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ペットショップにおけるジアルジア原虫感染率が判明

 子犬に感染する寄生虫の内で最も頻繁に見られる「ジアルジア」のペットショップ内での感染率は、以前と変わらずかなり高い値をキープしているという可能性が示されました(2016.4.15/日本)。

詳細

 ジアルジア症は、原虫の一種であるランブル鞭毛虫 (giardia lamblia) が感染することで発症する寄生虫症の一種です。感染経路は、原虫の未成熟な状態である「シスト」(cyst)に汚染された糞便や食物を口にする経口感染で、7日~10日の潜伏期間を経て水~泥様の下痢、腹痛、吐き気、食欲不振、脱水といった症状を示します。 ジアルジア症を引き起こす原虫「ランブル鞭毛虫」 (giardia lamblia)  北里大学獣医学部小動物内科学研究室の調査チームは、東北地方にある4ヶ所のペットショップで2008年と2013年におけるジアルジアの感染率を比較し、2015年の「動物臨床医学24」(P32~34)内でその結果を報告しました。チームがペットショップで飼育されている3ヶ月齢以下の子犬から無作為で糞便を採取して感染率をデータ化したところ、2008年が24.8%(162/654)、2013年が29.5%(177/600)となり、5年間でほぼ変わっていないという事実が明らかになったといいます。 東北地方のペットショップにおける2008年と2013年のジアルジアの感染率比較グラフ  調査チームが当初立てていた予測は、「2011年にジアルジアの簡易検出キット(スナップ・ジアルジア®)が発売されたし、ペットショップ管理者に感染率を伝えたのだから、何らかの改善策をとって2013年度は劇的に改善しているだろう」というものでした。しかし実際は、激減するどころか逆にどの店舗でも微増しているという結果になりました。こうした現象が起こった理由について研究チームは以下のような推論を展開しています。
ジアルジア症・なぜ減らない?
  • 検出キットが高価
  • 不顕性感染例が多いため治療を免れている
  • 便中へのジアルジア虫体や抗原の排泄は不定期で完璧な診断が不可能
  • 抗原変異を起こして宿主の免疫から逃れ、再感染が頻繁に生じる
  • シストは環境中で長期間生き延びる
  • 100%効果的な治療薬や消毒薬がない
 ジアルジアの一部は人獣共通感染性で人間にも感染する危険性があることから、調査チームは徹底した検査と駆虫を繰り返し、感染犬から排泄された糞便を迅速に処理することが必要であると強調しています。 ペットショップの子犬における2008年と2013年のジアルジア感染状況の比較

解説

 2004年、「日獣会誌57」(P579~582)で報告された「子犬におけるELISAによるジアルジア抗原の検出状況」によると、一般家庭由来の子犬におけるジアルジア抗原陽性率が「3.2%」(3/93)だったのに対し、ペットショップやブリーダー由来のそれは「29.8%」(79/265)だったといいます(→出典)。この大きな開きについて、報告を行った獣医師は「施設内における密飼いでジアルジアの集団感染が起こったのではないか」と推測しています。またこの推測は、「ペットショップやブリーダー経由で購入されやすい小型犬種の陽性率が高い」という事実と符合するとも。
 また2010年、「動物臨床医学19」(P41~49)で報告された「日本全国の一般家庭で飼育されている犬および猫における消化管内寄生虫の調査」によると、日本全国20都道府県37ヶ所の動物病院に来院した150頭の犬(1~6ヶ月齢)のうち、一般個人経由のジアルジア検出率が「3.2%」(1/31)だったのに対し、ペットショップ・繁殖施設経由のそれは「43.4%」(49/113)だったといいます(→出典)。こうした格差が生まれた理由は「ペットショップや繁殖施設のような限られた空間における犬の集団飼育では、シストの経口摂取によるジアルジアの伝播が容易に生じるからではないか」とのこと。 繁殖犬の密飼いがジアルジア感染の温床か?  すべての調査に共通して言えることは、ペットショップやブリーダー経由の6ヶ月齢未満の子犬におけるジアルジア感染率は、時として30%を超えるということです。報告内で推測されているように「限られた空間内における密飼い」が原因なのだとすると、感染犬と非感染犬がごたまぜになり、シストを含んだ糞便が処理されないまま床に放置され、子犬がそれを食べてしまうというおぞましい状況を想定せざるを得ません。
 ペットショップやブリーダー管理者は本来、繁殖用の成犬と生まれてきた子犬の糞便を定期的に検査してジアルジア感染の早期発見に努め、シストを排除するため飼育ケージや運動場を定期的に熱湯消毒する義務があります。こうした施設を訪れた際は「寄生虫予防のため何をしていますか?」と聞いてみると、その店やブリーダーのクオリティが見えてくるのではないでしょうか。 犬のジアルジア症 犬の入手方法