには、それほど問題行動を減衰する効果がないとも。
飛びつきへの効果
 各しつけ用品の被験犬として10頭ずつを振り分け、「何の介入もしなかった時の飛びつき回数」と「しつけ用品で介入した時の飛びつき回数」を比較しました。介入したことによって目減りした飛びつき行動の割合は以下で、数値が大きいほど「効果があった」ことを意味しています。 アンドロステノンを成分として含んだしつけ用品による「飛びつき」への効果  上記したように、しつけ用品間で大きな開きは観察されませんでした。この原因としては、水にしてもスプレーにしても、犬の顔面に正面から噴射するという状況が多かったため、その分、行動抑制効果が高まったからではないかと推測されています。また2つの飛びつき行動のインターバルを計測したところ、「アンドロ水」が350.3%増、「スプレー1」が535.1%増、「スプレー2」が352.3%増という結果になったといいます。
 こうしたデータから調査チームは、「リードの引っ張り」という問題行動に対してはアンドロステノンを含んだ市販のスプレーがある程度の効果を発揮する一方、「人間への飛びつき」という問題行動に対しては、行動のインターバルを伸ばすという点以外、特筆すべき効果がないとの結論に至りました。また、飛びつき行動に関する実験で、「水」と「アンドロ水」では10%の犬が忌避反応を示したのに対し、「スプレー1」と「スプレー2」では40%もの犬が忌避反応を示したという事実から、犬の顔面に向かって「シュッ!」という大きな音を出す行為は、犬の恐怖反応を高めてしまう危険性があるため、基本的には使用を控えた方が良いとも。 Impact of Androstenone on Leash Pulling and Jumping Up in Dogs

解説

 「リードを引っ張る」や「人間に飛びつく」といった問題行動は、犬が大型犬である場合、大問題に発展する危険性をはらんでいます。例えば散歩中、通りがかった自転車に興奮した犬が、飼い主の制止を振り切って飛びつき、相手に怪我をさせてしまうなどです。実際に2016年、自転車に乗っていた母娘に骨折を含む大けがをさせたということで、過失のあった犬の飼い主に300万円の支払い命令が下ったと言う判例も大阪で出ています。また首元に対する過剰な負荷は、気管の損傷や血圧上昇に伴う眼球突出など、犬の健康を損なってしまうことがあり、大変危険です。犬の問題行動にはこうした複数の爆弾が潜んでいますので、飼い主はなるべく早い段階でしつけを完了しておく必要があります。 散歩中のリード引きは危険かつ健康に悪い  今回の調査では、アンドロステノンを含んだスプレーに引っ張り予防効果があることが示されました。しかしこの方法は「犬が引っ張った瞬間に噴射する」など、飼い主の側にもある程度の技術が要求されるという難点を併せ持っています。またそもそも日本国内ではまだ商品として流通していません。ですから、散歩中の犬にリードを引っ張らせないようにするリーダーウォークのしつけを、「ブタの唾液」に一任してしまうのはあまり現実的とは言えないでしょう。現実的なしつけ方に関しては、以下のページにまとめてありますので、まだマスターしていない方はご参照ください。 犬のリーダーウォークのしつけ 犬の飛びつく癖をしつけ直す