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犬ぞりレース中の怪我は上肢に集中している

 犬ぞりレースにおいて途中棄権を余儀なくされた犬を対象とした調査により、脱落の原因となる怪我は圧倒的に前足に偏っているという事実が判明しました(2016.2.17/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカの複数の大学からなる共同研究チーム。2011年に開催された伝統的犬ぞりレース「アイディタロッド」に参加した54チーム861頭のそり犬を対象とし、整形外科的な怪我を誘発するリスクファクターが何であるかを検証しました。脱落犬は全体の38.3%に当たる330頭で、その内の半分強(50.6%)では整形外科的な怪我が原因だったといいます。怪我の具体的な発生頻度は以下です。
怪我の部位別発生頻度
そり犬に多い整形外科的な怪我の部位別発生頻度
  • 肩周り=101頭(30.6%)
  • 手根部=42頭(12.7%)
  • 下肢関節=15頭(4.5%)
  • 下肢筋=9頭(2.8%)
 このように、「上肢=43.3%」、「下肢=7.3%」と圧倒的に前足から肩にかけての怪我が多いことが明らかになりました。さらにマッシャー(そりを操る人)に対するアンケート調査やチェックポイントにおける医療記録、GPSによって得られた移動速度などから外傷発生のリスクを検討したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
そり犬の怪我因子
  • スピードが増すほど肩の怪我は少なくなる
  • 手根部の外傷は走行距離が長くなればなるほど増える
  • 脱落するリスクは参加回数が増えるほど少なくなる
  • 脱落するリスクは年齢が上がるほど少なくなる
 当調査では「スピードが上がるほど肩の怪我をしにくい」という逆説的な現象が見出されました。この事実に関して研究チームは、「平坦でない道をゆっくり進んでいるとき、上肢に負荷がかかって怪我をしやすい」とか、「スピードが上がると体重が下肢にうまく分散して上肢の負荷が減る」などの仮説を提唱しています。 A survey on orthopedic injuries during a marathon sled dog race

解説

 2016年に行われた調査によると、犬は歩くときそもそも前足に体重がかかりやすいことが示されています。この調査では、中型犬15頭(9ヶ月~8歳/平均体重22.3kg)と小型犬14頭(1歳から6歳/平均体重6.5kg)を秒速0.9~1.1mになるように歩かせ、四肢の体重分圧が測定されました。その結果、どちらのグループでも「上肢60% : 下肢40%」という体重分圧になったといいます。二足歩行の人間からは想像しにくいですが、四足歩行の動物では下半身よりも上半身に負荷がかかっているようです。そり犬たちの怪我が手~肩にかけて集中していたのもうなづけます。
 アジリティ競技においては、肩の外傷は素早いターンや急な方向転換、あるいは滑りやすい地面などと関連しているとされています。普通のペット犬が犬ぞりレースで怪我をする心配はないでしょうが、ドッグランなどではスリッピーな場所がないかどうかをよくチェックした方がよさそうです。 犬が捻挫した 犬ぞりについて Kinetic and temporospatial gait parameters in a heterogeneous group of dogs