トップ2016年・犬ニュース一覧7月の犬ニュース7月21日

飼い主の匂いや声は犬の分離不安を緩和する

 分離不安を抱えた犬を対象とした調査により、飼い主の匂いや声を室内に残してあげると、犬のストレスレベルが低く抑えられるという事実が明らかになりました(2016.7.21/韓国)。

詳細

 調査を行ったのは、韓国・ソウル大学校獣医学部のチーム。飼い主に対するアンケート調査から分離不安と診断された28頭(オス10頭とメス18頭 | 平均体重4.74kg | 平均年齢4.47歳)のペット犬を対象とし、飼い主の匂いや声がどの程度のリラクゼーション効果を示すのかが検証されました。犬たちはまず、体重、年齢、飼われ始めてからの期間にばらつきが出ないよう、以下に示す3つのグループに分けられました。
分離不安犬のグループ分け
  • グループ1(10頭)匂いも音も与えられない対照群。
  • グループ2(9頭)飼い主の匂いが染み付いたTシャツを与えられる。飼い主は調査の1週間前からそのTシャツを身につけ、洗濯してはいけない。
  • グループ3(9頭)飼い主が本を朗読する声が流れている。飼い主は調査の1週間前から、寝る前に10分間犬に対して朗読をするという下準備をしておく。
 次に、犬に馴染みのない調査用の部屋(3.5m×3.7m)が用意され、以下のタイミングで犬の唾液が採取されました。これは唾液中に含まれるホルモンの一種「コルチゾール」を計測することで、犬のストレスレベルを小刻みにモニタリングするためです。
コルチゾール計測手順
  • 飼い主が犬を連れて入室し、犬は5分間自由に室内を探索する
  • 飼い主だけが退出し唾液を採取(PRE)
  • 5分間隔で合計4回唾液を採取(SP1~4)
  • SP4の後、飼い主が再入室して5分間犬をかまってあげる
  • その直後、最後の唾液サンプルを採取する(POST)
 「PRE」、「SP1~4」、「POST」における唾液中のコルチゾールレベルを計測した結果、何も与えられていなかった「グループ1」においてのみ別離直後のストレスレベル急上昇が観察されたと言います。また別離直後の「SP1」と再会直後の「POST」の格差を比較した所、「グループ1」が著明に大きかったとも。 飼い主の匂いや声には、別離直後のストレスレベル急増を緩和する効果がある  こうしたデータから調査チームは、飼い主の匂いや声には、別離に伴う犬のストレスレベルを幾分か軽減する効果があるとの結論に至りました。ただし「極端な不安行動を示す犬は事前に除外されている」、「分離不安の重症度が統一されていない」、「分離期間が20分間と短い」といった制限があるため、今回得られた知見をすべての犬に適用するのは早計であるとしています。 Evaluation of effects of olfactory and auditory stimulation on separation anxiety by salivary cortisol measurement in dogs
Yoon-Joo Shin, Nam-Shik Shin(2016)

解説

 1991年から2001年までの間、コーネル大学の問題行動クリニックに来院した1644頭の犬を対象とした調査では、14.4%の犬が分離不安を問題として抱えていたといいます。またカナダ、アメリカ、オーストラリアでは、分離不安が犬の問題行動のうち3番目に多く、時として飼育放棄の原因になるとのこと。飼育放棄の背景には、留守番中の無駄吠えとそれに対する近隣からの苦情、不適切な場所での排泄、自傷行動や破壊行動などがあるものと推測されます。 留守番中の犬の問題行動は飼育放棄の原因になりうる  今回の調査で得られた知見を応用すれば、分離不安に伴う様々な問題行動と、その結果としての最悪の事態を避けることができるかもしれません。犬が一緒にいて安心できる人物の匂いがついた衣類や、事前に録音しておいた声を留守番中の犬に与えておけば、少なくとも別離直後に特有のコルチゾールサージ(ストレスレベルの急上昇)を防ぐことはできそうです。長時間に及ぶ留守番のしつけに関しては以下のページでもまとめてありますのでご参照ください。 犬の留守番のしつけ