トップ2022年・犬ニュース一覧8月の犬ニュース8月1日

蛍光灯のフリッカー(高速点滅)が犬に与える悪影響~照明をLEDに切り替えたほうが良い理由

 蛍光灯が発する高速点滅(フリッカー)が人間の健康に悪影響を及ぼしうることは広く知られています。では生活環境を共有している犬にも同様の被害はあるのでしょうか?

蛍光灯のフリッカーと犬の健康

 ニューヨークにあるハンター大学は2020年7月から8月の期間、ニューヨーク市営動物ケアセンター(ACC)のマンハッタン支部に収容された保護犬54頭(平均3.7歳/26kg)を対象とし、フリッカー(高速点滅)を有する蛍光灯とフリッカーフリーのLEDライトを用いた行動観察を行いました。

実験方法

 保護施設内では蛍光灯を取り付けた部屋とLEDを取り付けた部屋が別々に用意され、照明以外の環境条件はほぼ同一に調整されました。犬たちをランダムでグループ分けした結果が以下です。
蛍光灯 vs LED
  • 蛍光灯グループ被験犬:20頭/平均3.8歳/平均25.4kg
    照明:フリッカー率50.2%/色温度4751K/照度36FC
  • LEDグループ被験犬:34頭/平均3.64歳/平均26.3kg
    照明:フリッカーフリー(フリッカー率6.3%)以外は蛍光灯と同等のスペック
 7月の2週間と8月の1週間、午前6時~午後10時(昼寝時間の午後3~4時を除く)の時間帯で室内照明が行われました。また点灯時間中および昼寝時間中は犬のリラクゼーションを促進するとされるBGMが流されました。
 毎日午前8~9時の間に13の録画サンプル(平均15.3秒)を撮り、照明区分を知らない8名の評価者が事前に取り決めておいたエソグラム(ストレス | 非ストレス | 中立)に従って合計2,200の映像サンプルを評価し、最終的にそのうち1,435(蛍光605+LED830)が比較解析に回されました。1頭に換算すると平均26.6(2~73)サンプルで、両グループ間の映像の長さと数、個体の年齢、体重、性別、手術ステータスは同等です。

実験結果

 各々の照明下で犬たちが見せた行動を解析したところ、ストレススコアと年齢、不妊手術ステータス、人工照明のオンオフ、室内における人の有無とは無関係であることが判明しました。
 また記録映像の5%超を占める行動を対象とし、データの重複を減らして相互に依存的な複数の変数を解析する際に用いられる「主成分分析(PCA)」が行われました。主成分の具体的な内容は以下です。
PCAの主成分
  • 第1主成分:警戒行動起立・しっぽ挙上・しっぽ振りで増加/伏せで減少
  • 第2主成分:接近/退避行動犬舎の後方に陣取る・後方を向くで増加/犬舎の前方や寝床に陣取るで減少
 主成分分析の結果、蛍光照明と警戒行動の増加および接近/退避行動の減少との間に関連性が認められました(一般化推定方程式)。また蛍光照明下では特にストレスと関連した口周りの行動(あくび・唇なめ・歯をむき出す・歯をカチカチ鳴らす・パンティング)の出現頻度がLEDより高かったといいます(4.71%>3.05%)。
 一方、照明と非ストレススコアとの間に統計的な関係性は認められなかったものの(線形回帰)、音楽との間に負の関係が認められました。
 室内の平均騒音レベル(dB)に関しては照明の種類に関わらず室内に人がいるときの方が高いこと、およびLED照明よりも蛍光照明の方が高いことが判明しました。
The Impact of Fluorescent Light on Shelter Dog Behavior (Canis lupus familiaris)
Wilson, Kristiina J., CUNY Academic Works

照明をLEDに変えるべき理由

 蛍光照明下にあるとき、「警戒行動」という言葉に集約される各種の行動頻度が高まることが明らかになりました。警戒行動とストレス行動がぴったり重なり合うわけではないため「蛍光灯で犬のストレスが増す」という結論に飛びつくことはできませんが、少なくとも蛍光灯の光(おそらくはフリッカー)が犬の行動様式に影響を及ぼす可能性は十分にあるようです。

蛍光灯は犬のストレス?

 蛍光照明のときでだけ増加が認められた「起立」は急性ストレスや興奮状態を強く示唆する行動です。またストレス行動に分類される口周りの動作(あくび・唇なめ・歯をむき出す・歯をカチカチ鳴らす・パンティング)は蛍光照明のときでだけ増え、鳴き声などから構成される室内の平均騒音レベルも蛍光照明のときに高くなりました。
 こうしたデータから考えると、LEDと比べて蛍光灯には犬の覚醒度を高める作用があるように思われます。

フリッカーによる健康被害

 蛍光灯で不快感を抱く人の臨界フリッカー融合率(CFF)は50~60Hzとされており、蛍光灯およびそこに含まれるフリッカーによる健康への悪影響に関してたくさんの報告例があります。具体的には頭痛、疲労、視覚的ストレスなどです。
臨界フリッカー融合率
臨界フリッカー融合率(CFF)とは1秒間に認識できる点滅の最大数のこと。例えばCFF50という場合、1秒間に挟まれる50回の暗転を視認できるという意味。人間におけるCFFは50~60Hz、猫は58Hz、犬は80Hz程度と推定されている。
 また閾下認識(自分自身では認識できないものの、脳のレベルでは認識できる刺激)による影響も無視できません。蛍光灯(フリッカー)によるサブリミナル効果の例としては紫外線暴露に類した目の異常、てんかん発作、不安、偏頭痛、パニック発作などが挙げられ、以下のような無視できない報告もあります。
フリッカーによる悪影響?
✅CFFが高い人に蛍光灯下で筆記テストを受けてもらうと、スピードは早まるが正確性は落ちる+中枢神経の興奮指数が高まる
✅3~4歳の幼児にフリッカーフリーのLED下で授業を受けてもらうと集中力が増す
✅フリッカー率がCFFより低い蛍光灯(チカチカする蛍光灯)下で成人男女に問題解決タスクを与えると、リラクゼーションと熱意が低下し、解決までに要する努力が増加する
✅自閉症の子供では白熱電球より蛍光灯下のほうが反復行動や常同行動が増加する
 蛍光灯による影響は単純にCFFだけではなく周波数変調、振幅変調、光度、網膜上における光刺激の受信位置、波長、周辺光源の強さ、光源との距離、光源の大きさなども因子として関わっています。また受け手の変数として年齢、性別、疲労度、日内リズムがCFFに影響を及ぼすこともあります。
 人における事例を拡大して「蛍光灯で犬に健康被害が出る」とまでは断言できませんが、少なくとも今回の調査でLEDによる悪影響が認められませんでしたので、「フリッカーフリー」や「フリッカーレス」を謳ったLED照明への切り替えは検討しても良いかもしれません。ちなみに日本国内における蛍光灯のフリッカー周波数は、東日本が100Hz、西日本が120Hzです。
LEDにフリッカーがまったくないわけではありませんが、「フリッカーフリー」や「フリッカーレス」とついた商品ではフリッカー率がかなり低く抑えられています。犬が喜ぶ部屋の作り方